監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
亡くなった方に財産があった場合には、その相続人は、お互いに話し合うなどして遺産分割をします。しかし、その相続人の中に未成年者がいる場合には、特別の手続きが必要となります。
相続人に未成年者がいる場合には、成人とはどう違うのか、以下に説明します。
目次
未成年者は原則、遺産分割協議ができない
前提として、未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない(民法5条)とされています。法律行為とは、契約の締結等の財産上の行為とされています。
そして、遺産分割協議も契約の一種と言えますので、未成年者は、法定代理人の同意を得ることが必要となります。
成年年齢の引き下げについて(2022年4月1日以降)
平成29年の民法改正により、成年年齢は、20歳から18歳に引き下げられ、令和4年4月1日に改正民法が施行されました。この法律の施行により、令和4年4月1日時点で18歳になっていた人は、その時点で成人に達したことになっています。
成人になるのを待って遺産分割協議してもいい?
未成年者では、遺産分割協議ができないことから、成人になるのを待って遺産分割協議をすることを考える方もいるかもしれません。未成年者が来月成人になるというような場合であれば、待つことができる場合もあります。
しかし、相続をする際には、相続税が課せられることがあり、相続税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に申告・納税をしなければなりません。期限を過ぎると、延滞税がかかったり、相続税を軽減するための特例の適用を受けられなくなったりという不利益が生じます。そのため、未成年者が成人になるまで長期間遺産分割協議をしないままにしておくことは、難しいでしょう。
相続人に未成年者がいる場合は法定代理人が必要
既述のとおり、未成年者が遺産分割協議をするためには、法定代理人の同意が必要となります。では、ここでいう法定代理人とはどのような人をいうのでしょうか。
法定代理人になれるのは親権者(親)
一般に未成年者の法定代理人と言えば、未成年者の親権者となります。両親がそろっている未成年者の場合には、両親が法定代理人となりますし、両親が離婚又は死別している場合には父母のいずれかのみが法定代理人となります。
親も相続人の場合は特別代理人の選任が必要
未成年者自身とその親のいずれも相続人になっている場合(未成年者の両親の片方が亡くなった場合等)には、未成年者とその親で利益が相反するため、親は未成年者の法定代理人として遺産分割協議をすることはできません。
そのため、裁判所に対して特別代理人選任の申立てをする必要があります。
親がいない場合は未成年後見人を選任する
親が亡くなるなどして、親権者がいない未成年者には、法定代理人がいないことになります。そのような未成年者に対しては、法定代理人となる未成年後見人を選任することになります。
未成年の相続人が複数いる場合は、人数分の代理人が必要
相続人の中に複数の未成年者がいる場合には、未成年者それぞれに法定代理人が必要となります。そして、未成年者同士は利益が相反するため、一人が複数の未成年者の法定代理人を兼任することはできません。
特別代理人の選任について
既述のとおり、未成年者と親がいずれも相続人である場合などには、特別代理人の選任が必要となります。以下では、特別代理人について詳述します。
特別代理人とは
親権者が未成年者のために特別代理人を選任する場合(民法826条)の特別代理人とは、親権者が未成年者の法定代理人として代理権を行使することが不適切な場合に、この利益を保護するために家庭裁判所が選任する代理人のことを言います。
申立てに必要な費用
申立てに必要な費用としては、
- 収入印紙 800円分
- 郵便切手(申し立てる裁判所により異なります。)
が最低限必要な費用となります。
また、場合によっては特別代理人の報酬として予納金を収めるよう指示される場合もあります。
必要な書類
特別代理人を申し立てるには、子供の住所地を管轄する裁判所に対して、以下の資料を提出することになります。なお、裁判所の判断によっては、追加の資料が必要となる場合もあります。
- 申立書
- 未成年者の戸籍謄本
- 未成年者の法定代理人(親権者又は未成年後見人)の戸籍謄本
