不当解雇、つまり、解雇の有効性が争われる労働審判において、会社側が何を主張するべきか、また、労働者側の主張に対し、答弁書で反論をすることになりますが、答弁書では何に気を付ける必要があるかを把握しておくべきです。以下では、会社側が主張すべき点、答弁書のポイントについて、解説をしていきます。
不当解雇の労働審判で会社側が主張すべき反論とは?
労働審判は、訴訟とは異なり、審理期間が短いため、反論のポイントはできるだけ絞る必要があります。以下、会社側が主張すべき反論について、詳しく解説していきます。
①「労働者」に該当しない
まず、労働審判では、「労働者」に該当することが前提となっています。そのため、労働審判を申し立てた者が「労働者」に該当しない場合は、会社側がそれを主張すべきです。
労働者に該当するか否かについては、明確な基準があるわけではありませんが、以下のように判断をします。
労働者性の判断基準
「労働者」に該当するか否かは、形式的な面ではなく、その実態によって判断されます。具体的には、契約内容に関わらず、会社の指揮命令に基づいて業務を行っていたのであれば、労働者と判断されるでしょう。会社としては、反論をする前提として、まずはその実態を把握しておくことが必要です。そして、後から証拠として提出できるよう、資料等を作成して保管することが有用です。
②自主退職・合意退職である
申立人が、解雇と主張しても、それが自主退職・合意退職であれば、解雇には当たりませんので、その旨の主張をすべきです。もっとも、主張のみではなく、その証明をする必要がありますので、会社を辞めたことについて、従業員の同意があったことが分かる資料を提出できると良いです。
③普通解雇である
解雇であっても、普通解雇として合理的な理由があるのであれば、それを主張しましょう。普通解雇については、就業規則上の根拠があり、それに該当するとしても、それが客観的に見て合理的な理由があり、社会通念上相当な処分であると認められる場合でないと、無効となります。
④整理解雇である
整理解雇の場合、普通解雇と異なり、経営上のやむを得ない理由がある場合には、有効となります。では、どのような場合に、経営上のやむを得ない理由があるとされるのか、具体的には、4要件と呼ばれる以下の要件がありますので、会社としては、それに該当することを主張することになります。
整理解雇の4要件
整理解雇の4要件とは、
- 人員整理の必要があること
- 解雇を回避するための努力をしたこと
- 解雇対象者の選定につき合理性があること
- 解雇手続きが妥当性を欠かないこと
です。
⑤懲戒解雇である
懲戒解雇の場合は、有効性が認められる前提として、就業規則上の根拠があり、その懲戒事由に該当することが必要です。また、就業規則に規定する懲戒事由に該当したとしても、懲戒解雇という選択肢を取らざるを得ないような事情があることを主張、立証することが必要です。
基本的には、注意ないし指導から始まり、処分の段階を踏んでも、従業員の問題行動が改善しなかった場合に、懲戒解雇が有効に認められ得ると考えられるので、段階を踏んで処分を行ったことを記録として残しておくようにしましょう。
不当解雇の労働審判における答弁書の重要性
労働審判においては、まず、申立書が提出され、そこには、労働者側の主張が記載されています。そして、その労働者側の主張に対する反論を記載する書面が、答弁書です。つまり、労働審判において、最初に出す会社側の主張を記載するものです。
上記でご説明した通り、労働審判は、短い期間で審理を行います。そのため、答弁書に会社側の反論をしっかり記載しないと、本来であれば主張すべき会社側の反論がしきれないまま、審理が終了してしまう可能性があります。
以上のように、労働審判における答弁書は、非常に重要なものですので、入念に準備をすることが必要です。
労働審判(不当解雇)の答弁書を作成する際のポイント
上記の通り、労働審判における答弁書は、非常に重要ですが、具体的には、以下の点に留意して作成するようにしましょう。
まず、反論を組み立てる前提として、申立書に記載された主張を正確に理解して把握することが重要です。申立書において、不当解雇との主張がなされている場合は、反論として解雇の正当性を主張することになりますが、その際は、解雇までの経緯をしっかり整理して主張し、証拠も出来るだけ提出しましょう。
金銭解決が可能であることを記載する
労働者側が、不当解雇を主張している場合であっても、会社から一定の解決金の支払をすれば、退職に応じることも可能と考えているケースはあります。そのようなケースで、金銭解決に向けた話をするために、会社側としても金銭解決が可能なのであれば、その旨は記載すると良いでしょう。
解決金や損害賠償が減額されるケースとは
労働者側及び会社側が、金銭解決が可能と考えていたとしても、その金額で折り合わないことはあります。その場合に、どの程度が落としどころになるかは、労働者側の主張がどこまで法的に筋が建っているか、つまり、仮に審判となった場合に解雇無効となる可能性がどの程度あるかによって変わってくるでしょう。
例えば、不当解雇との判断になるようなケースにおいて、それでも労働者に退職をしてもらうためには、一定程度高額の解決金ないし損害賠償金を支払うことが求められるでしょう。他方、およそ不当解雇とまでは言えないであろうケースでは、相場から減額された金額で解決が可能になることがあるでしょう。
会社側の反論を裏付ける証拠を提出する
上記の通り、会社側としては、しっかりと事実関係を主張する必要がありますが、その主張を裏付ける証拠をどこまで提出できるかも重要です。会社側の主張に対し、労働者側が、その様な事実はないとの反論をした場合、裁判所は、真偽が不明となり、会社側の主張が認められないこともあります。
そのため、その様な場合に備え、会社としては、労働者とのやり取り等について、記録に残すような運用をしていくべきです。
不当解雇について争われた裁判例
不当解雇について争われた裁判例はいくつもありますが、今回は、能力不足を理由に普通解雇したのに対し、従業員が、解雇が不当であると争った事案を紹介します。
事件の概要
会社は、従業員Aについて、仕事の能力が不足しているとして、「労働能力が劣り、向上の見込みがない」との会社の就業規則の定めに該当することを理由に、従業員Aを普通解雇しました。
それに対し、従業員Aは、解雇が無効であると主張し、従業員としての地位の保全、賃金の仮払い等を求めました。
裁判所の判断
裁判所は、従業員Aの労働能力について、平均的な水準には達していないことを認定しました。一方で、それだけでは、就業規則の規定に該当するとはいえず、著しく労働能率が劣り、しかも向上の見込みがないときでなければならないとしました。
そして、従業員Aについては、上記に該当するとまでは言えないとし、結論的には、本件解雇は、解雇権の濫用であったとして、無効と判断しました。
ポイント・解説
会社は、従業員Aの能力不足を主張しましたが、その主張は、積極性がない、協調性がないなど、抽象的なものであり、かつ、その裏付けがないとされました。
また、会社としては、従業員Aの能力不足を改善するために、他に取り得る手段があったはずとも判断されています。
上記から分かるように、やはり、解雇は簡単には認められません。また、会社としては、解雇以外に取りうる手段があるのであれば、それを尽くさなければならないともいえます。
労働者から不当解雇を訴えられたら、お早めに弁護士までご相談下さい。
会社にとっては、従業員を解雇する場合、従業員から解雇の無効を主張される可能性は常にあります。そのような場合に備え、会社の運用を確立しておく必要があります。また、いざ従業員から、不当解雇の主張をされた場合は、早急に対応をする必要があります。
従業員から不当解雇を主張された場合は、お早めに弁護士に相談をすることをお勧めします。
日本の企業では、人材の育成や組織の活性化を目的として、配置転換が多く利用されています。
この配置転換は、能力や適性に応じた適材適所の人材配置を目指すにあたって有力な手段となる一方で、適法に運用しなければ、配置転換が違法であって無効と判断されることもあり、従業員からの損害賠償のリスクを負うことになります。
この記事では、特に、仕事ができない従業員を配置転換するときに注意すべき点やリスクについてご説明させていただきます。
仕事ができない社員を配置転換できる?
