監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
結婚後、「相手と性格が合わない・・・」と悩まれる方は少なくありません。そのようなストレスや相手への不満が募り、離婚に至ってしまうケースも多いのが現実です。
とはいえ、法的な婚姻関係はそう簡単に解消できるものではありません。特に性格の不一致による離婚の場合、相手ともめたり、裁判でも認められにくかったりするリスクがあるため、十分対策してから臨む必要があります。
本記事では、性格の不一致で離婚を検討されている方に向け、適切な準備や手続きの進め方等を解説していきます。焦って踏み出すと不利な結果になりかねないため、しっかり確認しておきましょう。
目次
性格の不一致で離婚することはできるのか
性格の不一致で離婚することはできますが、そのケースは限られています。
まず、夫婦が離婚に合意している場合です。夫婦の合意さえあれば、離婚理由を問われることなく離婚できます。
なお、夫婦が合意できない場合、裁判所に法的に離婚を認めてもらうという方法もあります。ただし、裁判所は夫婦のさまざまな事情を考慮して離婚の可否を判断するため、必ず認められるわけではありません。この点、詳しくは次項でご説明します。
性格の不一致とは
そもそも性格の不一致とは、“性格や価値観の違い”のことをいいます。例えば、
- 金銭感覚にズレがある
- 子供の教育方針が合わない
- 趣味が合わない
- 相手が神経質だったり、無神経だったりする
- 宗教観や政治思想が違う
といったことが挙げられます。
性格の不一致は、離婚の原因として最上位です。例えば、令和元年に離婚調停を申し立てた方のうち、男性の“約60%”、女性の“約39%”が性格の不一致を動機としています※。
夫婦といえども赤の他人であることに変わりありませんから、多少性格が合わないことは仕方ありません。しかし、長年の夫婦生活で募った不満に耐えられず、離婚を決断するにまで至るパターンが多いようです。
※参考:令和元年度司法統計「婚姻関係事件数 申立ての動機別申立人別 全家庭裁判所」
法律が定める離婚原因とは?
裁判所によって法的に離婚を認めてもらうには、以下の「法定離婚事由」のうちいずれかに該当する必要があります。
- 不貞行為
- 悪意の遺棄(夫婦関係を意図的に破綻させること)
- 3年以上の生死不明
- 回復見込みがない重度の精神病
- その他婚姻を継続し難い重大な事由
性格の不一致は、このうち「その他婚姻を継続し難い重大な事由」にあたる可能性があります。そのための要件について、以下で確認していきましょう。
性格の不一致で離婚する場合に必要な要素
性格の不一致が「婚姻を継続し難い重大な事由」にあたるには、“夫婦関係が破綻しており、回復の見込みがないこと”を証明する必要があります。具体的には、以下のような準備を行っておきましょう。
ただ「相手の性格が気に入らない」「夫婦仲が悪い」と主張しても離婚が認められる可能性は低いため、しっかり対応することが重要です。
夫婦関係が破綻した証拠を集める
まず、夫婦関係が破綻していることがわかる客観的な証拠を集めましょう。このとき、夫婦仲を回復させるためにどんな努力をしたかも伝わると効果的です。例えば、以下のようなものが証拠になり得ます。
- 喧嘩の様子がわかる映像や音声データ、手紙
- 身体的、精神的暴力を受けた際の診断書
- 夫婦の状況をよく知る人の陳述書
- 夫婦関係が悪化した経緯を記録した日記やメモ(自筆ではなく、携帯電話のメモに記録したものでも構いません)
ただし、後にご説明するように、相手方の暴力等がない場合には、性格の不一致による離婚を裁判で認めてもらうには、ほとんどの場合において、長期間の別居が必要となることに注意が必要です。
長期間の別居
“長期間継続して別居している場合”も、夫婦関係の破綻が認められる可能性があります。
不貞や暴力等がないケースで、判決による離婚を認めてもらうためには、原則、この長期間の別居が必要となります。
長期間の別居の目安は、一般的に“2~3年”とされています。ただし、同居期間や子供の有無等も踏まえて判断されるため、具体的な期間はケースバイケースといえます。
別居期間の証拠としては、異動後の住民票や賃貸物件の契約書等が有効です。
また、別居前からすでに夫婦仲が相当悪化していたと証明できれば、比較的短い別居期間でも離婚が認められる可能性があります。そのため、別居に至るまでの経緯を記録した日記やメモも証拠になり得るでしょう。
ただし、単身赴任や両親の介護など正当な理由がある場合、基本的に別居とみなされないためご注意ください。
性格の不一致での離婚の進め方
離婚時は、まず夫婦で話し合い「協議離婚」の成立を試みます。
夫婦が合意できない場合、家庭裁判所に「離婚調停」を申し立て、調停委員を挟んで話し合います。
さらに、調停でも折り合いがつかなければ「離婚裁判」を申し立て、裁判所が最終判断を下すことになります。しかし、裁判で有利になる資料を揃えたり、法的根拠に基づいた主張を行ったりするには専門家のサポートが必要です。お早めに弁護士への相談をご検討ください。
離婚の切り出し方やタイミング
相手との話し合いをスムーズに進めるためにも、離婚の切り出しは慎重に行いましょう。
例えば、性格の違いを感じる場面や将来の不安を具体的に伝え、離婚の意思が固いという姿勢をみせることが重要です。
なお、面と向かって切り出す自信がない方は、手紙やメールで切り出しても構いません。ただし、一方的に相手を非難したり、過激な表現を使ったりすると、かえって話し合いがこじれるおそれがあるため避けましょう。
