金銭出資型の寄与分とは | 金銭出資型の評価方法

相続問題

金銭出資型の寄与分とは | 金銭出資型の評価方法

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

寄与分とは、遺産分割を行うにあたって、亡くなった方(被相続人)の財産の維持や増加に特別の寄与をした相続人に寄与相当額の財産を取得させることによって、共同相続人間の衡平を図ることを目的とする制度です。
寄与分が認められた場合、相続財産から寄与分を控除した額を「みなし相続財産」として、各相続人の相続分を算定します。
そして、寄与分が認められた相続人は、上記の算定された相続分に寄与分を加えた額を相続分として取得することになります。
寄与行為の類型には、①家業従事型、②金銭等出資型、③療養看護型、④財産管理型、⑤扶養型の5つがあります。
今回は、上記類型のうち、金銭等出資型について解説します。

目次

金銭等出資型の寄与分とはどんなもの?

寄与行為の金銭等出資型とは、相続人が、被相続人の事業に出資をしたり、不動産の購入資金を援助したりするなど、被相続人に財産上の利益を給付する場合です。

金銭等出資型の具体例

妻が、夫の事業について、妻自身の財産を出資するなどのケースや、子が親の不動産の購入資金を援助するといったケースがあります。

金銭等出資型の寄与分が認められるための要件

相続人からの被相続人に対する財産の給付であれば、直ちに寄与行為があったと認められるわけではありません。寄与行為があったと認められるには、その財産上の給付が「特別の寄与」(民法第904条の2第1項)であると認められる必要があります。
「特別の寄与」であると認められるには、相続人が、被相続人に対し給付した財産の内容や価額が、被相続人との身分関係から通常期待される程度を超えるものであることが必要です。

他の類型と違い、継続性は必要ない

例えば、家業従事型の寄与行為であれば、家業への従事を一定期間継続することや、家業に専従することが寄与行為として認められる要件となります。
これに対し、金銭等出資型の寄与行為は、一回の行為であっても、被相続人との身分関係から通常期待される程度を超えて財産上の給付を行うことは可能であり、継続性は必要ありません。

金銭等出資型の評価方法

金銭等出資型の寄与行為が認められた場合には、その具体的な行為毎に以下のような計算を行い、寄与分額を評価します。

①金銭を贈与した場合
贈与金額×貨幣価値変動率×裁量的割合
②不動産取得のための金銭を贈与した場合
相続開始時の不動産価額×(寄与者の出資額÷取得時の不動産価額)
③不動産を贈与した場合
相続開始時の不動産価額×裁量的割合
④不動産の使用貸借の場合
相続開始時の賃料相当額×使用年数×裁量的割合

出資した全額が寄与分として認められるか?

ある出資行為が寄与行為であると認められる場合でも、その出資額全額が寄与分額として認められるとは限りません。裁量的割合を用いることにより、様々な事情を考慮して寄与分額が評価されています。

例えば、相続人が、被相続人に対し、金銭1000万円を贈与した場合、1000万円が寄与分額と評価されるとは限りません。寄与分額は、贈与金額に貨幣価値変動率と裁量的割合を乗じて算定されます。貨幣価値変動率は、贈与時から相続までに長期間が経過すると、貨幣価値が大きく変動することがあるので、その点を評価していますが、裁量的割合は、裁判所が、当該事案に現れた一切の事情を考慮して定めるものであり、これにより、出資した額から一定の額が減じられて寄与分額が定まることが多いといえます。

金銭出資型の寄与分に関する判例

寄与分が認められた裁判例

高松高裁平成7年(ラ)第33号・平成8年10月4日決定 被相続人Aは、建設会社を経営していたが、経営不振に陥った。Aは医師であった長男Xから1億6000万円の資金援助を受け、その代償として、A所有の土地を代金1億6000万円と評価してXに譲渡し、4億2000万円の弁済をXに肩代わりしてもらうとともに、この4億2000万円については、他の土地を3億1000万円と評価してXに譲渡し、残りの1億1000万円は会社へのXの貸付金として処理した。

裁判所は、被相続人Aが創業した株式会社が、実質は個人企業に近い面があり、被相続人とその法人が経済的に極めて密着した関係にあった株式会社へのXの援助について、被相続人Aに対する寄与と認める余地があるとし20パーセントの寄与分を認めました。

この裁判例は、会社への援助と被相続人の資産の確保との間に明確な関連性があることを、会社への援助が被相続人に対する寄与と認める要件としてあげ、当該事案においてその関連性を認めて、上記の判断をしました。
上記裁判例は、会社に対する援助が被相続人に対する寄与と評価しましたが、原則として、法人に対する援助は、被相続人に対する寄与にあたらないので、その点はご注意ください。

寄与分が認められなかった裁判例

東京家裁平成21年1月30日審判
被相続人の妻及び子が、被相続人に代わって実質的に会社を経営していたことを理由として、会社が被相続人に支払った役員報酬は、会社を実質的に経営していた妻及び子からの被相続人に対する寄与であるとの主張がなされた事案があります。

裁判所は、会社から被相続人に支払われた役員報酬は、会社が支給されるものであり、妻と子が被相続人に対し、財産給付をしたものではないとして、寄与分を認めていません(東京家裁平成21年1月30日審判)。