配置転換は、企業内における人材の適正な配置のために利用されることもあります。
現在配置されている職場では、求められている水準の仕事ができない従業員がいたとき、他の職場での仕事であれば十分に能力を発揮してもらうことが出来ることもあります。
「仕事ができない」ことを理由とした配置転換は、企業だけではなく従業員にとっても有益となることもあるため、直ちに無効と判断されるわけではなく、有効に活用できるケースも多いです。
配置転換命令が無効となるケースもある
一方で、配置転換を命じるための根拠を欠いていたり、その目的や方法が適切でなかったりした場合には、配置転換が違法であり、無効と判断されることもあり得ます。
労働契約や就業規則に記載されていない
会社が、従業員に対して配置転換を命じるためには、会社が配置転換命令をする権限を有していることについての根拠が必要となります。
したがって、当該従業員との間で取り交わしている労働契約書や就業規則によって、会社が配置転換を命令できる旨が明記されている必要があります。
雇用契約で職種や勤務地が限定されている
就業規則で、会社が全従業員に対して、配置転換を命じることが出来ると記載されていても、ある従業員との間で、職種や勤務地を限定し、配置転換を予定していない契約内容となっている場合は、当該労働契約の取り決めが優先されます。
そのため、職種や勤務地を限定して雇用契約を取り交わしている従業員に対する配置転換は、就業規則で命令権が定められていても、違法と解されるリスクが高いと言えます。
労働者に著しい不利益を負わせるものである
配置転換をすることで、従業員に著しい不利益が生じる場合には、会社に配置転換の命令権がある場合でも、その権限を濫用したものとして違法と判断されることがあります。
例えば、ひどい腰痛などの持病を持っている従業員を、重い物を運ぶような仕事に配置することは、この持病を悪化させ、仕事の継続を不可能にさせてしまう可能性もあるため、通常甘受すべき程度を超えた、著しい不利益を与えるものと判断されやすいと言えます。
退職を促すことを目的として配置転換を命じた
前項で記載したように、配置転換に伴う不利益が生じるからといって、直ちに配置転換が無効になるとは言えません。
しかし、従業員が配置転換を嫌がることを見越して、退職に促すために命令をするような場合は、人事権の濫用と判断されやすく、違法とされる可能性があります。
違法な配置転換を行った場合の会社のリスク
違法な配置転換を行ってしまった場合、その従業員から配置転換の有効性を争われ、団体交渉を申し入れされたり、労働審判や裁判に発展してしまったりする可能性があります。
また、退職の促しや嫌がらせといった不当な目的で配置転換をしてしまった場合、従業員から慰謝料請求をされてしまうケースも考えられます。
社員から配置転換を拒否された場合の対処法は?
配置転換を適切に行うことは、会社にとって重要な人事管理手段の一つです。
そのため、正当な理由による配置転換を拒む従業員がいた場合、就業規則の根拠は必要ですが、業務命令に理由なく従わないことを理由として懲戒の対象とすることが考えられます。
しかしながら、懲戒をしたことが原因で有用な人材を失う結果にもなりかねないため、まずは社員から応じられない理由を聞き取るなどして、説得を試みたり、負担軽減の措置を検討したりするなどの方法を取った方がよいでしょう。
仕事ができないことを理由に辞めさせることは可能か?