- 特別代理人の候補者がいる場合には、候補者の住民票又は戸籍の附票
- 利益相反に関する資料
- 利害関係人が申立をする場合には、申立人に利害関係があることを証明する資料
申し立ての流れ
特別代理人の選任の申立ては、未成年者の住所を管轄する家庭裁判所に対して記述の必要書類と費用を提出することで行います。提出の方法は、窓口に直接持参しても、郵送でも構いません。 必要書類提出後、裁判所の手続き状況にもよりますが、2週間から1か月程度で裁判所から連絡があるのが一般的です。
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未成年後見人の選任について
既述のとおり、親権者がいない未成年者に対しては、未成年後見人を選任する制度があります。 以下では、未成年後見について詳述します。
未成年後見人とは
未成年後見人は、親権者が亡くなった等の事情により、未成年者に法定代理人がいない場合に、家庭裁判所に申し立てることにより、選任される者をいいます。
申立てに必要な費用
申立の費用としては、
- 収入印紙 800円分
- 郵便切手代(申し立てる裁判所により異なります。)
必要な書類
未成年後見人の申立ての際には、以下の資料を提出することになります。
- 未成年者の戸籍謄本
- 未成年者の住民票又は戸籍の附票
- 未成年後見人の候補者がいる場合にはその戸籍謄本
- 未成年者に対して親権を行うものがいないことを証する書面
- 未成年者の財産に関する資料
- 利害関係人からの申立ての場合、申立人の利害関係を証する資料
- 親族からの申立人の場合、申立人の戸籍謄本
申し立ての流れ
未成年後見人の選任申立ては、未成年者の住所地を管轄する裁判所に対して既述の資料、収入印紙及び郵便切手を提出して申し立てます。提出の方法は、窓口に持参して提出しても、郵送しても構いません。
裁判所からは、申し立ててから、裁判所の状況によりますが、2週間から1か月程度で連絡があるのが一般的です。
未成年の相続人が既婚者の場合は代理人が不要
民法改正前は、未成年者が婚姻をしたときは、これにより成年に達したものとみなされていました(改正前民法735条)。 そのため、婚姻している未成年者は、法定代理人がいなくとも遺産分割協議をすることが可能となっていました。
民法改正により、婚姻は、18歳にならなければ、することができない(民法731条)ことになったため、今後は、未成年者が婚姻することはできなくなります。(なお、令和4年4月1日時点で、すでに婚姻していた16歳以上18歳未満の未成年者の女性は、依然として成人として取り扱われます。また、同日時点で16歳以上18歳未満であった女性は依然として婚姻でき、婚姻した場合には、成人に達したものとみなされるとの経過措置が設けられています。)
未成年の相続人が離婚している場合
未成年者が、婚姻によって成人に達したものとみなされた場合、その後、未成年者が離婚したとしても、成人に達したとみなされた法的効果は消滅せず、依然として成人として取り扱われます。
親が未成年の相続人の法定代理人になれるケース
親が相続放棄をした場合
親も未成年者も相続人だった場合でも、親が相続放棄をした場合には、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。そのため、相続放棄をした後は、親と未成年者の利益が相反することはなくなりますので、親が未成年者の法定代理人として遺産分割協議をすることが可能となります。
片方の親がすでに亡くなっており、未成年者が代襲相続人になった場合
例えば、父親をすでになくしている未成年者の父方の祖父母が亡くなった場合には、未成年者は代襲相続人となります。この場合、未成年者の母は、未成年者の父方の祖父母の相続人とはなりませんので、未成年者と利益が相反することはなく、法定代理人として行動することが可能となります。
未成年者を含む遺産分割協議を弁護士に依頼するメリット
相続人に未成年者がいる場合には、その親権者が代理権を行使することができるのか否か、判断することは難しいと思います。そのような場合に、弁護士にご相談いただければ、適切な手続きや分割方法をご提案させていただくことが可能です。
お悩みの際には、是非お気軽にご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)