監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
離婚調停において合意がなされた場合、最終的に「調停調書」が作成されます。調停調書には取り決め事項が事細かに書かれており、合意内容を確約する重大な書面です。また、将来のトラブル発生時にも役立つため、できるだけ有利な内容で、また正確に作成してもらうことが重要です。
本記事では、調停調書の効力や注意点、記載すべき事項などを詳しく解説していきます。調停成立後の手続きについてもご説明しますので、ぜひご覧ください。
目次
調停調書とは
調停調書とは、離婚調停などの調停で取り決めた内容を記載する書面です。裁判官が当事者と調停委員の前で読み上げ、異論が出なければ確定します(調停成立)。
また、当事者の合意が前提ですので、調停成立の不服申し立ては基本的に認められません。
調停調書は確定判決と同じ効力を持ち、当事者はこれに従う義務があります。相手が義務を守らない場合、強制執行によって履行させることが可能です。 また、調停調書は執行力のある“債務名義”なので、訴訟手続きを踏まずに強制執行に移ることができます。
公正証書との違い
調停調書 | 公正証書 | |
---|---|---|
作成する場所 | 裁判所 | 公証役場 |
作成する人 | 裁判所書記官 | 公証人 |
離婚方法 | 離婚調停 | 協議離婚 |
強制執行の範囲 | 記載内容すべて (金銭だけでなく、面会交流なども含む) |
金銭の支払いのみ (慰謝料、養育費、財産分与など) |
強制執行のための執行認諾文言の必要性 | 不要 | 要 |
「調停調書」は離婚調停で、「公正証書」は協議離婚(夫婦の話し合いだけで解決する方法)で作成されるのが特徴です。
なお、公正証書の作成は任意ですが、強力な証拠になるため作成しておくことをおすすめします。
また、執行認諾文言とは、「約束が守られないときは強制執行する」と付記することです。公正証書にこの文言がない場合、強制執行するには訴訟を起こし、判決を得なければなりません。
また、似た書面に「和解調書」もあります。和解調書は、調停不成立となり審判や訴訟に移行したあと、当事者が合意(和解)できた場合に作成される書面です。調停調書と同等の効力があるため、強制執行も可能です。
調停調書の原本と正本や謄本等との違い
種類 | 解説 |
---|---|
原本 | ・裁判官の署名・押印がある唯一の書類 ・裁判所に保管される |
正本 | ・「原本」の全部の写しで、効力も同等 ・強制執行の際に必要 |
謄本 | ・「原本」の全部の写し ・「原本」の内容を確認する程度で、強制執行はできない |
抄本 | ・「原本」の一部の写し ・強制執行はできない |
家庭裁判所に交付してもらえるのは、原本の写しである正本・謄本・抄本の3つです。ただし、いずれも交付申請が必要ですので、用途に応じて適切なものを取り寄せましょう。
特に、相手に強制執行するには「正本」が欠かせないため、調停成立後すぐに申請しておくことをおすすめします。ただし、当事者双方に必要なので、相手方にも必ず送達してもらいましょう。
また、調停成立後に離婚届を提出する際は、「謄本」を提出する必要があります。
調停調書の効力
調停調書は、確定判決と同等の強い効力があります(家事事件手続法268条1項)。そのため、訴訟をせず速やかに強制執行できるのが最大のメリットでしょう。
また、原本は家庭裁判所で“30年間”保管されるため、その間いつでも写しを取り寄せることができます。
違反した場合の強制執行とは
強制執行とは、相手が約束を守らないとき、裁判所の権限で強制的に履行させる手続きです。離婚の場合、以下のパターンが考えられます。
- 慰謝料や養育費が支払われない → 相手の給与や貯金を差し押さえ、お金を回収する
- 財産分与の取り決めを守らない → 対象物を差し押さえる
- 子供と面会交流させない → 間接強制(一定期間内に面会交流を行わなければ“制裁金”を科すと命じ、プレッシャーを与えること)
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調停調書、内容確認のポイント
調停成立後は、基本的に調停調書の記載内容を変更・撤回することができません。
そのため、「合意内容と相違がないか」、「取り決めたことがすべて書かれているか」などをきちんと確認する必要があります。
以下で、特に注意すべき事項をご紹介します。
離婚調停を経た場合の離婚成立の形態
離婚調停を経た場合の離婚成立の形態としては、「調停離婚」と「離婚届提出」の2つがあります。
調停離婚は、調停が成立した時点で離婚が成立する場合です。その後、当事者が役所に離婚の報告(戸籍上の手続き)を行うことで完了します。
一方、離婚届提出は、調停の場で離婚届を作成し、役所に提出する場合です。離婚届が提出されるまで離婚は成立せず、また協議離婚とみなされるため、戸籍には“調停で離婚した”という記録が残りません。
離婚届出義務者
離婚の形態を「離婚届提出」にした場合、どちらが離婚届を提出するのか記載しなければなりません。