能力不足により仕事ができないことを理由として、従業員を解雇することは、就業規則に解雇事由として記載されていたとしても、非常にハードルが高いものと言えます。
当該従業員の業務を遂行する能力が明らかに欠けていることが、客観的な証拠をもって明らかであったとしても、使用者側には、従業員の解雇を回避する努力義務があります。
そのため、適正な社員教育や仕事の割り当てを工夫する等、当該従業員の雇用継続ができるような措置を尽くしても、なお改善の見込みがないことも必要となってきます。
【トラブル防止】仕事ができない社員を配置転換する際の注意点
仕事ができないことを理由とした配置転換を行うにあたって、トラブルを防止するには、事前の対策も重要です。この注意すべきポイントについてまとめました。
配置転換前に教育・指導を行う
仕事ができないからと言って、直ちに配置転換をするのではなく、まずは適正な教育・指導を行い、改善の機会を与えましょう。
これで改善が見込まれるのであれば、配置転換をするよりも良い結果となることもあります。
他方で、、改善の見込みがなかったとしても、教育や指導の内容を記録に残しておくことで、従業員に配置転換の理由を説明するときの資料として活用し、主観的な判断ではないことを示すことで、その理解を得られやすくなり得ます。
また、最終的に解雇や懲戒を検討するにあたっての重要な資料となり得ます。
配置転換について本人の同意を得る
配置転換をするにあたって、あらかじめ従業員本人からの同意を取っておくことができれば、トラブル防止にはもっとも有効です。
このとき、対象の従業員には、変更が生じる労働条件の内容、生じると考えられる不利益の内容、不利益を軽減するための措置を講じる場合にはその内容をきちんと説明し、理解を得られるよう試みることが重要です。
配置転換の理由を説明する
会社が配置転換を行おうとしている理由・目的についても、詳細な説明を行っておくべきです。
この説明をきちんとしておくことで、会社が不当な目的で配置転換をするものではないことの理解を得ることに繋がります。
また、従業員が説明した理由に納得してくれるようであれば、配置転換にも合意してくれる可能性は高まります。
能力が不足していることを証拠化しておく
会社として、配置転換の必要性や目的の詳細を説明し、不利益が大きくなりすぎないように配慮を尽くすなどして、真摯に説得を行っても、配置転換を拒否する従業員に対しては、やむを得ず懲戒を行うべき場合もあります。
しかしながら、懲戒を行う前提として、従業員が拒否している配置転換が正当な人事権の行使であることを、証拠をもって示せるようにすることが重要です。
そのため、当該従業員の能力が不足していることを証拠化しておくべきです。
例えば、他の従業員と比べて時間当たりの生産数が少ないと言った場合は、1時間あたりの制作数などを明確な数値として記録しておくことなどが考えられます。
配置転換後のフォローアップを行う
配置転換により、従業員は、慣れない仕事にストレスを抱えたり、新しい同僚との関係性の構築がうまくいかなかったりすることが想定されます。
そのため、配置転換後に面談の機会をもうけたり、ストレスチェックを行ったりして、従業員が必要とするサポートを提供することを検討すべきです。
このようなフォローが不足していると、従業員が、会社がメンタルヘルス対策を何も行わなかったとして、安全配慮義務違反による賠償請求などを行うおそれがあります。
配置転換の有効性について争われた裁判例
現在の業務内容に適性がないことから、保有している資格を活用しうる業務への配置転換を行った事例において、その配置転換の有効性について争われた裁判例をご紹介いたします。
事件の概要
令和5年(ネ)第307号 (令和5年8月31日 東京高裁判)
本件は、社会福祉法人の被告が、理学療法士として働いていたが勤務成績が著しく低かった原告を、職員の就業に関する健康増進や労働災害等を防止するための取り組みとして新設した部門に配置転換したことについて、原告が権利濫用により無効であると主張し、被告に対し、①新部門に勤務する義務を負わないことの確認、②不法行為による慰謝料支払いを求めた事案です。
なお、新部門が担うことになった業務は、これまで被告の人財部が担ってきたものでした。
そのため、原告は、理学療法士として勤務していた原告を、新たに新部門に配置することは業務上の必要性がなく、不当な目的での配置転換であって権利濫用にあたると主張していました。
裁判所の判断
第一審は、原告の訴えを認めました。
しかし、控訴審では、原告の訴えには理由がないものとし、その請求をすべて棄却しました。
このとき、裁判所は、本件配置転換命令の業務上の必要性について、人財部が担ってきた業務を、新たに産業理学療法の知見を取り入れて実施しようという場合に、従来どおりこれを人財部の担当とするのか、人財部からその業務の一部を切り離して別の部門に担わせるのかは、経営判断として被告に広範な裁量があるとしました。
そして、原告のこれまでの勤務実績について、ミーティング不参加といった勤務態度不良に対する上司からの注意・指導によっても改善がなく、「他部門との連携」「チームワークとコミュニケーション」等といった事項は最低評価であったことを認定し、これまでの小規模な事業所へ原告を配置することを不適当と判断しました。
他方で、被告が、理学療法士の資格を有し長年の実務経験もある原告を本件取組に携わるのに適しているものと判断して配置転換したことについて、企業運営上及び人事管理上の必要性が肯定されるとしました。
ポイント・解説
本件は、仕事ができない従業員を、より適正のある業務へ配置転換することの有効性が争われた事案であるところ、「仕事ができない」ことについて、証拠から具体的かつ客観的に示されています。
また、裁判所は、必要性の判断にあたって、新部門に配置する従業員を原告と決めた理由についても着目しています。
そのため、「仕事ができないこと」の評価にあたっては、上司などによる主観的な評価ではなく、できるだけ明確な評価基準のもとに、評価内容が示せるようにした方が良いでしょう。また、後から内容の検証が出来るように記録化しておくことも重要です。
また、配置転換予定の業務に、どのような理由で異動させることを決定したかについても、具体的に説明できるようにしておくことが重要です。
配置転換による労使トラブルを防ぐには、人事労務を得意とする弁護士にご相談下さい。
明らかに仕事ができていない従業員を放置することは、会社の生産性を下げるだけではなく、他の従業員に負担がかかることで会社に対する不満を募らせる原因となることもあります。
このようなときは、会社として配置転換の命令を検討すべきですが、適切に行わなければ、無用な紛争リスクを負うことにもなりかねません。
裁判や労働審判まで紛争が発展してしまうことは、企業のイメージダウンにもつながりかねず、大きな損害となり得ます。
このとき、人事労務を得意とする弁護士にご相談いただければ、過去の判例などを踏まえて、従業員への対応方法のご提案や、紛争化のリスクを抑えるための事前準備についてのアドバイスをさせていただくこともできます。
仕事ができない従業員の対応をご検討している方は、是非一度弁護士にご相談ください。
内定を出したものの、その後、内定者に問題が生じたり、使用者側に経営の問題が生じるなどして、内定を取り消さなければならない事態が生じることがあります。しかし、内定者からすると、内定を取り消されることで、就職先がないまま学校を卒業することになるなどの問題に直面しかねません。
また、既卒の内定者においても、今後の生活に大きな影響が生じかねませんので、内定取消によってトラブルに発展する可能性があります。ここでは、円満に内定取消を行う方法という観点から、ご説明をさせていただきます。
内定者の問題行為を理由に内定を取り消せるのか?
