監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
交通事故の示談交渉で揉めてしまうことは、少なくありません。
例えば、交通事故に遭ったとき、加害者に治療費や慰謝料をきちんと支払ってもらえるよう求めても、加害者が聞き入れてくれないという事態は、よく起きます。
このように、交通事故の示談交渉では、いろいろなトラブルが生じやすいため、注意が必要です。
この記事では、交通事故の示談交渉におけるトラブルのよくある原因とその対処法についてご説明します。
目次
交通事故の示談でもめる原因
交通事故の示談交渉において、揉める原因となりやすいのは、次のような場合です。
①加害者の態度が悪いとき
②加害者が無保険のとき
③過失割合の主張に対立があるとき
④事故直後には無かった症状が後から出てきたとき
⑤加害者が加入している保険会社から治療費を打ち切ると言われたとき
⑥提示された示談金に納得ができず、合意できないとき
加害者の態度が悪い
交通事故の被害者となってしまったとき、加害者に対し、お詫びや謝罪を求めたいと思うことは、誰にでも生じる心理です。そのため、加害者からお詫びや謝罪がなされない場合には、相手に誠意がないと感じる方もいると思います。
謝罪がないどころか、加害者や保険会社の中には、被害者に対しても威圧的な態度を取るような人もいます。そのような場合、被害者は、当然、ご立腹されるでしょう。
このような相手方の態度から感情的な対立が生じ、示談交渉が難航するということは珍しくありません。
加害者が無保険
加害者が任意保険に加入していないことが稀にあります。このとき、加害者が自賠責保険には加入していたとしても自賠責保険が交渉に入ることはありません。そのため、加害者と直接話し合いをすることになりますが、中には話し合い自体に応じようとしない人もいます。
また、加害者が任意保険に加入していない理由の多くは、保険料を払う経済的余裕がないことです。そのため、加害者が話し合いに応じたとしても、資力がなくて賠償金が払えないとして、支払いを拒否されることがあります。その結果、自賠責保険の限度額を超える分の損害賠償の支払いを受けることができないおそれがあります。
このように加害者が任意保険に加入していないと、交渉自体ができない、交渉できても賠償の支払いがないという事態に陥りやすくなります。そのため、任意保険に加入していない場合には、揉めやすくなります。
なお、加害者が自賠責保険にすら加入していない場合には、国に対して損害の補償を求める制度である「政府保障事業」の利用を検討する必要があります。その場合にも自賠責保険の基準に準じた限度額があるため、それを超える額の請求は困難です。
過失割合で揉めている
過失割合に関する互いの主張がかみ合わずに平行線のまま揉め続けるということも、示談に至らないケースとしてよくあります。
交通事故が起きた際の状況について、加害者と被害者で事実の認識に違いがあるということは少なくありません。事故状況に争いがあり、ドライブレコーダーのような客観的証拠もないような場合には、双方の妥協点が見つけにくく、示談交渉が難航しやすいです。
過失割合について、双方が合意を形成できないまま揉め続けた際には、裁判に発展してしまうケースもあります。
後から症状が出てきた
交通事故に遭った直後は痛みがなかったものの、段々と強い痛みや吐き気といった症状が出てくることはあります。また、目に見える怪我がないことから事故直後に病院へ行っておらず、症状が出てから初めて負傷していたことに気が付くといった事例もあります。
このように、事故からしばらくしてから身体に症状が生じるということがあります。このような場合、事故によって生じたけがなのかが不明確となり、争いが生じやすくなります。
また、中には、示談成立後に後遺障害が発覚するということもあります。通常、示談は、交通事故によって生じた損害について、全て解決したとの合意ですが、示談成立時に分かっていなかった後遺障害まで解決しているかという問題があります。
そのため、示談成立後に後遺障害が発覚した場合、その後遺障害に対する賠償義務があるか否かに関して争いが生じることになります。
治療費を打ち切ると言われた
交通事故による怪我の治療費は、加害者の任意保険が、直接病院に支払うという、「一括対応」という手続きが取られることが多くあります。治療費の打ち切りとは、相手方保険会社がこの一括対応をストップすることをいいます。
この一括対応について、保険会社は、自身の判断のみで打ち切りを行うことが可能です。そのため、まだ痛みが残っていて治療による回復の見込みがあると考えられる場合でも、相手方保険会社が治療費の打ち切りを告げてくることがあります。
このような場合、適切な治療期間に争いが生じることになりますが、適切な治療期間の判断は容易なことではありません。その上、被害者としては、強制的に治療を終了させられたとの思いになることが多いため、揉める原因になります。
交通事故の治療費を打ち切ると言われたら提示された示談金に合意できない
相手方から提示された示談金が低すぎて納得ができる金額ではない場合には、あきらめずに適切な損害賠償額の支払いをするよう交渉すべきです。しかしながら、相手方が提示の賠償金額に応じて来ないということは珍しくありません。このように、示談金の額で折り合いがつかないことで揉めてしまうことはよくあります。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
交通事故の示談交渉で揉めてしまった場合、どうしたら良い?
