監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
祖父母の遺産分割協議をしないまま父母がなくなってしまい、子の代で祖父母の遺産分割協議と父母の遺産分割協議を併せて行うことは珍しくありません。
このような場合を数次相続といいますが、このような場合には、以下のような複雑な問題があります。以下、どのような問題があるのか解説していきます。
目次
数次相続とは
数字相続とは、遺産分割が終わる前に、相続人の内の1人以上が死亡することで、次の相続が発生した状況をいいます。
数次相続の具体例
具体的には、遺産分割協議が調う前に、被相続人の子である相続人が死亡してしまい、当該相続人の子(被相続人の孫)がさらに相続した場合等を言います。
この場合、被相続人の遺産分割協議については、被相続人の孫が参加することになります。
数次相続はどこまで連鎖する?
数次相続に法律上上限は設けられていません。そのため、祖父母、曾祖父曾祖母といった顔を知っている人の相続だけではなく、何世代も前の人の遺産の遺産分割協議について、遺産分割協議がなされていなければ、相続人としてかかわる可能性があります。
代襲相続と数次相続の違い
数次相続の場合には、上記のとおり、被相続人(Aとします。)が死亡した後、被相続人の相続人(Bとします。)が死亡し、当該相続人(B)の相続人(Cとします。)が被相続人(A)に対する相続権を相続する場合を言います。
この場合には、Cの立場は、Bの相続人であればBとの関係が配偶者か子か兄弟かは問いません。
一方、代襲相続は、「被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は(民法)第891条の規定に該当し、もしくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。
ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りではない」(民法887条)とされています。すなわち、代襲相続は、被相続人の直系卑属(子や孫等)に対してしか発生せず、また、その相続人と代襲者の関係性も親子であることが要求されます。
相次相続と数次相続の違い
数次相続は上記のとおりであるのに対して、相次相続とは、被相続人の死亡により遺産を相続した相続人が被相続人の死亡から10年以内に死亡し、新たな相続が発生した場合に受けられる税控除のことを言います。
数次相続の場合の相続手続き
数次相続が生じた場合にはどのように相続手続きをとるのかご説明します。
最初に生じた相続を「一次相続」、次に生じた相続を「二次相続」として説明します。
相続人を確定させる
一次相続の相続人と二次相続の相続人が重なることもありますが、必ずしも一致するわけではありません。
例えば、父母との間に、子供が二人(子A、子B)おり、それぞれに配偶者と子供が一人ずついる家族で、父が亡くなり(一次相続)、子Aが亡くなった場合(二次相続)、一次相続の相続人は、母、子B、子Aの配偶者とその子の4人が相続人となり、二次相続の相続人は、子Aの配偶者とその子の2人となります。
遺産分割協議を行う
相続人が確定したら、遺産分割協議を行います。
一次相続の被相続人の遺産について、一次相続の相続人間で遺産分割協議を行い、その後、二次相続の相続人間で遺産分割協議を行うことになります。
遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議が調ったら、遺産分割協議書を作成することになります。これについては、1通でまとめて作成することも、それぞれ2通にすることも可能です。
1通にまとめて作成する場合には、一次相続と二次相続で相続人としての重複する相続人としては、署名欄における肩書において、誰の相続人として署名押印しているのか明記する必要があります。
数次相続における登記手続き
所有権移転登記をする場合には、原則として、所有権の移転の経緯を順番に登記する必要があります。したがって、上記のような一次相続、二次相続が生じた場合に、父の土地を子Aの配偶者が取得した場合には、原則として、父→子A→子Aの配偶者の順番に所有権移転登記をすることになります。
しかし、一次相続の相続人が一人であった場合、一次相続において当該不動産を相続人の一人が相続した場合には、中間の相続人への移転の所有権移転登記を省略することができます(中間省略登記)。
数次相続において相続放棄する場合
相続放棄は、相続人となったことを知ったときから3か月以内に行うことが必要となります(相続放棄の熟慮期間)。
一次相続が生じた後、二次相続の被相続人が一次相続の相続人であることを知った後、3か月以上経過した後に死亡し、二次相続が生じた場合には、二次相続の相続人は、二次相続の被相続人の一次相続の相続人としての地位も併せて相続しており、二次相続発生前に相続放棄の熟慮期間は経過しているため、二次相続の相続人は、一次相続の相続放棄をすることは出来ません。
一次相続の相続をしたくない場合には、二次相続を相続放棄することで、二次相続の被相続人の一次相続の相続人としての地位ごと放棄するほかありません。
一方、一次相続の熟慮期間経過前に二次相続が生じた場合には、一次相続の熟慮期間内であれば、二次相続の相続人も一次相続のみを相続放棄することができます。この場合は、再転相続といいます。
数次相続の注意点
基礎控除額に変更なし
相続税は、相続した財産に対して課税されますが、相続税の内一定額分については、相続税が課税されないことになっています。この一定額を基礎控除額といいます。
基礎控除は、3000万円+(600万円×法定相続人の人数)で計算されます。
基礎控除は、相続が発生した時点での法定相続人の人数で決まるため、一次相続発生後、二次相続が発生したことにより相続人が増えたとしても基礎控除額は変わりません。
相続税の申告と納税義務が引き継がれる
数次相続が生じた場合には、一次相続の相続人であり二次相続の被相続人は、一次相続の遺産分割協議も、相続税申告も相続税の納税もしていないため、二次相続の相続人は、二次相続の相続税の申告及び納税と併せて一次相続の相続税の申告及び納税をする義務を負います。
相続税の申告期限は延長になる
相続税申告は、原則として被相続人が死亡したことを知った翌日から10か月以内となっています。
しかし、数次相続が発生した場合には、二次相続の相続人は、二次相続の被相続人が死亡したことを知った翌日から10か月に申告期限が延長されます。
相次相続控除が受けられる
数次相続の場合には、一次相続と二次相続の間が10年以内であり、二次相続の被相続人に一次相続の相続に関する相続税が課税されている場合には、相次相続控除(一次相続の相続税額の内1年につき10%の割合で遁現下後の金額を二次相続の相続税額から控除する制度)を適用される場合があります。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
数次相続は複雑なので弁護士にご相談ください
数次相続は、一次相続の遺産及び相続税の特定、二次相続の遺産及び相続人の特定をした上で、それぞれに遺産分割協議をする必要があり、その上、相続税の申告等税金の問題があります。
このような複雑な問題を何の知識もない状態で行うことは、後々問題が生じる可能性があります。そのため、専門家である弁護士にご相談の上、対応することをお勧めいたします。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)