内定によって、労働契約が成立しますので、内定を取り消すというのは、内定者の解雇を意味します。では、内定者の問題行動を理由にして、内定取消(解雇)が認められるのでしょうか。
これについては、個別に考えて行く必要がありますが、内定を取り消すことに、客観的に合理性があり、社会的にも相当といえる場合には内定取消が有効と解されています。以下において、具体的な場合を想定しつつ、内定取消が許されるのかを見ていきます。
内定者側の事由により内定取消が認められるケース
犯罪行為を行った場合
具体的な犯罪行為の内容にもよるとは考えられますが、内定後に犯罪行為が行われた場合には、内定を取り消すことができる可能性があります。例えば、内定を出した後に、その内定者が重大な犯罪を犯した場合や、懲役刑に処されるなどして出勤できなくなった場合は、内定取消に十分な理由があるといえるでしょう。
また、内定者が、横領行為をしたといった場合、それによって、内定者に対する信頼関係が損なわれたといえるため、内定を取り消すことができると考えられます。
重大な経歴詐称が発覚した場合
重大な経歴詐称が発覚した場合であれば、それを理由に内定を取り消すことができると考えられます。問題は何が重大な経歴詐称に当たるかです。例えば、職務上必要となる職歴に虚偽があった、実は必要な資格を取得していなかったという場合には、重大な経歴に詐称があったといえ、内定を取り消すことができると考えられます。
他方で、出身地が異なるなど採用に当たって重要ではない事項に関して詐称があったとしても、それを理由にした内定取消は許されないことになります。
“悪い噂”で取消は認められるのか
内定者に悪い噂があるというだけでは採用内定を取り消すことは出来ないと考えられます。噂があるとしても、それが真実とは限りませんし、悪い噂があるというだけで、内定取消をすることに合理性・社会的相当性があるとも考えられないためです。
悪い噂がある場合には、まずは、それが真実かを確認すべきでしょう。そして、その噂が真実であったときに初めてその事実を踏まえて、内定取消の可否を判断すべきであると考えられます。
円満な内定取消とリスク回避の重要性
内定取消で企業名が公表されるケース
学生生徒等の適切な職業選択のために、一定の条件を満たすと、企業名が公表されることになります。具体的な条件に関しては、次のものがあります。
- 2年度以上連続して行われたもの
- 同一年度内において10名以上の者に対して行われたもの(ただし、新規学卒者の安定した雇用を確保するための措置を講じ、これらの者の安定した雇用を速やかに確保した場合を除きます。)
- 生産量その他事業活動を示す最近の指標、雇用者数その他雇用量を示す最近の指標等にかんがみ、事業活動の縮小を余儀なくされているものとは明らかに認められないときに行われたもの
- 内定取消しの対象となった新規学卒者に対して、内定取消しを行わざるを得ない理由について十分な説明を行わなかったとき
- 内定取消しの対象となった新規学卒者の就職先の確保に向けた支援を行わなかったとき
上記のとおり、一定の場合には、企業名が公表されることもありますので、内定取消は慎重に行う必要があります。
内定取消を円満に行う方法
内定取消の事由を予め明示しておく
どのような場合に、内定取消がなされるかが分からないと、恣意的な内定取消が行われたと認識される可能性が高いでしょう。また、根拠があった方が内定取消に納得を得やすいといえます。そのため、採用内定通知や入社誓約書などに内定取消事由を明記しておいた方がよいと考えられます。
内定取消の通知は早めに行う
内定が取り消された場合、内定者は、次の就職先を見つけなければなりません。しかし、内定取消が就労開始予定日の直前になると、別の就職先を探すだけの時間的猶予がなくなってしまいます。今後の内定者の生活を守るためにも、内定取消を行なわなければならない場合には、早めに内定取消の通知を出すべきでしょう。
内定者と直接話し合う
内定を取り消す際には、内定者と直接話し合うことも大切です。例えば、会社の経営上の都合で内定を取消すとされても、内定者は、それが真実か否かを判断できませんし、内定取消が必要なまでの状況かも判断できません。
また、内定者側に問題があり、内定を取り消すという場合も、話合いをしなければ、内定者は不満を溜めるだけでしょう。紛争を予防するという観点からは、内定者と十分に話し合った方がよいといえます。
金銭補償等を提示する
円満に内定取消を行うにあたっては、金銭的補償を行うということや別の就職先を紹介するということも重要となります。内定が取り消されると、内定者は、その後の生活に影響が生じる可能性がありますが、金銭的補償や別に就職先があれば、このような影響を減少させることができます。
これによって、内定者の納得を得やすくなると考えられますので、内定取消に当たっては金銭的補償の提示も検討すべきでしょう。
トラブル防止のためにも合意書を作成
内定者と話し合いがついた場合には、内定取消に関する合意書を作成しておくことが有益です。口頭の話だけでは、どのように話し合いの決着がついたのかが不明確になってしまいますし、場合によっては、内定者の気が変わって、再度争って来る可能性もあります。内定者との間で話し合いがついた場合には、必ず合意書を作成しておくべきでしょう。
内定取消について争われた裁判例
事件の概要
本件は入社前に研修が行われていたところ、使用者は、当該研修の進捗状況に不満を有し、その旨を内定者に伝えていた上、内定者に内定辞退を促し、その内定者に対する研修を打ち切っているなどの対応をしていました。この状況で、内定者が内定辞退の通知書を送付したという事案です。
内定者は、内定辞退の通知は無効であり、使用者による一方的な解約(内定取消)として、地位確認や給与及び慰謝料の支払いを求めました。これに対し、使用者は、内定者が別の会社に行きたいと相談しており、内定者による内定辞退などとして争いました。
裁判所の判断(東京地判令和5年12月18日(令和4年(ワ)第27187号、令和5年(ワ)第12591号))
裁判所は、次の①~⑤記載の事実関係に着目し、内定者からの内定辞退の申出がないにもかかわらず、使用者が内定を辞退したものと扱ったものと認めるのが相当と判断しています。
- 使用者が当該研修の進捗状況に不満を有し、その旨を内定者に伝えていたこと
- 使用者が内定者に内定辞退を促していたこと
- 使用者が内定者に対する研修を打ち切ったこと
- 内定者に対し内定通知書(ひな形)を送付し、その中においても入社前の研修の大幅な進捗遅れを指摘していたこと
- 内定者が労働相談情報センターに相談に行っていたこと
他方で、使用者側が主張する事実(内定者が別の会社に行きたいと相談したこと)については、内定者が当該使用者に入社する必要性が高かったこと(内定者は、外国人であり、就労ビザ取得のために当該使用者に入社する必要性が高い状況がありました。)、当該使用者に入社できるように内定者が労働情報相談センターに相談に行っていることを踏まえて、当該事実は認定できないとして、使用者側の主張を排斥しました。
その結果、裁判所は、内定者の労働者としての地位を認めるとともに、給与の支払いと、慰謝料として30万円の支払いを命じる判決を下しました。
ポイント・解説
本件は、内定者側から内定辞退の通知書が出ているものの、それが無効であるとした上で、使用者による一方的な解約(内定取消)と認めた事案です。本件では、使用者側が内定者に多々不満を伝えた上で、使用者側から内定辞退の通知書(ひな形)を送り、その中でも研修の大幅な進捗遅れを指摘しているといった事情がありますので、内定者からの内定辞退の通知書があったとして、内定辞退の意思と見ることは困難でしょう。
この裁判例は、内定辞退をさせたいがために使用者側が内定辞退を強制してしまった事案といえます。内定者側に問題があるとしても、丁寧に話し合うなどして解決を図った方が良かったといえるでしょう。
内定取消に関するQ&A
内定取消となった根拠について、内定者に明示する義務はありますか?
