監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
多くの場合において、遺産分割協議をするために財産目録(遺産目録)は必須のものとなります。
財産目録を作ることで、遺産分割協議から財産が漏れてしまうことを防ぐことができますし、遺産分割の対象となる財産についての各相続人の認識を統一することができます。
財産目録を作らずに遺産分割をしてしまうと、特に道路部分の土地や既に耕作をしていない畑、普段使われていなかった預金口座などが遺産分割の対象から漏れてしまうことがあります。
その場合、漏れた財産のためだけに遺産分割協議や相続手続きをしなければならなくなります。
目次
財産目録とは
財産目録(遺産目録)とは、遺産分割の対象となる財産を一覧としたものです。
不動産、預貯金、有価証券・・・などの財産の種類ごとに遺産を整理し、一覧表の形にします。
各相続人はこの財産目録を確認し、遺産分割の対象とすべき相続財産についての認識を共通のものとします。その上で遺産分割協議を行うことにより、スムーズな遺産分割協議等を行うことができます。
財産目録を作成できるのは誰?
財産目録は、ほとんどの場合、被相続人が亡くなり、相続が開始されてから、相続人が作ることになります。多くの場合、一人ないし一部の相続人が中心となって財産目録が作成されることが多いようです。
他にも、生前に被相続人自身が作成するケースもあります。この場合は被相続人が相続税対策や遺言書を作成していることが多いですが、遺言書がない場合でも、遺産分割がスムーズにいくように作成するケースもあります。
また、遺言書があるケースで、遺言書に遺言執行者が指定されている場合、遺言書に書かれている相続の手続きは基本的に遺言執行者が行うこととなります。この場合、財産目録の作成も遺言執行者が行うこととなります。
財産目録を作成するメリット
今度は、ご本人が生前に財産目録を作成することについてのメリットについてお話しします。
生前に本人が財産目録を作ることで、必要な相続税対策を行うことができたり、遺言書作成をスムーズに行うこともできます。また相続開始後にスムーズな遺産分割が行われることが期待できます。
生前贈与等の相続税対策ができる
ご本人が生前に財産目録を作成することで、相続税対策の必要性の有無や、必要となる相続税対策の内容を判断することができます。
例えば、財産目録を作成し、現在の財産の評価額が明らかになると、現時点でどれくらい相続税がかかりそうであるのかの見込みを知ることができます。
相続税がかかる場合には、かかる相続税の金額や税率、贈与した場合の贈与税率などに照らしながら、適切に生前贈与をしていくことで、相続税を減免させる効果も期待できます。
相続税申告の際に便利
先ほど述べたように、ご本人が財産目録を作成することによって、相続開始時にかかる相続税の見込みを知ることができます。
ご本人や相続人らは、あらかじめ納める必要のある相続税の金額を知ることができ、あらかじめ準備しておくことができます。
また、実際に相続税申告書を作成する際の参考とすることもでき、スムーズな手続きを期待できます。
遺産分割協議がスムーズになる
また、あらかじめご本人が財産目録を作成しておけば、相続開始後、すぐに、相続人らが遺産の全容を知ることができ、遺産調査が容易になります。
そのため、早い段階から内容のある遺産分割協議を行うことが期待できます。
特に、相続開始後10か月以内に相続税申告が必要である場合などには、余裕をもって遺産分割協議を行うことができる点で非常に有効です。
相続トラブルを防げる
財産目録を作成しておくことによって、遺産分割から一部の財産が漏れてしまうことを防ぐことができます。
特に、家の敷地と建物は遺産分割の対象となっているのに、隣地の所有者と共有になっている道路部分が抜けてしまっていたり、普段使っていなかったり、相続人に知られていない預金口座が抜けてしまったりすることなどが多いです。
このような事態が生じると、改めて遺産分割協議を行ったり、登記を依頼したり、銀行についての相続手続きを行う必要があり、余計な負担が生じてしまいます。
相続放棄は、相続開始後3か月以内に行う必要があり、非常にタイトなスケジュールで判断を行う必要があります。
あらかじめ、ご本人が財産目録を作成しておけば、相続開始後すぐに相続人が財産を把握することができますから、相続放棄の是非の判断をスムーズに行うことができます。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
財産目録の作成方法
財産目録の書き方
相続税対策や財産整理、遺産分割協議の資料とする財産目録については決まった書式はありません。手書きでもパソコンでも問題ありません。もっとも編集や加筆の容易さからパソコンで作られる方が多いようです。
記載する内容
預貯金
預貯金については、一般的に、金融機関名、支店名、口座番号、残高を記載することが必要であるといえます。
不動産
不動産については、登記を取り寄せて、登記に記載されている情報を記載します。多くの場合、所在、地番(家屋番号)、地目(種類構造)、地積(床面積)、持分、評価額等を記載することが必要といえます。
なお、登記がない場合は、固定資産税納税通知書の不動産一覧が記載されている欄をもとに記載するか、固定資産税評価証明書を取り寄せたうえでその内容をもとに記載することがよいでしょう。
有価証券
株式等については、銘柄、証券番号、単価基準日、単価、数量×単価(評価額)等を記載していくことが必要であるといえます。
自動車等の動産
動産をどこまで詳しく具体的に記載するのかは悩ましい問題であるのですが、一定以上の価値のあるものを特定して個別に記載し、それ以外については「家庭用財産」などとして一括で数万から数十万(実際の家具等の価値にもよります)等で評価することも多いようです。
一般によく動産の中でも特定されて記載されるものの例としては、自動車があります。
自動車がある場合、車検証を元に、登録番号、車体番号、登録年式、評価額等を記載するのがよいといえます。
借金やローン等の負債
負債がある場合、相続税の金額や、相続人が相続放棄するか否かにも影響をするため、きちんと記載をしておく必要があります。
具体的には、借入先名(金融機関名および支店名等)、借入金額(残高)等は少なくとも記載しておく必要があります。
財産目録はいつまでに作成すればいい?
相続税対策の資料や遺産分割協議の資料とするための財産目録自体には、いつまでに作成しなければならないとの期限はありません。
しかしながら、相続放棄や相続税申告はそれぞれ3か月と10か月の期限となっており、スケジュールが非常にタイトになります。加えて、相続開始から3年以内の相続人への贈与は、相続税申告上は相続財産に持ち戻されてしまいますから、相続税対策は早期に対策し、十分な準備期間をとる必要があります。
基本的に、財産目録を早く作ることにはデメリットはないことからしても、早期の作成をお勧めします。
財産目録が信用できない・不安がある場合
次に相続開始後の問題ですが、ご自身で財産目録を作成していない場合、相続開始後、他の相続人から遺産目録を受け取ったが信用できないという問題が生じることがあります。
この場合には、自ら財産調査をし、財産目録を作成しなおしたり、家庭裁判所での遺産分割調停を利用することが必要となることが考えられます。
円滑な相続は財産目録の作成が大切です。弁護士へご相談ください
ご本人が財産目録を作成する場合でも、相続開始後相続人の方が財産目録を作成する場合でも、どこから手を付けてよいかわからないという方もたくさんいらっしゃると思います。
また、他の相続人が作成した財産目録が信用できず、改めて財産調査をする場合は、その後相続が紛争化する可能性が高いものといえます。
このような場合には、一度弁護士にご相談いただき、財産目録の作成から弁護士に任せていただくのも良い選択肢であるといえます。
そのような場合には一度ぜひご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)