上記判例は、会社からの被相続人への役員報酬の支払いが、相続人から被相続人への寄与行為であるとの主張を認めなかったものであり、相続人と会社が別人格であることからすると、原則どおりの判断です。

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金銭等出資型の寄与分を主張するためのポイント

金銭等出資型の寄与分を主張する際には、相続人が主張する出資行為がそもそも行われた証拠がないことが問題となるケースがあります。そもそも、出資行為が認められないという場合には、寄与分が認められる余地はないので、出資行為についての立証を尽くす必要があります。
また、出資行為があっても、それが「特別の寄与」と認定される必要があります。既に述べたとおり、相続人が、被相続人に対し給付した財産の内容や価額が、被相続人との身分関係から通常期待される程度を超えるものであることを主張立証する必要があります。

証拠となるものは捨てずにとっておきましょう

金銭出資型の寄与行為を主張するには、相続人が被相続人に対し、財産上の給付を行った事実を立証することが必須です。証拠がない状況で、紛争の相手方が財産上の給付があったことを認めることはありません。下記に示すような金銭の交付を明らかにする書面等は有効な証拠となりますので保管をしておきましょう。

  • 預金通帳
  • 振込明細
  • クレジットカードの使用履歴
  • 各種契約書
  • 領収証

金銭出資型の寄与分に関するQ&A

借金を肩代わりしたのですが、金銭出資型の寄与分として認められるでしょうか?

相続人が被相続人の、借金を肩代わりするケースには、①肩代わりした借金を、被相続人から相続人に返済するケース(求償権を行使する場合)②肩代わりした借金について、被相続人が相続人に返済をしないケース(求償権を放棄する場合)があります。
①の場合は、肩代わりをした相続人から被相続人に対する立替金返還請求権が存在していますので、寄与分は認められません。寄与分の主張ではなく、他の相続人らに対し、立替金の返還を求めていくことになります(自分の相続分に対応する金員は混同により消滅します。)
②の場合は、その肩代わりをした金額が、相続人が、被相続人に対し給付した財産の内容や価額が、被相続人との身分関係から通常期待される程度を超えるものであれば、寄与分として認められます。

資産運用のための資金を何度か出しました。寄与分として認められますか?

相続人が、被相続人に対し、資産運用のための資金を出資した場合、その資金により被相続人の財産が維持または増加をしているといえる場合には寄与分として認められる余地があります。
一方、資産運用のために資金を出資したものの全く無価値となってしまった場合(例えば、株式に投資したが当該会社が倒産して株式が無価値となった場合等)には、被相続人の財産が維持または増加したといえないので、寄与分として認められません。

定期的に生活費を送っていたのは寄与分として認められますか?

相続人が、被相続人に対し、定期的に生活費を送っており、その給付した金額が、相続人と被相続人との身分関係から通常期待される程度を超えるものであれば、扶養型の寄与分として認められます。

「後で返す」と言われ返済のないまま亡くなってしまいました。あげたものとして寄与分を主張できますか?

被相続人に対する出資について、「後で返す」と言われ返済の無い状態のまま亡くなったのであれば、寄与分の主張はできません。しかし、支払った金員についての貸金返還請求権が存在していますので、他の相続人に対し、貸金の返還を求めることができます。

資産運用のお金を出したところ、増えた分の何割かをお礼として受け取りました。これは特別受益になりますか?この場合、寄与分はなくなるのでしょうか。

被相続人から、相続人が生前贈与を受けた場合、「婚姻、養子縁組のための贈与」、「生計の資本としての贈与」にあたれば、特別受益となります。
「生計の資本としての贈与」にあたるかについては、相当額の贈与は特別な事情がない限り全て特別受益とみて差し支えないという見解もありますが、判例には、寄与行為がある者に対する生前贈与について、労に報いる趣旨であることを理由に、「生計の資本としての贈与」であることを否定するものもあります。
上記のお礼が特別受益でないと判断された場合には、その贈与分を寄与分から控除して寄与分を算定します。もっとも、寄与行為に対して、これに報いる趣旨の生前贈与がなされたことに鑑み、寄与分が否定されることもあります。

開業資金を出してくれた人に包括遺贈がされていました。寄与分はこれとは別に渡さなければいけないのでしょうか?

開業資金が、被相続人に対する寄与であると認められた場合、その人物に包括遺贈がなされている場合であっても寄与分を考慮して具体的相続分を算定することになります。 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有するため(民法990条)、共同相続人と同様に寄与分の主張を行うことができます。
もっとも、法定相続人以外の者へなされた包括遺贈は、その者の寄与行為に対する謝礼の意味が含まれています。そのため、そのような事情を考慮した場合には、包括遺贈者からの寄与分の主張は認められないこともあります。

金銭等出資型の寄与分について、不明点は弁護士にご相談ください

寄与分については、その援助が寄与分にあたるかどうかの判断が個別具体的事情を踏まえた法的判断であるので、専門家である弁護士に相談すべき案件であるといえます。特に、寄与行為を行ったものにとって、その寄与行為を立証することが困難であることは少なくありません。訴訟における立証は、手持ちの資料を踏まえた検討のみならず、その他の資料の収集を含めて検討して、立証活動を行う必要があります。
寄与分が問題となる事案で悩まれている方は、是非、弁護士に相談されることをお勧めします。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
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