根拠を示す必要があります。内定によって労働契約が成立していますので、内定取消というのは解雇に当たります。そのため、労働基準法第22条が適用されることになりますので、内定者が証明書の交付を請求した場合には、遅滞なくその理由を示さなければなりません。また、理由を示さずに内定取消をするのはトラブルに発展しかねませんので、この観点からしても、理由を示した方が良いでしょう。
内定取消の通知を、電話やメールで行うことは認められますか?
内定取消に関して、電話やメールなどの方法で、通知を行うということも可能です。ただし、後から言った言わないの争いになる可能性がありますので、電話だけで内定取消通知を行うのは避けるべきでしょう。
内々定の状態であれば、どのような理由であっても内々定を取り消すことは可能ですか?
内々定というのは、内定の前段階であり、内定をするという予定を伝えるものなどと言われています。一般的には、内々定段階では、労働契約が成立していないと理解されていますので、基本的には、内々定を取り消すことは問題ないと考えられます。
ただし、「内々定」という表現を用いていたとしても、具体的な状況によっては、「内定」に当たる可能性があります。また、内々定段階であっても、場合によっては損害賠償請求が認められる可能性があります。したがって、どのような理由であっても内々定を取り消すことができるとまではいえません。
内定取消で金銭補償を提示する場合の金額の目安について教えて下さい。
その内定者に支払いを予定されていた給与や、内定取消を行った時期によっても変動すると考えられますが、慰謝料としては、50万円~100万円程度になると言われています。
内定取消を連続して行った場合、企業名が公表される可能性はありますか?
公表される可能性があります。
上記でも記載をしましたが、2年連続で内定取消しを行った場合には企業名が公表されると規定されています。今回の場合、「連続して」ということなので、少なくとも2年連続で内定取消を行なったのでしょうから、企業名が公表される可能性があるといえます。
入社の際に必要と定めていた資格を取得できなかった場合、内定を取り消すことは可能ですか?
内定を取り消すことができると考えられます。
今回の場合、入社の際に必要と定めていた資格ということなので、内定に当たって必要不可欠な資格であったと考えられます。その資格なく労働に従事することは困難でしょうから、内定取消に十分な理由があると考えられます。
内定を取り消す場合、解雇予告手当を支払う必要はありますか?
厚生労働省は、内定取消の場合であっても、解雇予告・解雇予告手当に関する規定の適用があると解しています。そのため、30日前までに内定取消の通知をしていない場合には、解雇予告手当を支払った方が良いでしょう。
採用内定後のインターンシップで問題行為が判明した場合、内定は取り消せますか?
問題行動の内容次第では内定を取り消すことができます。
例えば、インターンシップで周囲に挨拶をしなかったなどといった問題の場合、内定を取り消すだけの十分な理由があるとはいえませんので、内定取消は違法となるでしょう。
他方で、問題行動がインターンシップ中に会社の備品を盗んだなどといったものである場合には、内定を取り消すことができると考えられます。問題行動の理由次第によって結論が異なりますので、まずは、どのような問題が発生したのかを精査した方が良いでしょう。
採用内定通知書に内定取消となる事由を記載する場合、どのような内容を明記しておけば良いでしょうか?
一般的には、①予定されていた時期に内定者が卒業できなかった場合、②健康状態の悪化などによって職務が遂行できなくなった場合、③採用手続きを履行しなかった場合、④経歴詐称、⑤必要な資格を取得できなかった場合、⑤刑法その他の刑罰法規に違反する行為があった場合、⑥その他従業員としての適格性を欠く事情があった場合、⑦経営上の理由で内定者を就労させることが困難になった場合、といった事由を明記していると考えられます。必要に応じて、これらの事情を明記するのがよいでしょう。
内定を辞退するよう誘導させる行為はパワハラにあたりますか?
無理やり辞退をさせるような行為になっているのであれば、パワハラに当たると考えられます。内定によって労働契約が成立していますが、内定先の会社の従業員は、内定者に優越的な関係にあると考えられます。このような関係性で、内定辞退を強制するような行為があったのであれば、業務の適正な範囲を超えて精神的苦痛を与えているといえますので、当該行為はパワハラに当たると考えられます。
内定取消を円満に行うには会社側の配慮が必要です。労使トラブル防止のためにも、まずは弁護士にご相談下さい。
ここでは、円満に内定取消をするという観点からご説明をいたしました。内定者からすると、内定が取り消されると、その後の生活に大きな影響を受ける場合もあります。また、新卒者の場合、新卒での就職という機会を失うことになりますので、その影響は重大です。
これから内定取消をしようとする場合や、内定取消でトラブルに発展している場合、そのほか内定取消に関してお困りのことなどがある場合には、ぜひ弁護士法人ALG&Associatesにまでご相談していただければと思います。
この記事では、従業員が会社のお金を横領した場合に、会社がとるべき対応、会社がとってはいけない対応について解説をしています。
従業員の横領が発覚した場合の対応
自宅待機命令
従業員の横領が発覚した場合、事実関係を調査するために、対象従業員に対して自宅待機命令を発することが考えられます。自宅待機命令を発するためには就業規則上の根拠が必要となります。
事実関係の確認
対象従業員に対して何らかの処分を行うためには事実関係を確認し、客観的な証拠を押さえる必要があります。事実誤認により対象従業員に対して懲戒処分を行った場合、対象従業員から懲戒処分の有効性が争われることもあります。
横領の証拠・証言の収集
従業員の横領が発覚した場合には、横領の証拠を押さえることが重要です。
証拠が不十分な状態で懲戒処分を行うと対象従業員から懲戒処分の有効性が争われる可能性があります。
また、証拠が不十分な状態で対象従業員に対して民事・刑事上の措置をとった場合、会社側が違法な措置を行ったとして民事・刑事上の責任を問われる可能性があります。
周囲の従業員から聞き取りをする際のリスク
周囲の従業員から聞き取りをすることにもリスクがあります。
社内に共犯者がいる場合には証拠隠滅の機会を与えるリスクが生じます。また、聞き取りを行った従業員が横領の事実について口外することで、対象従業員に対する名誉棄損となったり、横領の事実が社外に漏れて会社のレピュテーションが低下したりするといったリスクが生じます。
聞き取りにあたっては、客観的な証拠を押さえた上で、聞き取りを行う従業員との間で口外を禁止する旨の誓約書を取り交わすことが重要です。
横領した従業員へ聴取
横領が疑われる従業員に対してはまずは犯人であると決めつけることなく慎重に事実確認を行うこと、事実確認の過程で対象従業員に対して弁明の機会を与えることが重要です。
対象従業員が横領の事実を認めた場合や、横領の事実に対して不合理な弁解を行った場合には、そうした状況を記録した上で、可能であれば、対象従業員に対し、横領した金員の返還を約束する旨の書類を作成させることが有効です。
横領した従業員を懲戒解雇とすることは可能か?
