
監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
自分が亡くなったときに大切な人が困らないようにと生命保険に加入しているということはよくあります。
生命保険金は、被保険者が亡くなった際に受給できるようになるものですが、これは遺産相続や相続税の中ではどのように扱われることになるでしょうか。
ここでは、生命保険金が相続財産の対象となるか否か、課税対象になるか否かなどに関してご説明をしていきます。
目次
生命保険金は相続の対象になる?
生命保険金は、基本的に、受取人の固有の財産となると解されています。
これは、生命保険の受取人を具体的に指定している場合のみならず、受取人を「相続人」と定めていた場合でも同じです。
一方で、受取人を被保険者自身に指定していた場合には、生命保険金は、被保険者の相続財産に帰属するというのが一般的な理解です。
そのため、この場合には、生命保険金も相続の対象となります。
生命保険金を請求できるのは「受取人」として指定されている人
生命保険金を請求できるのは、受取人として指定されている者です。
例えば、具体的に受取人が指定されている場合には、指定された受取人が生命保険金を請求することができます。また、受取人を「相続人」と定めた場合には相続人が生命保険金を請求する権利を有します。
上記のとおり、受取人を被保険者自身と指定した場合には、生命保険金も相続財産となります。この場合、相続によって、被保険者の相続人が生命保険金を受け取る権利を得ますので、当該相続人が生命保険金を受け取ることができます。
受取人が既に亡くなっている場合
受取人として指定された者が、被保険者よりも先に亡くなっているという場合が考えられます。この場合、受取人の変更をしていれば、新たに指定された受取人が生命保険金を受給することができます。
では、受取人の変更をしないままにしていた場合はどうでしょうか。
これに関し、保険法46条は、「保険金受取人が保険事故の発生前に死亡したときは、その相続人の全員が保険金受取人となる」と定めています。
これと異なる約款がある場合は、その約款に従うことになりますが、そのような約款がなければ、受取人が先に死亡していた場合、その受取人の法定相続人全員が生命保険金の請求をする権利を有します。
受取人が指定なしの場合
被保険者が受取人を指定していない場合でも、保険会社の約款によって受取人が指定されている場合には、指定された者が受取人となります。
この場合には、指定された者が生命保険金を請求することができます。
一方で、約款によっても受取人が指定されていない場合には、被保険者の財産になると考えられ、相続によって被保険者の相続人が生命保険金の受給権を取得します。
生命保険金の請求に必要な書類
生命保険金の請求に必要な書類としては、次のようなものがあります。
- 保険金請求書
- 死亡診断書・死体検案書
- 被保険者の住民票
- 受取人の戸籍謄本
保険金請求書は、各保険会社の書式がありますので、保険会社から取り寄せる必要があります。
死亡診断書・死体検案書は、死亡を確認した医師に作成をしてもらうことができます。そのほか、被保険者(亡くなった方)の住民票及び受取人の戸籍謄本は役所で取得できます。
生命保険金を受け取るための手続き
生命保険を受け取るためには、手続きを取る必要があります。
ここでは、大まかな流れを説明していきます。なお、具体的な手続きについては、ご契約の保険会社にご確認ください。
生命保険会社に連絡を取る
当然ですが、保険会社は、親族等からの連絡がないと、被保険者が亡くなったことを知ることができません。そのため、まずは保険会社に連絡を取り、契約者が亡くなったことを伝え、生命保険金を受け取るための手続きに関して確認しましょう。
請求手続をする
保険会社への連絡後、必要書類等の案内や申請書類の送付がなされると思います。その案内に従い、申請書を作成して提出することで請求手続きを進めることができます。
また、申請に際しては一定の資料が必要となります。代表的な資料は、上記でも記載をしましたが、保険会社の案内に従って、必要資料を集めて、申請書と一緒に提出しましょう。
生命保険会社の審査
