財産管理型の寄与分

相続問題

財産管理型の寄与分

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

寄与分とは、特定の相続人が、被相続人に対して何らかの貢献をしている場合に、その貢献を、相続人の具体的相続分に反映させる仕組みです。この記事では、寄与分のうち、特に、「財産管理型」と呼ばれる類型について説明します。

財産管理型の寄与分とは

寄与分は、実務上、その内容に応じて、家事従事型、療養看護型、金銭出資型、扶養型、財産管理型等に分類されます。以下では、「財産管理型」と呼ばれるものについて説明をします。

具体例

「財産管理型」の寄与分とは、被相続人の財産を管理することによって財産の維持形成に寄与した場合をいいます。具体的には、特定の相続人が被相続人の賃貸不動産を管理することで管理費用の支出を免れた場合等が挙げられます。

寄与分と特別寄与料の違い

寄与分と区別すべき概念として「特別寄与料」(民法第1050条第2項)があります。これは、法改正により新設された概念です。寄与分との違いは、「相続人以外の親族」の寄与を反映させるものであること、寄与の内容が「療養監護その他の労務の提供」にことです。

財産管理型の寄与分の計算

寄与をした相続人の具体的相続分は以下の通り計算されます。すなわち、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から寄与分を控除した額に、法定の相続分割合を乗じ、寄与をした相続人の相続分として寄与分額を加算することになるため、寄与をした相続人は、法定の相続分よりも多くの具体的相続分を取得することができるということになります。

寄与分額は、寄与の内容や財産の種類によって異なります。例えば、建物の火災保険料、修繕費、不動産の公租公課の負担等は、現実に負担した額を基準として算定されますが、必ずしも実際の支出額が寄与分額として認定されるわけではない点に注意が必要です。

寄与分を認めてもらう要件

寄与分が認められるための要件は

①財産管理の必要性 ②特別の貢献 ③無償性 ④継続性 ⑤寄与行為の結果として被相続人の財産を維持又は増加させていること

が挙げられます。これらの要件が認められるハードルは高く、例えば、被相続にの庭の雑草を季節ごとに刈り取ったという程度では②の要件は認められないとされます。

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成年後見人として財産を管理していた場合

成年後見人として財産を管理している者がある場合でも、その者に寄与分が認められるとは限りません。成年後見人は、相続人ではない者でもなることができます。相続人以外の者は、寄与分が認められる対象となりませんので、この場合、成年後見人として財産管理をしていても寄与分は認められません。一方で、相続人が成年後見人として財産を管理していた場合は寄与分が認められる可能性があります。

財産管理型の寄与分はどう主張すれば良い?

相続事件で寄与分が主張されるケースは少なくないですが、実際に寄与分が認定されるケースは稀です。したがって、財産管理型の寄与分を主張する場合には、寄与分の要件を満たすことを証拠をもって具体的に主張立証しなければなりません。

主張するための重要なポイント

上記①~⑤要件に関連する事実を具体的に主張していく必要があります。①との関係では、被相続人の財産の状況や、必要とされる財産管理の内容、②との関係では、被相続人との寄与分を主張する相続人との身分・扶養関係や、財産管理を行うに至った経緯、③との関係では報酬の有無、④との関係では財産管理を行った時期及び機関、⑤との関係では財産管理による財産上の効果等が重要な事実となります。また、特別の寄与をした者が、被相続人の財産を無償で利用していたような場合には当該財産の使用利益の分だけ寄与分額が減額される可能性があります。

有効となる証拠

財産管理行為を第三者に委託した場合には、当該行為を第三者に委託した際の報酬額を裏付ける資料、財産管理に要した金銭の出資が寄与行為である場合には支出を裏付ける資料(領収書等)が有効な証拠となります。

財産管理型の寄与分に関する審判例

以下では、財産管理型の寄与分に関する裁判例(審判例)を紹介します。

財産管理型の寄与分が認められた審判例

長崎家諫早出審昭和62年9月1日は、相続人が、被相続人名義の土地売却にあたり借家人の立退交渉、家屋の取り壊し、滅失登記手続、売買契約の締結等の努力をした点を評価して、寄与分を認めました。なお、ここでの寄与分額には、不動産仲介人の手数料基準も考慮されています。

財産管理型の寄与分が認められなかった審判例

大阪家審平成19年2月26日は、相続人が、被相続人名義の株式や資金運用を行った結果、被相続人の試算を増加させたとして寄与分を主張した事案で、株価の上昇が偶然であること、相続人は資産運用のリスクを負担していなかったことなどを理由に、寄与分を否定しました。

財産管理型の寄与分に関するQ&A

父の資産を株取引で倍増させました。寄与分は認められますか?

上記審判例(大阪家審平成19年2月26日)によれば、株取引による資産増加について寄与分が認められる可能性は低いと考えられます。

母が介護施設に入っていた間、実家の掃除を定期的に行い、家をきれいに保ちました。寄与分は認められますか?

介護施設に入っていた期間が数月間にとどまる場合は、継続性の要件を満たさないとして、寄与分が否定される可能性が高いです。また、家を掃除した程度であれば、特別の貢献にあたらないとして、寄与分が否定される可能性が高いです。

父の所有するマンションの一室に住みながら、管理人としてマンションの修繕等を行った場合、寄与分は認められますか?

寄与分が認められる可能性はありますが、所有マンションの使用利益分が寄与分から減額される可能性があります。また、被相続人が、別途管理会社と契約をしていたような場合には、相続人がマンションの修繕等を行った場合でも、寄与分が認められない可能性が高いです。

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被相続人に対して様々な寄与をした相続人の方にとっては、遺産分割において、その寄与が考慮されないということは、心情的に受け入れがたいものと思われます。
一方で、寄与分は、民法の条文で規定された制度ではありますが、実際に、寄与分が認定されることは稀であるため、十分な主張と立証を必要とします。

財産管理型の寄与分請求を考えていらっしゃる方は、弁護士にご相談下さい。

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監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。