懲戒解雇については可能な場合と可能でない場合とがあります。
就業規則における懲戒解雇事由
横領した従業員を懲戒解雇するためには就業規則に懲戒解雇の定めを設けることに加え、懲戒解雇事由として横領した場合を含めて規定することが必要です。
また、形式的に懲戒解雇事由に該当する場合であっても、横領した金額が僅少である場合など、対象従業員の非違行為の程度に対し、懲戒解雇が重きに失すると評価される場合には、懲戒解雇が無効と判断される場合もあります。
解雇予告の除外認定について
懲戒解雇の場合、解雇予告を不要とする旨就業規則で定めることも可能です。
もっとも、対象従業員が、この点を争い、労働基準監督署に通報した場合、解雇予告の要否について労働基準監督署が判断を行い、解雇予告を不要とするほどの事情がないと判断された場合には、解雇予告が必要との結論になる場合もございます。
就業規則上、解雇予告の除外認定について労働基準監督署の判断にゆだねるとする規定(労働基準監督署が解雇予告を不要であると認定した場合にはこれを行わない)を設けているものもありますが、このような規定を設ける必要はありません。
民事上の責任追及「損害賠償請求」
横領は会社に対する不法行為ですから、会社から従業員に対して不法行為に基づく損害賠償請求を行うことが可能です。また、横領は、会社と従業員との間の労働契約上の義務に反する行為であると評価できる場合もあることから、会社から従業員に対して債務不履行による損害賠償請求を行うことも可能です。
給与から天引きすることは認められるか?
賃金は全額払いの原則があります。
そのため、従業員の自由な意思によると認められる場合でない限り、給与からの天引きは認められません。
また、従業員が天引きを了承した場合であっても、事後的に自由な意思によらないと判断されることも少なくありません。これは、経験則上会社と従業員との力関係は対等ではなく、従業員は会社との間で意思に反する合意を交わしてしまう場合もあると考えられているからです。
したがって、横領にかかる損害について給与から天引きをするとの対応は、避ける方が無難です。
身元保証人に返還を求めても良いのか?
身元保証人に返還を求めることも考えられます。
もっとも、身元保証人に返還を求めるためには、会社と身元保証人との間の身元保証契約が有効に成立していることが必要です。
身元保証契約は入社時に締結することが多いと思いますが、通常、この時点では、従業員の債務の範囲が明らかではないことから、身元保証の範囲も不明ということになります。
そのため、身元保証契約にかかる保証契約は、いわゆる根保障契約ということになります。
平成29年の民法改正により、根保証契約については、極度額の定めがなければ無効となります。したがって、身元保証契約を締結するにあたっては、極度額について定める等、契約が有効となるように留意する必要があります。
また、身元保証人から保証の範囲が争われることもあります。保証に範囲は合理的・相当な範囲とされるところ、一般的には限定される傾向にあります。したがって、横領の額の全額について、身元保証人に対して返還を求めることができない場合もあります。
刑事上の責任追及「刑事告訴」
横領は、犯罪ですから、会社が被害者であるとして、対象従業員を刑事告訴することも考えられます。
刑事告訴をするメリット
刑事告訴をすることで、捜査機関が操作を行い、会社の力だけでは収集できない証拠を収集できることがあります。これは、刑事告訴の大きなメリットです。
刑事措置と民事措置どちらで解決すべきか?
刑事措置と民事措置とは目的が異なります。刑事措置は、対象従業員が刑罰の対象となるかどうかを判断させるための措置であるのに対し、民事措置は、横領により会社に生じた損害を回復するための措置です。また、会社として刑事措置を求めて刑事告訴をしたとしても、民事措置で解決することが相当であるとして、捜査機関が動かない場合もあります。
従業員の横領を防ぐためにすべきことは
従業員の横領を防ぐためには、従業員教育を行うことの他、会社のお金について収支を含めて厳格に管理を行うことが重要となります。また長期間同じ人物を経理等金銭を扱う業務に従事させることで、横領のリスクが高まるため、定期的に人事異動を行うなどして、経理担当者の入れ替えを行うことも有効です。
横領による懲戒解雇の判例
事件の概要
介護事業者において、事務長が会社の預金を横領したとして、事業者が事務長を懲戒解雇した事案です。これに対し、事務長が、懲戒解雇の有効性を争いました。
裁判所の判断
(平成22年9月7日東京地方裁判所判決)
裁判所は、横領の事実についての証拠が不十分として、解雇を無効と判断し、会社に対し、解雇後の賃金など約1198万円の支払いを命じました。
ポイント・解説
横領を理由とする懲戒解雇について、証拠が不十分であるとして、懲戒解雇が無効と判断されました。従業員の横領が疑われる場合でも、必要な手続や証拠収集を経ないで懲戒解雇を行った場合には、逆に対象従業員側から懲戒解雇の無効を主張されることがあるため注意が必要です。
よくある質問
横領した従業員を懲戒解雇とした場合、退職金を不支給にできますか?
退職金を不支給とするためには就業規則において懲戒解雇とした場合に退職金を不支給とすることの定めを明示的に設ける必要があります。もっとも、懲戒解雇の理由によっては、退職金を不支給とすることが合理的ではないと判断される場合があるため注意が必要です。
懲戒解雇としない代わりに、退職金の放棄を求めることは可能ですか?