一般的には、“氏の変更”や“離婚後の戸籍”を選ぶ側(婚姻時に相手の戸籍に入った側)とするケースが多いです。本人が手続きした方がスムーズですし、誤りも防げるからです。
財産分与
分割する財産が現金や預貯金の場合、金額や支払方法、期限を守らないときのペナルティー(遅延損害金など)を具体的に定めます。
また、不動産や自動車をもらう場合、名義変更を行うべきでしょう。
調停証書があれば基本的に自身(単独)で変更できますが、調書の内容によっては相手の協力が必要となるため注意が必要です。例えば、「当事者は“協力して”名義変更する」などの文言がある場合などです。
なお、生命保険や学資保険については、単独で名義変更できないのが基本です。保険を引き継ぐ場合、調停調書に「相手は名義変更の手続きに“協力する”」などと明示しておくと安心でしょう。
慰謝料
相手の浮気やDVが原因で離婚する場合、慰謝料を請求するケースも多いです。慰謝料は精神的ショックに対する補償ですので、相手は誠意をもって支払わなければなりません。
そこで、慰謝料の金額や支払方法、一括または分割の取り決め、支払期限などを調停調書において明確に定めておきましょう。
また、遅延損害金などの罰則を設けることで、未払いの防止にもつながります。
養育費
養育費については、毎月の支払額や支払日、支払方法、支払期間などを定めます。
特に支払期間については、「子供が〇歳に達した月まで」、「〇年〇月まで」、「子供1人につき〇円」と具体的に決めるのがポイントです。
一方、「大学を卒業するまで」とするケースもありますが、浪人や留年したときに揉める可能性があるため注意が必要です。
養育費は子供のためのお金ですが、未払いも多いのが現実です。そのため、漏れなく調停調書に記載して強制執行にも備えておきましょう。
面会交流、親権
まず、どちらが親権者になっているかチェックします。後で親権者を変えるのは非常に難しいため、必ず確認しましょう。
また、面会交流についても、調停における合意内容と相違がないか確認します。
面会交流の約束が守られない場合、相手に制裁金を課す“間接強制”ができますが、そのためには以下のルールを具体的に定めておく必要があります。
- 面会交流の日時や頻度
- 1回の面会交流の時間
- 子の引渡し方法
「1ヶ月に1回程度」、「具体的な条件は父母で協議する」といった曖昧な記載だと、間接執行が認められない可能性があるためご注意ください。
調停離婚が成立し離婚届提出までの流れ
調停離婚の場合、調停の成立と同時に離婚も成立します。
しかし、これで完了ではないため気を抜いてはいけません。当事者は調停調書の謄本を取り寄せたり、役所に報告したりといくつか手続きが必要です。
また、手続きには期限があるため、スピーディーな対応が求められます。
以下で具体的な流れをみていきましょう。
調停調書の謄本を申請
役所の手続きでは、“離婚届”と“調停調書の謄本”(または省略謄本)を一緒に提出しなければなりません。そのため、調停成立後速やかに取り寄せましょう。
謄本の申請先は、調停を行った家庭裁判所です。
郵送で取り寄せると手元に届くまで1週間ほどかかるため、急ぎの場合は“来庁申請”(裁判所に行って直接受け取る方法)がおすすめです。来庁申請の場合、調停成立から2~3日で発行してもらえることが多いです。
また、謄本申請には150円分の収入印紙が必要です。郵送の場合、さらに切手代がかかります。
離婚届を役所に提出
調停成立後は、10日以内に役所へ離婚届を提出します。
提出先は、「夫婦の本籍地の市区町村役場」が基本です。本籍地以外でも受領してもらえますが、その場合、“夫婦の戸籍謄本”も添付する必要があります。戸籍謄本の取り寄せにも数日かかるため、早めに手配しましょう。
なお、期限を守らないと5万円以下の過料を課せられる可能性があるためご注意ください。
調停調書が届かない場合
調停調書の謄本は、申請後1週間ほどで届くのが一般的です。1週間を過ぎても届かない場合、トラブルの可能性があるため家庭裁判所に問い合わせましょう。
この場合、離婚届の提出期限を過ぎても過料が課されることはほぼありません。
よくある質問
手元に届いた調停調書確認しましたが、内容を変更してもらうことは可能なのでしょうか。
調停調書記載の条項は当事者の合意を得たうえで確定するため、基本的に変更・撤回することはできません。したがって、確定前の読み上げにおいて、誤りや相違がないか細かくチェックする必要があります。
もっとも、計算の間違いや明らかな誤記がある場合、裁判所の決定で修正してもらうことが可能です。
また、調停条項の確定後も、夫婦の合意があればいつでも条項として記載された離婚条件を変更できます。例えば、養育費の金額を増やす(または減らす)ケースや、慰謝料の支払方法を変更するケースです。この場合、夫婦で話し合った内容を公正証書化し、書面に残しておきましょう。
話し合いで合意できないときは、改めて調停を行うのもひとつの方法です。
相手からのDVが心配で調停調書に現在の住所を載せたくない場合、何か方法はありますか?