保険会社への申請を行うと、保険会社において、保険契約の内容に照らして、保険金を支払うべき状況かの審査が行われます。特約がある場合には、災害死亡保険金の支払い対象となるかといった点も審査がなされます。
生命保険金の受け取り
保険会社の審査によって、保険金を支払うべき状況と判断されれば、保険金が支払われることになります。支払いに関しては、保険会社から明細が届きますので、その明細で受取内容を確認することができます。
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生命保険金は3年以内に請求しましょう
保険金を請求できる権利は、権利を行使することができる時から3年で消滅時効にかかります。
つまり、被保険者が亡くなって3年を経過すると生命保険金を受け取ることができなくなる可能性があります(ただし、かんぽ生命は、時効成立後2年間は時効を援用しないとしています。そのため、被保険者が亡くなって5年間は生命保険金を受け取ることができます。)。
長期間放置をすると、受け取れるはずだった生命保険金が受け取れなくなる可能性がありますので、お早めに手続きを進めた方が良いでしょう。
生命保険金は相続放棄しても受け取れる
上述したとおり、生命保険から支払われる死亡保険金は、遺産分割の対象ではなく、受取人が受け取れる固有の財産です。
相続放棄をすると、相続人の地位を失い、その結果として被相続人の遺産を受け取ることができなくなりますが、死亡保険金は、そもそも遺産ではありませんので、相続放棄をしたとしても受領する権利を失いません。
そのため、相続放棄をしたとしても、死亡保険金を受領することが可能です。
ただし、上述のとおり、生命保険金の受取人が被保険者自身であったなどの場合には、その生命保険金は相続財産に当たります。この場合には、相続放棄をするとその受給権も失うことになりますので注意が必要です。
生命保険金の受け取りに税金はかかる?
生命保険金に対しては、その状況に応じて異なる税金が課せられます。
以下では、状況に応じて、どのような税金が課されるかをご説明いたします。
契約者と被保険者が同じ人で、受取人は相続人
契約者(保険料の負担者)と被保険者が同じ人で、受取人が相続人となっている場合には、相続税の対象となります。
上記のとおり、受取人の指定がある場合には、生命保険金は相続財産の対象にはなりません。しかし、相続税の世界では、この場合でも、生命保険金を相続財産の一つとして相続税を計算します。
民法(遺産分割)と相続税法の世界では、生命保険金の取り扱いが異なっていますので、区別して考えるのが良いでしょう。
なお、受取人が相続人の場合には、500万円×法定相続人の非課税枠が設けられています。
契約者が受取人
契約者(保険料の負担者)が受取人の場合には、生命保険金は、受取人の一時所得として扱われ、所得税が課されます。
例えば、夫が妻を被保険者とする生命保険の保険料を支払っており、受取人を夫と定めた場合に、妻が亡くなって夫が生命保険金を受領した場合が、これに当たります。
ただし、生命保険金を受け取るために掛かった費用(保険料)のほか50万円の控除があります。生命保険金がこれを越えない場合には、税金はかからないことになります。
契約者と被保険者と受取人がすべて違う人
契約者(保険料の負担者)と被保険者、受取人が全て違う場合には、贈与税が課されます。
例えば、上述の例と少し異なり、夫が妻を被保険者とする生命保険の保険料を支払っており、受取人を子と定めた場合を考えてみます。
この場合、契約者(保険料の負担者)が夫、被保険者が妻、受取人が子となりますので、妻が亡くなって子が生命保険金を受領した場合には贈与税が課されることになります。
なお、贈与税には110万円の基礎控除がありますので、これを超える部分に課税されます。
相続の手続でお困りなら、弁護士への相談がおすすめ
ここでは、生命保険に関してご説明をいたしました。
上述したとおり、生命保険金は、受取人の指定の有無などによって相続財産に含まれるか否かなどが変わってきます。また、ここでは触れていませんが、生命保険金が特別受益に当たるのかといった問題もあります。
生命保険金を含め、相続の手続きでお困りのことがありましたら、弁護士に相談していただくことをお勧めします。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)