対象従業員が自由な意思に基づき同意をしたと言える場合には、懲戒解雇としない代わりに退職金の放棄を求めることも可能です。
もっとも、自由な意思に基づく同意があったか否かについては、厳格に判断されるところ、仮に、対象従業員が退職金の放棄に同意をした場合でも、事後的に同意の有効性が否定される可能性が高いといえます。そのため、対象従業員に対して退職金の放棄を求めることには慎重な判断が求められます。
横領について本人から聴取する場合、事前に予告すべきでしょうか?
事情聴取にあたり事前に予告をすると対象従業員に証拠隠滅の機会を与えることにもなります。そのため、事前に予告をすべきではありません。もっとも、事情聴取にあたっては、周囲の従業員に聞かれないよう個室で行うなどの配慮が求められます。
横領金の返還請求の話し合いには、身元保証人も同席させるべきでしょうか?
横領金の返還請求の話し合いに身元保証人を同席させることは、身元保証人からの返還可能性を高めるという点で、有効です。もっとも、横領の事実が明らかとなっていない段階で身元保証人を同席させることで、対象従業員から不当な事実聴取が行われたなどと主張されるリスクもあります。そのため、事実関係を十分に確認し、対象従業員に横領の事実を認めさせた上で、身元保証人を同席させることが重要となります。
損害賠償請求では、横領されたお金を全額請求できますか?
横領の事実を立証する責任は会社側にあります。そのため、横領されたお金の全額について損害賠償請求権が認められるためには、会社側で全額についての証拠をそろえる必要があります。また、全額について損害賠償請求権が認められたとしても、対象従業員に資力がない場合には現実的に全額の回収ができないということもあります。
横領した従業員に対し、刑事告訴と損害賠償請求を並行して行うことはできますか?
刑事措置と民事措置とは異なる手続であるため、刑事告訴と損害賠償請求を並行して行うことも可能です。
横領の証拠が揃ったらすぐに損害賠償を請求すべきでしょうか?
民事訴訟により損害賠償請求をする場合、判決の取得まで相当の時間がかかることになります。そのため、訴訟提起に先立ち対象従業員と示談交渉を行うことも合理的です。なお、損害賠償請求権は一定期間の経過後に時効消滅するため注意が必要です。
横領された金額が少なかった場合でも、懲戒解雇とすることは可能ですか?
横領された金額が少なかった場合には非違行為の程度に対して懲戒解雇処分が重きに失するとして、懲戒解雇が認められない可能性があります。
会社のお金を横領した従業員にも、弁明の機会を与える必要はありますか?
弁明の機会を与えることなく懲戒処分を行った場合、懲戒処分の合理性が争われやすくなります。そのため、懲戒処分に先立ち、弁明の機会を与える必要があります。また、従業員から聴取した事実を、民事措置、刑事措置のための証拠として使用する場合、弁明の機会を与えることで、聴取した事実の信用性が肯定されやすくなります。
横領に関わった従業員が複数いる場合、一方のみを懲戒解雇とすることは可能ですか?
横領に関わった従業員が複数いる場合に一方のみを懲戒解雇とすることも可能です。もっとも、懲戒解雇とされた従業員から、従業員間において不平等な懲戒処分がなされたとして、懲戒解雇の有効性が争われる可能性があります。そのため、一方のみを懲戒解雇とすることについて、対象従業員が首謀者であったこと等、合理性を裏付ける事情を揃えておく必要があります。
金銭管理を従業員に任せきりにしていた場合でも懲戒解雇は認められますか?
金銭管理を従業員に任せきりにしていた場合でも、従業員が管理権の範囲を逸脱して会社の金員を領得したといえるのであれば、横領に該当します。もっとも、金銭管理を従業員に任せきりにしていた場合は、横領について会社側にも一定の帰責性があるとして、対象従業員において懲戒解雇の相当するほどの悪質性がないと判断される可能性があります。横領した従業員に対して厳しい処分を行うためにも、金銭管理を従業員に任せきりにすることなく、会社側としてもきちんと金銭管理を行うことが大切です。
従業員の横領が発覚した場合は弁護士にご相談下さい。会社にとって最善な方法をアドバイスいたします。
従業員の横領が発覚した場合、その対応については、様々な注意点があります。弁護士にご相談いただければ、状況に応じ、会社にとって最善の方法をアドバイスいたします。
「親会社」と「子会社」の関係とは?
「親会社」と「子会社」は、50%以上の株式を所有することで経営を支配している会社と支配されている会社の関係にあります。
すなわち、親会社は、子会社の大株主として、子会社の経営方針を決定することができる立場にあるわけです。
子会社の従業員からの団体交渉に親会社は応じる義務があるか?
