
監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
亡くなられた方がおられる場合、基本的には、相続人が遺産を受け取るなどの手続きをしていきます。もっとも、相続人がいない場合には、特別な関係にある方が、財産を受け取ることが出来る場合があります。
実際に、どのような場合に受け取ることが出来るのか、どうすれば受け取ることができるかなど、悩まれることも多いと思います。そこで、詳しく説明していこうと思います。
目次
特別縁故者とは
特別縁故者は、民法上、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他相続人と特別の縁故があった者(民法958条の2)と定められています。
被相続人と特に親しい関係にあるような方です。特別縁故者に該当すると認められれば、相続財産から相続債務の支払いや遺贈等の清算後の残余財産が遺産の一部又は全部が分配されます。
ただし、あくまで、特別縁故者が遺産の分配を求めることが出来るのは、法定相続人が存在しない場合に限られています。被相続人の配偶者、子、両親などの直系尊属、兄弟姉妹といった相続人がいない場合やこれらの者全員が相続放棄をしている場合です。また、分配を求めないような場合には、国庫に帰属することになります。
特別縁故者になるための要件は民法で定められている
特別縁故者と認められる要件については、民法上では、
- 亡くなった人と生計を同じくしていた
- 亡くなった人の療養看護に努めた
- その他亡くなった人と特別の縁故があった
のいずれかに該当する場合定められています。それぞれ、具体的にどのような場合に、該当すると認められるのか、解説していきます。
亡くなった人と生計を同じくしていた
亡くなった人と生計を同じくいていた人は、内縁配偶者や事実上の養子などが該当します。事実上の養子としては、例えば、養子縁組の約束をしていたり、長期にわたって同居しているような場合です。
被相続人の叔父や叔母にあたる方は相続人ではありませんが、生計を同じくしていたと認められれば、特別縁故者として分与を受けられます。
内縁関係にあるような場合でも、重婚的内縁配偶者に該当する方の請求については、裁判例において否定されていますので、注意が必要です。
亡くなった人の介護をしていた
亡くなった人と生計を同じくする人以外で、亡くなった人の介護をしていた人と認められる場合には、特別縁故者に該当して、分与請求が認められることがあります。
裁判例では、被相続人の生前の介護を尽くし、死後の葬祭一切を執り行い、相続財産の管理事務を行ってきた5親等の血族関係に当たる人を特別縁故者と認定しています。
親族関係にない場合でも、雇人や家政婦についても、特別縁故者として認められるケースがあります。ただし、仕事の範囲を超えて、親しい関係にあることや信頼が寄せられていることが必要となってきます。
亡くなった人と特別の縁故があった
亡くなった人と生計を同じくする人や亡くなった人の介護をしていた人以外でも、生計を同じくする人や介護をしていた人に準じる程度に、「被相続人との間に具体的かつ現実的な精神的・物質的に密接な交渉のあった者で、相続財産をその者に分与することが被相続人の意思に合致するであるとみられる程度に特別の関係にあった者」であれば、「特別の縁故があった者」に該当と認められることがあります。
裁判例では、被相続人との密接な関係性にあったことが前提となりますが、
- 実親を亡くした被相続人の父親代わりとしての役目をはたしてきた、被相続人の従兄
- 被相続人を自宅に住まわせて一時生計をともにして面倒を看ていただけでなく、多額の資金援助をするなどしていた、被相続人の叔母
- 被相続人の生前に長期にわたってその生活の世話をしていた、勤務先の代表取締役
などが、特別縁故者として認められています。また、被相続人が作成した、申立人に相続財産を包括遺贈する旨のメモを書き残していることを考慮している例もあります。
法人でも認められるケースがある
特別縁故者は、個人でなければならない、ということではありませんので、法人や団体でも、特別縁故者として認められることがあります。
介護老人ホームは、通常、施設利用料を受け取っていますが、施設利用料が、介護サービスの程度や内容に比較して低額であると評価できるなどの事情を踏まえて、特別縁故者に該当するか否かの判断がされています。
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取得できる財産の割合は亡くなった人との関係によって変わる
特別縁故者に該当する場合、どのような割合、どのような相続財産の取得ができるのでしょうか。
具体的な基準については、明確に定まっておらず、縁故関係の内容、縁故の濃淡・程度、縁故者の性別、年齢、職業、教育程度、相続財産の種類、数額、状況、所在など様々な事情を踏まえて、裁判所が割合や分与する相続財産を定めます。
不動産は取得できる?