また、“相手が離婚を受け入れやすい時期”を見計らって切り出すのもポイントです。例えば、
- 相手の定年退職時
- 子供が独立したとき
等、生活リズムが変わるタイミングがおすすめです。
ただし、これらのタイミングを待つことによって、解決が遅れてしまうケースもあります。このようなタイミングが訪れるまでに長期間かかりそうなケースなどは、切り出すタイミングについても弁護士等の専門家に相談することが考えられます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
性格の不一致と離婚後の子供の親権について
親権の決定において、離婚の原因は基本的に考慮されません。親権は「子供の幸せ」を軸に判断するものであり、“それまでの監護実績”や“離婚後の養育環境”が重視されるためです。
よって、相手に性格の不一致を訴えられても、それだけで親権争いで不利になることはないでしょう。
なお、親権を決める際、裁判所は「現状維持の原則」を優先する傾向にあります。これは、「子供の生活環境は、従前の状態を維持すべきである」という考えです。
そのため、離婚前から子供の世話(食事や送り迎え等)をしっかり行っていれば、親権争いで有利になる可能性が高くなるでしょう。
また、別居する際も子供を連れて別居し、監護実績を積んでおくことが重要になります。ただし、相手に無断で子供を連れ出す場合や相手方が連れ出しに明確に反対している場合、その連れ出しの態様によっては違法性が問われるおそれがあるため注意が必要です。
性格の不一致での慰謝料請求について
性格の不一致で離婚する場合、相手への慰謝料請求はほぼ不可能といえます。なぜなら、慰謝料は離婚原因を作った相手(有責配偶者)に対して請求するものであり、性格の不一致の場合、どちらか一方にのみ責任があるわけではないためです。
ただし、相手が性格の不一致を理由にDVやモラハラをした場合、有責性が認められ慰謝料を請求できる可能性があります。
また、協議離婚や離婚調停の場合、離婚条件は夫婦の話し合いで自由に決めることができます。そのため、相手の合意さえあれば、慰謝料の請求が可能です。
よくある質問
性格の不一致で離婚しても財産分与を受け取ることは可能ですか?
性格の不一致による離婚でも、財産分与は通常通り行われます。財産分与は、婚姻中に夫婦で築いた財産を2分の1ずつ受け取るのが基本ですが、夫婦が合意すれば自由な割合や内容で分割できます。
財産分与の対象となるのは、預貯金・家・車・家具・保険・株などです。また、婚姻中に発生した借金や負債も財産分与の対象となり、それぞれが負担するのが基本です。
その他、離婚後の生活が困窮すると想定される場合、当面の生活費を加味した財産を受け取れる可能性もあります(扶養的財産分与)。
一方、どちらかが独身時代に貯めたお金や、どちらかが相続して受け取った財産は財産分与の対象になりません。
財産分与は話し合うべき項目が多く、漏れがあると離婚後のトラブルになりかねません。また、ローンの処理など複雑な問題も多いため、弁護士に相談して進めることをおすすめします。
離婚裁判で相手が離婚を拒否し続けた場合、離婚は認められないのでしょうか?
離婚裁判では、裁判所が一切の事情を考慮し、離婚の可否について判決を下します。そのため、裁判所が離婚すべきだと判断すれば、たとえ相手が納得しなくても離婚が成立します。
ただし、相手が判決に不服をもつ場合、控訴や上告といった再審請求を行ってくる可能性があるため、離婚の成立まで長期間(数年年程度)かかるおそれはあるでしょう。
もっとも、性格の不一致だけを理由に離婚を認めてもらうのは難しいといえます。その他にも、相手の不貞やDV・モラハラがあることや、婚姻関係が破綻していることを客観的に証明できないと、相手の主張が通ってしまう可能性が高いでしょう。
性格の不一致で離婚した場合のデメリットはありますか?
性格の不一致はどちらかにのみ責任があるわけではないため、“離婚したい側”と“離婚したくない側”がお互いに主張を譲らず、話し合いが難航する可能性があります。また、話し合いで合意できなければ調停や裁判といった手続きを踏むことになるため、離婚の成立までさらに時間がかかってしまいます。
また、性格の不一致による離婚では基本的に慰謝料が発生しないため、安易に離婚に踏み切るとその後の生活が苦しくなるおそれがあります。
もうひとつの経済的デメリットとして、「解決金」が考えられます。これは、あまりにも話し合いが長期化したとき、離婚したい側が相手に金銭を支払うことで早期解決を図るというものです。このような出費が生じると、離婚後の生活がますます困窮するリスクがあるため注意が必要です。
性格の不一致で離婚したい場合は弁護士にご相談ください
性格の不一致は日々感じるものですから、「一刻も早く離婚したい」と思われる方も多いでしょう。一方、責任の所在がはっきりしなかったり、裁判をしても離婚が認められにくかったりと問題点も多いのが現実です。
弁護士であれば、夫婦の話し合いを仲介し、スムーズな解決に導ける可能性があります。また、豊富な知識や経験スキルを活かし、相手に説得力のある主張をすることもできます。
また、調停や裁判に発展した場合、夫婦関係の破綻を証明する客観的な証拠集めや効果的な主張をすることが特に重要です。弁護士はその道のプロですから、任せることでより有利な結果になる可能性が高まるでしょう。
弁護士法人ALGは、離婚問題に精通した弁護士が多く在籍しています。ご依頼者様の状況に応じて適切な対応やアドバイスをいたしますので、おひとりで悩まず、まずはお気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)