示談交渉で揉めてしまった場合は、ご自身で対応を続けるのは難しいでしょう。
他方で、交通事故の損害賠償請求権には、時効があり、時効が成立してしまうと、示談金等を請求できなくなってしまいます。交通事故の損害賠償請求権は、損害が生じたことと加害者を知ってから5年(物損については3年)の経過あるいは事故発生から20年の経過のどちらか早い時点で、時効により消滅します。
時効のことを考えても、早めに示談を成立させる必要があります。
そこで、以下の項目で説明するような方法を用いて解決することを検討するのがよいでしょう。
ADRなどの機関を利用する
加害者との話し合いが進まなくなってしまったときに、中立な第三者を間に挟むことで解決できるケースもあります。
第三者を間に挟んだ話し合いをする制度の1つとして、ADRという紛争解決手続きがあります。ADRとは、訴訟による判決以外の紛争解決方法のことです。訴訟と比べて、費用が少なくて済む、比較的短時間での解決を図ることができる、手続きが簡易と言ったメリットがあります。
交通事故のADRには、「交通事故紛争処理センター」という機関が利用できます。交通事故紛争処理センターでは、弁護士が中立な第三者の立場で、和解による解決の手助けをしてくれます。
注意点として、ADRを利用するだけでは、時効の完成を止めることはできません。そのため、時効完成間近の場合には、ADRではなく、時効の完成猶予あるいは更新ができる方法を取るべきです。
弁護士に相談する
上述したように示談が揉める原因には様々なものがあり、適切な対処方法は揉めてしまった原因や状況に応じて様々です。交通事故の加害者との交渉がうまくいかずに揉めてしまったときには、まずは、弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士にご相談いただいた際には、主張が対立している点や話し合いが進まなくなった理由をお聞きして、事案に応じて交渉を進展させるためのアドバイスをさせていただくことができます。
また、弁護士に交渉をご依頼いただいた際には、その後は弁護士が交渉の窓口として対応します。窓口が弁護士になると、それによって、議論が整理されて交渉が進むということも珍しくありません。そのため、相手方と交渉で揉めた際の対処方法として、弁護士にご依頼いただくことということも有効な方法であると思われます。
なお、事案によりますが、弁護士費用については、弁護士費用特約のついた保険に加入していれば、弁護士費用の負担なく依頼できることもあります。まずは、気軽にご相談ください。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
示談でもめてしまったら早めに弁護士にご相談下さい
加害者との示談交渉でトラブルが起きてしまったときには、弁護士に相談いただくべきということをご説明しました。弁護士に依頼をするのであれば、早めのタイミングで相談をしていただいた方がよいでしょう。
早い段階で弁護士に依頼をしていただくことで、以降の交渉のやり取りをすべて弁護士に任せることができるので、負担を大きく減らすことができます。また、法律のプロが交渉に当たることで、本人だけで交渉にあたる場合と比べれば、過失割合や賠償額などを適正に近づけることができる可能性が高まります。
ご依頼いただく際に、ご加入されている弁護士費用特約を利用できることもあります。まずは一度弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)