相続財産については、基本的に、換価されて、被相続人の債務の弁済に充てられた後、特別縁故者に対しては、換価された残存財産が分配されます。
上記のとおり、縁故関係など様々な事情をもとに、不動産の分与が相当と裁判所が判断した場合には、不動産の取得ができる場合があります。
なお、後述の手続に関して説明しますように、期間の経過により換価されることもありますので、この点に関しても、注意が必要です。
遺言は分与の割合に影響する?
特別縁故者に対する分与は、あくまで、遺言の補完的な位置づけとされています。このため、遺言書が存在する場合、遺言書による相続財産の分配(遺贈)を経ても、なお、残存財産がある場合に、特別縁故者に対して分配されます。
このため、遺言書が存在する場合には、特別縁故者に対する分与の割合に影響してきます。
特別縁故者になるために必要な手続きは?
相続財産管理人選任の申立てが必要
特別縁故者として分与がされるには、相続財産の清算人の選任の申立てをして、相続財産の清算人による清算手続きを経て行われます。このため、特別縁故者として財産分与の申立てをするには、相続財産の清算人の選任の申立てを行う又は相続財産の清算人の選任の申立てがされていること必要です。
相続財産の清算人の選任は、利害関係人又は検察官の申立てによって、裁判所が行います(民法952条第1項)。選任の申立てに際して、候補者を挙げて、適切と考える方を清算人とするよう裁判所に求めることもありますが、あくまで、適切と裁判所が判断する者が相続財産の清算人に選任されます。相続財産の清算人には、弁護士や司法書士などの専門家が選任されることもあります。
特別縁故者の申し立てができるようになるまで10ヶ月はかかる
特別縁故者として財産分与の申立てを行うまでは、
- ① 相続財産清算人の選任の公告
- ② ①から2か月後、相続債権者・受遺者に対する請求申出の催告の公告
- ③ ②から2か月後、相続人探索の公告
- ④ ③から6か月後、3か月以内に、特別縁故者の財産分与の申立て
の流れとなります。このため、特別縁故者の財産分与の申立ては、①から③までの10か月の経過後となります。
特別縁故者の申し立て方法
必要な書類
特別縁故者として財産分与を申立てるには、申立書、特別縁故者と主張する人の住民票又は戸籍の附票を提出する必要があります。他にも、印紙800円、郵便切手が必要となります。
特別縁故者だと証明するために必要なもの
特別縁故者であることが認められるには、前述のとおり、
- 亡くなった人と生計を同じくしていた者
- 亡くなった人の療養看護に努めた者
- その他亡くなった人と特別の縁故があった者
のいずれかに該当することが必要とされています。
特別縁故者として、いずれに該当するかによっても変わってきますが、特別縁故者に該当することを主張するために、預貯金通帳、介護など被相続人のために支出したことを示す領収書、手紙・メールなどの被相続人とのやり取り、写真などが証拠として挙げられます。
申立先
特別縁故者への財産分与の申立てをする際の申立先の裁判所は、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です。
特別縁故者の申し立て期限は?
