遺産分割のやり直しに期限や時効はあるのか?

相続問題

遺産分割のやり直しに期限や時効はあるのか?

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

相続が生じた際、相続人の方全員で遺産分割協議を行い、合意をすることが必要となります。多くの場合、遺産分割協議に関する合意を遺産分割協議書に記載し、相続人が遺産の取得に必要な手続きを行います。
しかし、後になって、遺産分割協議をやり直したいと考えることも出てくるかと思います。
以下では、遺産分割協議のやり直しについて、注意点を踏まえて、説明していきたいと思います。

遺産分割はやり直しができるのか

一度合意した遺産分割協議をやり直すことは、原則としてできません。ただし、以下に述べるように、合意をした遺産分割協議をやり直すことが出来る場合があります。例えば、

  • 相続人全員が承諾して遺産分割協議のやり直しをする場合
  • 遺産分割協議に関わることが出来ない者が遺産分割協議に関わって遺産の取得をしている場合
  • 遺産として把握していた資産に誤りがあったり、遺産分割後に他の財産が見つかった場合

などに遺産分割協議をやり直すことが出来る場合があります。

遺産分割後に他の財産が見つかった場合

遺産分割協議後に、新たに他の遺産が見つかった場合に、相続人間で、新たな遺産についてのみ遺産分割協議をすれば足ります。
もっとも、例えば、新たに見つかった遺産の存在を知って遺産分割協議を行っていれば、一度合意した遺産分割協議で定めた内容自体に影響してくる場合など、新たに見つかった遺産が重要な遺産である場合には、遺産分割協議全体をやり直すことが出来る場合があります。

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遺産分割のやり直しを行う場合に期限や時効はある?

遺産分割協議を相続人全員が承諾してやり直しをすることに、期限や時効はありません。そのため、被相続人が亡くなった時点や当初の遺産分割協議を行った時点から何年経過していても遺産分割協議のやり直しを行うことが出来ますので、遺産分割協議のやり直しをあきらめる必要はありません。

取消権には時効があるので注意が必要

錯誤(遺産分割協議に関わることが出来ない者が遺産分割協議に関わって遺産の取得をしている場合や遺産として把握していた資産に誤りがあったり、遺産分割後に他の財産が見つかった場合)、詐欺(他の相続人に騙された場合)・脅迫(脅された場合)により遺産分割協議が行われた場合、遺産分割協議のやり直しをする場合には、遺産分割協議による合意を取消す、ということを表示することが必要となります。このような取消すことが出来ることを取消権といいます。
取消権には、時効があり、少なくとも、詐欺、脅迫、錯誤を知った時から5年、詐欺、脅迫、錯誤の時から20年経過した場合には、取消すことが出来なくなりますので、注意が必要です。

遺産分割をやり直した場合の注意点

期限の問題なく遺産分割協議のやり直しを考えられる場合でも、遺産が流出していたり、思わぬ出費が必要となってくるなど、いくつか注意点が必要です。
以下では、生ずる可能性のある場合ごとに注意点を説明していきます。

やり直し前に第三者へ譲渡していた場合

遺産分割協議による合意後、相続人の一人が合意により取得した遺産を第三者に売却するなどで譲渡していることも考えられます。このように、遺産分割協議のやり直しを行う前に第三者に遺産を譲渡していた場合には、第三者に譲渡された遺産を取り戻すことが出来ません。
ただし、例外的に、

  • 第三者が取得した遺産が不動産である場合に第三者が所有権移転登記を備えていない場合
  • 遺産分割協議による合意を詐欺、脅迫、錯誤などを理由に取消す場合で、第三者が詐欺、脅迫、錯誤を知っている、又は知らなかったことに過失がある場合

には、第三者から遺産を取り戻すことが可能です。

不動産の名義が変わった場合

詐欺、脅迫、錯誤により取り消しを理由として遺産分割協議のやり直しをする場合、当初の遺産分割協議後に行われた登記を抹消する手続きを行い、遺産分割協議のやり直しにより取得する者と定めた方への移転登記が必要となります。
また、相続人間での合意により新たに取得する者を定める場合、一度取得した者から遺産分割協議のやり直しにより取得する者への所有権移転登記が必要となります。
相続登記による所有権移転登記をする際には、登録免許税として固定資産課税台帳に登録された価格(固定資産評価額)の1000分の4の割合の費用を要します。
所有権移転登記抹消手続きをする際には、登録免許税として、不動産1個につき1000円の費用を要します。

課税対象となる場合がある

不動産を含む遺産分割協議をやり直す場合、「3-2」で述べたように登録免許税がかかってきます。
遺産分割協議を相続人全員が承諾してやり直す場合には、法的に、相続ではなく新たに相続人間で財産の処分に関する合意をしたことになります。そのため、税務上、相続人間での財産の譲渡若しくは贈与がされたものと扱われ、所得税又は贈与税が課税されます。
遺産分割協議による合意が取消権の行使により取り消された場合、更生の請求や修正申告ができます。

遺産分割をやり直す際の期限について弁護士にご相談ください

これまで述べてきたように、相続人全員の承諾により遺産分割協議のやり直しをするには、期限がありませんが、一定の理由をもとに遺産分割協議のやり直しをする場合には、期限があることに注意が必要です。詐欺、脅迫、錯誤に該当するかどうかという点を一概に判断することが難しい場合もあります。
また、課税などの支出の有無にも影響してくることがあります。専門的な判断が必要となりますので、遺産分割のやり直しをお考えの方は、ご相談いただければと思います。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。