監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
ご親族の方が亡くなられて、相続財産のなかに不動産がある場合、相続人の方は、相続登記をすることが必要となります。相続登記をせず、放置している場合には、不動産の帰趨に問題がなくとも、不利益等が生じてくることもあります。被相続人の財産を確認できない場合でも、知らずのうちに土地を相続していることもあり、思わぬ不利益を被ることがあります。以下では、相続登記に関して、注意が必要な点や相続登記をめぐる問題点などについて、手続きを含めてご説明いたします。
相続登記とは
相続登記とは、不動産の所有者が亡くなった際に、新たに相続や遺言書による遺贈により、その不動産の所有者になった相続人や受遺者(遺言書によって不動産を取得する方のこと)へ、登記上の所有者の名義を変更する手続きのことです。
相続登記には、期限はありませんし、相続登記をしなかった場合でも、罰則等があるわけではありません。しかし、法改正により、相続登記が義務化されました。義務化に伴う注意点についても、ご説明いたします。
相続登記の手続き方法
相続登記の手続きの際には、必要書類が多岐にわたります。また、所有者が被相続人かによって、
不動産の所有者を確認する
問題となっている不動産が、被相続人が所有しているのでなければ、相続の対象となりません。ただし、被相続人のご両親が所有者となっていて、ご両親がなくなっている場合には、ご両親の相続と被相続人の相続を経て不動産を相続することになります。そのため、不動産の所有者が被相続人であることを確認しておく必要があります。これは、法務局で、登記事項証明書を取得することで確認できます。登記事項証明書の取得には、地番・家屋番号が必要となります。この地番・家屋番号については、納税通知書によって確認することができます。
また、名寄帳により、他に不動産がないか確認することができます。名寄帳は、課税対象となっている固定資産(土地・家屋)を所有者事に一覧表にまとめたものです。名寄帳の取得には、本人確認が必要となりますので、運転免許証や被相続人との関係がわかる戸籍謄本が必要となることもあります。
必要な書類を集める
相続登記には、被相続人との関係がわかる書類などが必要になります。遺言書等の有無によって必要書類が異なってきますので、以下、それぞれの場合において、ご説明いたします。
遺言書がない場合
- 被相続人の戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍など被相続人の出生から死亡までが記載された戸籍
- 被相続人の住民票の除票又は戸籍の附票
※登記簿上の住所の記載及び本籍の記載のある住民票が必要です。被相続人の最後の氏名及び住所が登記記録上の氏名及び住所と異なる場合や被相続人の本籍が登記記録上の住所と異なる場合には、被相続人が登記記録上の登記名義人であることがわかる被相続人の本籍の記載のある住民票の除票又は戸籍の附票の写しが必要となります。 - 相続人全員の戸籍謄本
※法定相続情報証明制度をご利用いただいている場合には、被相続人の出生から死亡までの経緯の記載がわかる戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)又は除籍全部事項証明書(除籍謄本)並びに相続人であることがわかる相続人の戸籍全部事項証明書(戸籍謄抄本)の添付にかえることができます。 - 新たに名義人となる方の住民票
- 名義変更する年度の固定資産評価証明書
- 相続関係説明図(戸籍謄本などの原本を返却のために必要になります。)
- 遺産分割協議書(法定相続分以外の割合で名義変更をする場合)
遺産分割協議書の提出が必要となる場合には、相続人全員分の印鑑登録証明書が必要となります。
※必要書類がそろわない場合には、不在籍証明書、不在住証明書、登記済権利証といった書類が必要となることがあります。
遺言書がある場合
遺言書がある場合、遺言書、被相続人が死亡した事実がわかる被相続人の戸籍全部事項証明書が必要となります。ただし、遺言書により、対象となる不動産を譲り受けることが明らかですので、被相続人の出生から
なお、遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。自筆証書遺言の場合には、裁判所で検認が必要になります。公正証書遺言の場合には、検認が不要です。
相続関係説明図、登記申請書を作成する
相続関係説明図は、相続登記の際に必要な書類を返却してもらうために必要となります。
上記のように、相続登記の際には、戸籍謄本の原本が必要となります。戸籍等の必要書類の収集自体については、難しくはありませんので、一見して、原本の返却が必要ではないとも考えられるかもしれません。しかし、相続の際には、他の不動産の登記、預貯金等の際などにも、戸籍謄本等の書類が必要となります。また、遠隔地の場合には、必要書類をその都度郵送手続き等により取得することも必要となります。
戸籍等の返却を受けるためには、コピーを一緒に提出することで、後程原本の返却を受けることもできますが、逐一、コピーを取っておく必要があります。この手間が、手間とならない方であれば、あまり気にされる必要はありませんが、相続人の方が多く、結婚や再婚を繰り返しているような方がいらっしゃる場合には、戸籍謄本が複数必要となることがあります。このような場合には、コピーの手間が増えることになりますし、漏れがあると、返却の確認にも手間がかかることがあります。
相続関係説明図を提出することにより、何通も戸籍謄本等の書類を取得しておく必要がなくなるという簡便さがあります。
相続人関係図は、被相続人と相続人との関係性を示す図です。そのため、相続人関係図の作成自体も簡潔に済ませられます。
必要書類を整えたうえで、登記申請書を記載します。
登記申請書には、「原因」、「相続人」、「連絡先の電話番号」、「申請日」、「課税価格」、「登録免許税」、「不動産の表示」などを記載する必要がります。
「不動産の表示」には、登記の申請をする不動産の土地の所在、地番、地目、地積(建物の場合には、建物の所在、家屋番号、種類、構造及び床面積)等の記載を、登記簿謄本に記載されたとおりに、正確に記載する必要があります。なお、不動産番号を記載した場合には、土地の所在、地番、地目及び地積(建物の所在、家屋番号、種類、構造及び床面積)の記載を省略することができます。不動産番号も、登記簿謄本によって確認することができます。
申請書は、A4の用紙を使用するなど、形式が指定されています。申請書が複数枚にわたる場合には、各用紙のつづり目に必ず契印を押しておく必要があります。
法務局へ申請する
相続申請書や必要書類を整えられましたら、法務局に申請することができます。
郵送申請を行うことも可能です。その際には、申請書を入れた封筒の表面に「不動産登記申請書在中」と記載をする必要があります。
また、戸籍謄本等の原本の返却や登記完了証の郵送を希望される場合、郵送で返却をしてもらうこともできます。この場合、宛名を記載した返信用封筒及び書留郵便のための郵券を同封しておく必要があります。
必要書類を提出された際に、記載漏れた必要書類の不測などの不備がありましたら、追完などのために、申請した方に連絡(登記申請書記載の電話番号)があります。追完等が出来ない場合には、相続登記ができませんので、注意が必要です。
登記識別情報を受け取る
相続登記が完了すると、登記識別情報が受け取れます。登記識別情報は、申請した方にのみ、発行されます。
登記識別情報は、土地の権利証の代わりとなる書類です。土地の売却にも必要な書類ですので、厳重に管理していただく必要があります。
登記識別情報の通知を希望しない場合には、登記申請書にチェックをする欄があります。ただし、登記識別情報の通知を希望しない場合、後から発行の申請をすることも認められませんので、注意が必要です。
相続登記を行った場合に掛かる税金は?