特別縁故者への財産分与の申立ては、前述のとおり、相続人探索の公告後、3か月以内となります。申立て期限の3か月を経過した後に財産分与の申立てをしても、却下されて受け付けられませんので、注意が必要です。
なお、6か月の相続人探索の公告の期間中であっても、特別縁故者の財産分与の申立てができる場合があります。
特別縁故者にかかる税金
特別縁故者への財産分与の制度により財産を与えられた場合には、その特別縁故者は、遺贈により取得、つまり、遺言書によって財産を取得したとみなされて、相続税が課税されます(相続税法第4条)。
相続税の申告の際には、通常、基礎控除額を相続人の人数を踏まえて計算しますが、特別縁故者に対する財産分与の制度により財産を取得した場合には、相続人が他にいませんので、相続人の数を0とし、基礎控除額を3000万円として計算します(相続税基本通達15-2)。
また、具体的な相続税額の算出にあたって、特別縁故者は、被相続人の一親等の血族、配偶者には該当しませんので、相続税額は、2割加算されます(相続税法第18条)。
申告期限は、特別縁故者に対する財産分与の審判により相続財産の全部又は一部を与えられたことを知ってから10か月以内とされています(相続税法第29条)。
特別縁故者に関する裁判例
財産分与が認められた裁判例
特別縁故者であることが認定されて、財産分与が認められた裁判例として、東京家庭裁判所の昭和47年6月13日の審判例が挙げられます。
同審判例において、裁判所は、以下のような事実関係を考慮して、特別縁故者に該当すると判断しました。
失業対策事業の日雇人夫として稼働している者同士として、被相続人と申立人(特別縁故者への財産分与の申立てをした人)が知り合い、天涯孤独になった被相続人から申立人に対して、「寂しいから一緒に暮らしてほしい」と言われ、昭和33年7月頃から被相続人が所有する住宅で同居し、被相続人が亡くなるまで、生計をともにし、被相続人が亡くなった後も、申立人は、上記住宅に居住継続していました。
申立人は、被相続人との同居から半年間、自ら自炊し、申立人自身と被相続人の食事を作っていましたが、その後は、それぞれ外食するようになりました。被相続人は、知能程度が低く、金銭管理能力が無いため、申立人が代わって金銭管理を行っていました。
申立人は、被相続人の収入を被相続人名義で預金し、また、申立人自身の衣類と一緒に被相続人の衣類の洗濯もしていました。
被相続人は、昭和33年4月頃に40日間入院し、この期間、申立人は、被相続人の衣類の洗濯、食事の差し入れ、療養看護に努めました。
このような事実関係をもとに、裁判所は、昭和33年から被相続人が亡くなる昭和45年まで、申立人と被相続人が生計を同じくしていたこと、療養看護に努めていたことを認め、特別縁故者に該当すると判断しました。
そのうえで、裁判所は、申立人に対し、残余財産の全て(住宅と現金94万程度)を与えることが相当と判断しました。
特別縁故者だと認められなかった裁判例
特別縁故者に該当しないとして、平成26年1月15日の東京高等裁判所の判断が挙げられます。
申立人は、被相続人の従姉の養子ですが、裁判所は、申立人との関係性について、被相続人が申立人の本籍地を訪れることがあったこと、被相続人の死後に被相続人の法要や被相続人宅の庭木・草木の伐採・清掃等をして一定の労力や費用をかけ、今後も同様に継続する意思を有しているということを認定しつつ、生前の身分関係や交流、被相続人の境遇・被相続人の死後の貢献を検討しても、申立人と被相続人との生前の交流の程度をふまえても、特別の縁故があった者に該当しないと判断しました。
特別縁故者の申し立てをお考えの方は弁護士にご相談ください
特別縁故者であることを主張して財産の取得を求める場合、特に、特別縁故者に該当するか否かが問題となります。
特別縁故者に該当するか否かは、被相続人の関係性をどのように示していくか、証拠としてどのような物が必要となるか、証拠を踏まえて、どれだけ裁判所に対して説得的に訴えられるか、という点をクリアしていくことが必要です。また、申立ての期限の管理も必要となります。
具体的にどのように動いていくか、悩まれている際には、手続の進め方や必要な証拠の準備などについて、お手伝いできるかと思いますので、一度、弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)