相手に知られたくない情報がある場合、裁判所に「秘匿申出」を行うことができます。手続きとしては、裁判所に「秘匿申出書」を提出するだけで完了します。
秘匿申出書には、どの情報を隠したいか(住所・勤務先・電話番号など)とその理由を記載します。
ただし、秘匿申出をしても必ず秘匿措置がとられるされるわけではありません。開示するリスクが低い場合や、どうしても開示が必要な場合、秘匿措置がとられない可能性もあります。
また、裁判所に提出した書類は相手も自由に閲覧・謄写できます。そのため、知られたくない情報は黒塗りしたり、代理人弁護士の所在地を記載したりと、ご自身の対策も必要です。
もっとも、基本情報が隠れていると裁判所との連絡に支障が出ることもあるため、慎重に判断しましょう。
調停調書に細かく記載するメリットやデメリットについて教えて下さい。
調停調書に離婚条件を細かく記載することで、相手が約束を守らないときに強制執行がしやすくなります。一方、記載内容が曖昧だと、せっかく調停調書があっても強制執行や間接強制が認められない可能性があるため注意が必要です。
記載すべき項目について、以下で整理しておきます。
- 慰謝料、養育費 → 金額、支払方法、支払わないときのペナルティー(遅延損害金など)
- 財産分与 → 対象財産、名義変更の方法(「当事者は協力して行う」など)
- 面会交流 → 日時や頻度、時間、場所、子の引渡し方法
特に面会交流については、明確なルールがないと間接強制が却下されやすくなります。「半日程度」、「後で協議する」など曖昧な記載は避けましょう。
一方、離婚の成立や親権者については、その事実のみ記載すれば足ります。
調停調書は再発行してもらえますか?
調停調書の正本、謄本および抄本は、家庭裁判所に交付申請すればいつでも再発行できます。
また、調停不成立となった場合、「事件は終了した」という旨の調書が作成されますが、こちらも再発行可能です。
ただし、申立人の取下げによって調停が終了した場合、「初めから調停がなかった」ことになるため、調停調書は作成されません。調停の記録は残りますが、その閲覧や謄写、正本・謄本・抄本の交付をするには裁判所の許可が必要です。
調停調書の保存期間はどのくらいですか?
調停調書は、家庭裁判所で「30年間」保管されます。よって、その間はいつでも正本・謄本・抄本を取り寄せることができます。 一方、調書以外の記録(調停の議事録・証拠書類・その他の資料など)については、保管期間は「5年」と短くなっています。閲覧や謄写を希望する場合、早めに行うようにしましょう。
合意内容は調停調書に記載されます。少しでも有利な離婚をお望みなら弁護士へ相談しましょう。
調停調書は、合意内容を記録するだけでなく、強制執行力もある有効な書面です。「相手が慰謝料を支払ってくれない」、「子供と会わせてくれない」など約束を破った場合、強制的に実行させることができます。
しかし逆に言えば、一度決まった調停調書には必ず従わなければならず、変更も基本的にできません。そのため、「正しい内容の調停調書」を作成することが何よりも重要です。
弁護士であれば、調停調書の内容をスムーズに理解し、不備があればしっかり修正することができます。また、調停手続きをサポートしてもらえば、より有利な離婚条件を獲得できる可能性も高まります。慣れない調停の場で、心強い味方となるでしょう。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)