相続の際に、相続税がかかりますが、相続登記を行うと、登録免許税がかかります。
登録免許税は、不動産の価額に対して、0・4パーセントです。
ただし、一定の場合には、登録免許税の免税措置を受けることができます。一定の場合とは、相続により土地を取得した個人が登記をしないで死亡した場合と少額の土地を相続した場合です。
相続により土地を取得した個人が登記をしないで死亡した場合とは、Aさん名義の土地があり、Aさんが亡くなって、Bさんが相続しても、BさんがAさん名義の土地の相続登記をしない場合に、Bさんが亡くなった場合、Bさんの相続人のCさんが、AさんからBさんに相続したことを登記する場合です。
少額の土地を相続した場合とは、行政目的のため相続登記の促進を図る必要があると法務大臣が指定する土地で、固定資産税の課税台帳の価格が10万円以下である場合です。法務大臣の指定がある土地か否かなどの詳細については、お近くの法務局にお問い合わせください。
免税については、適用期間として、令和4年3月31日までと期限がありますので、ご注意ください。
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相続登記の期限
これまで、相続登記に期限がありませんでした。しかし、令和3年4月の法改正により、不動産の相続登記が義務化されることとなりました。これは、令和6年4月1日から制度として始まります。
新しい制度では、不動産の相続を知ってから3年以内に相続登記の申請をしない場合に、10万円以下の過料が科せられることとなります。ただし、正当な理由がない場合に限られていますので、例えば、関係者多数などの事情により、必要な資料の収集が難しい場合には、罰則の対象となりません。
相続登記で問題になりやすいケース
相続登記手続きを放置した場合
長期間放置するほど、登記が難しくなる
相続登記には、遺言書がある場合を除いて、他の相続人の皆さんの協力が必要となります。
相続登記を放置すると、相続人のなかで亡くなった方が出てくると、亡くなった方の相続人の協力を得なければ、相続登記ができなくなります。そのため、代をまたいで長期間相続登記を放置するとなると、登記に協力してもらわなければならない人が増えますので、協力を必要とする方がどこにいるのかなどから確認する必要があり、煩雑になります。
相続登記せず住み続けた場合
被相続人の配偶者の方は、一定の要件を満たすことにより、居住をすることができます。
配偶者以外の方が居住を継続する場合、他の相続人から、地代相当額の請求を受けることがありますので、注意が必要です。
相続登記を放置しているとできなくなることがある
不動産にある抵当権の抹消登記をすることは、お一人でもできます。
自身で相続財産のうちの不動産を譲りうけたにもかかわらず、相続登記を放置していると、自身で不動産を売ることができず、他の相続人の協力がなければ売却をできません。また、相続された不動産を担保として融資を受けることもできません。不動産を第三者に貸したりする際にも、他の相続人の同意がなければできないなどの制約を受けます。
共有名義で相続登記した場合
後から共有関係を解消する場合に、費用が高額になる
共有名義での相続登記をすることもできます。その後、共有関係を解消するには、共有物分割の手続きが必要になります。共有関係の解消の仕方には、一定の金銭を支払って共有関係を解消するなどの手続きが必要となりますし、共有関係解消の登記のために、登録免許税もかかることがあります。これにより、高額な費用がかかってくることがあります。
売却等、処分をするときに手間がかかる
共有名義となると、共有名義となっている方々の全員の協力がなければ、上記のように売却手続きをすることができません。売却のためには、共有者の方に協力をしてもらうなどの手続きが必要となります。買取希望をされる第三者の方も、共有持ち分のみを買い取ろうとすることは少ないので、他の共有者が、売却に難色を示した場合には、説得などの手間がかかることになります。
このように、共有名義での相続登記をした場合には、手間がかかることになりますので、遺産分割などで、相続人のうちの一人が名義人となるように進めておくことが良いです。
相続登記のお悩みは弁護士にご相談ください
これまで、ご説明しましたように、相続登記を放置した場合には、煩雑となることがありますし、思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。
相続登記の際に、相続人となっている方を確認するなどの煩雑な手続きも必要になりますが、このような手続きを弁護士としてお手伝いできることもありますので、お困りの際には、遠慮なく、ご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)