団体交渉に応じる義務を持つのは、労働組合法上の「使用者」に該当する者です。子会社の従業員からの団体交渉を申し入れられた場合、親会社がこれに応じる義務があるかどうかは、親会社が「使用者」に該当するかどうかにより判断が分かれます。
労働組合法における親会社の「使用者性」
労働組合法上、「使用者」の定義はありませんが、最高裁判所は、一般的に使用者とは、労働契約上の雇用主をいうが、雇用主以外の事業主であっても、その労働者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位になる場合には、団体交渉において「使用者」に当たると判断しています。(朝日放送事件 最三小判平成7年2月28日民集49巻2号559頁)
①労働組合法上の使用者性が肯定された裁判例
直接雇用関係のない会社に対して使用者性を認めた事例(中労委平成15年3月19日決定)をご紹介します。
事件の概要
大阪証券取引所が有価証券の売買取引の媒介業務を行っていた仲立証券株式会社(大阪証券取引所の立会場内で、正会員の間の現物取引の媒介業務を行っていた証券会社)の企業再開と仲立証券株式会社の従業員の雇用確保、仲立証券株式会社の従業員を大阪証券取引所や証券関係の業界で再雇用することを議題とする団体交渉の申入れを拒否したことが不当労働行為に当たるとして争われた事件です。
裁判所の判断(中労委平成12年(不再)第56号・平成15年3月19日決定)
本決定においては、
- 仲立証券株式会社は、制度的に取引所に依存せざるを得ない立場ないしは従属的な立場にあったことから大阪証券取引所は、仲立証券株式会社に対して制度的に見て相当な支配力を有していること
- 仲立証券株式会社の再建案の検討等に大阪証券取引所が積極的に関与していたこと
- 仲立証券株式会社の株式は、大阪証券取引所と同取引所の正会員協会(取引所と同一歩調をとる可能性が高い)と併せて52%となっていることから、資本的に影響力を及ぼすことのできる立場にあったこと
- 仲立証券株式会社の社長2名がいずれも大阪証券取引所の出身であったこと
- 大阪証券取引所が仲立証券株式会社の経営に大きく影響する仲立手数料の大幅な引き下げをすることにより、仲立証券株式会社の経営に大きな打撃を与えることにより同社の従業員の賃金削減に直接の影響を与えたこと
等から、仲立証券株式会社は、制度面・資本面・人事面において大阪証券取引所に依存せざるを得ない立場にあったことから、大阪証券取引所が仲立証券株式会社に対して相当な支配力を有していたこと、そして、当該支配力を実際に行使して仲立証券株式会社の従業員の基本的労働条件である解雇するか否かという問題を左右する再建策等に積極的に関与して、当該再建策を実行に移していたことから、大阪証券取引所が仲立証券株式会社の従業員の基本的な労働条件である雇用問題に対して現実的かつ具体的な支配力を有していたと判断しました。
ポイント・解説
本件では、仲立証券が制度面・資本面・人事面において、大阪証券取引所に依存せざるを得ない立場にあり、その力関係から実際に大阪証券取引所が仲立証券の経営方針等に積極的に関与していたという事実をもって、「使用者」に該当すると判断しています。
すなわち、諸般の事情から力関係があるとしても、実際にその力関係を行使していることが使用者性を認めるポイントとなったようです。
②親会社及び持ち株会社の使用者性が否定された裁判例
親会社及び持株会社が労働組合法上の「使用者」に該当しないとした事例として高見澤電機製作所外2社事件(東京地判平成23年5月12日)を紹介します。
事件の概要
従業員の同意なく行われた人事異動に関して、親会社及び当該人事異動後に設立された持株会社に対して団体交渉を申し入れたところ、親会社及び持株会社の使用者性が争われた事案です。
裁判所の判断(平成21年(行ウ)第295号 東京地裁平成23年5月12日判決)
裁判所は、上記の最高裁判決(朝日放送事件最判平成7年2月28日民集49巻2号559頁)の規範を引用し、親会社及び持株会社は子会社の経営について一定の支配力を有していたと言えるが。労働者の基本的な労働条件について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったと言える根拠はないとして、労働組合法上の使用者には当たらないと判断しました。
ポイント・解説
本件で、親会社は問題となった人事異動の時点で、
- 子会社の株式の過半数を有していたこと
- 子会社の全取締役の過半数が親会社の出身又は親会社の役員を兼務していたこと
から、親会社が子会社の経営について一定の支配力を有していたと推認しましたが、
子会社の組織再編や子会社の持株会社の設立が親会社の意向に沿うものであったと推認できるとしても
- 親会社の関与がグルーブ企業の経営戦略的観点から行う管理・監督の域を超えたものであると認めるだけの証拠がない
- 親会社が子会社の労働者の賃金、労働時間等の基本的な労働条件に対して、雇用主として同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めるだけの証拠がないとして、親会社の使用者性を否定しました。
持株会社については
- 資本関係及び兼務役員を通じて親会社として子会社に対し、経営について一定の支配力を有していたと推認できること
- 持株会社の子会社に対する営業取引上の意思決定ないし行為が子会社の労働者の賃金等の労働条件に影響を与えうることは否定できないとしつつも
- 当該決定過程に持株会社が現実的かつ具体的に関与したことを認める証拠がないこと
- 労働時間等の基本的な労働条件等についても、持株会社が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めるだけの証拠がないとして持ち株会社の使用者性を否定しました。
子会社の従業員から団体交渉を求められた場合の適切な対応
子会社の従業員から団体交渉を求められた場合、どのように対応すべきかについては、慎重に判断する必要があります。
雇用関係がなくても誠実に対応する
上記の裁判例のとおり、直接の雇用関係がない子会社の従業員に対しても、労働組合法上の「使用者」として認められる場合もあるため、子会社の従業員から団体交渉の申入れだからと安易に拒否するべきではありません。
子会社の従業員から団体交渉の申入れであったとしても、団体交渉に応じる義務がある可能性があることを考慮して誠実に対応すべきです。
団体交渉の議題を十分に精査する
親会社に団体交渉に応じる義務があるかどうかの判断にあたっては、団体交渉の議題となっている内容について、現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあるかどうかを検討する必要があります。
そのため、団体交渉に応じる義務があるかどうか判断するためにも、団体交渉の議題を十分に精査することが必要となります。
親会社の決定権・影響力を調査する
団体交渉の議題を十分に精査することができたら、子会社の従業員から団体交渉の申入れに対して応じる義務の有無を判断するため、当該議題について、親会社としてどの程度、具体的に支配・決定できる地位にあったか調査することになります。
当該議題については、子会社が判断する事項であり、親会社が関与していないのか、むしろ、親会社が決定して、子会社に対して具体的な指示を出している事項なのか、当該議題の決定についての関与の程度について調査します。
なお、親会社に団体交渉に応じる義務があるか否かについては、親会社が子会社の株式をどの程度持っているのか、子会社の役員、管理職と親会社との関係等を総合的に考慮することになります。
子会社の従業員からの団体交渉でお困り際は弁護士にご相談下さい。
以上のとおり、子会社の従業員からの団体交渉に応じる義務があるかどうかについては、さまざまな事情を総合的に考慮して判断する必要があるため、難しい判断を迫られることになります。
判断を誤れば、不当労働行為として損害賠償請求をされることになりますので、慎重な判断を期すためにも、専門家である弁護士に一度ご相談いただくことをお勧めいたします。
業務委託(請負)の場合でも団体交渉に応じる必要があるか?
団体交渉権は「労働者」に認められます。「労働者」とは、通常、使用者との間で雇用契約を締結し、雇用契約に基づいて、労務を提供する者をいいます。業務委託(請負)契約は、雇用契約とは異なるため、業務委託(請負)契約に基づいて働く方は、「労働者」にあたらず、団体交渉権が認められないことが通常です。
もっとも、雇用契約か業務委託(請負)契約かは、契約の形式だけでなく実質によっても判断されます。そのため、形式的には業務委託(請負)契約であっても、実質が雇用契約であると評価される場合もあり、このような場合に、団体交渉を拒否すると、違法と評価される可能性があるため、注意が必要です。
業務委託に労働者性は認められるのか?
「労働者」は労働基準法、労働災害補償保険法、労働組合法、労働契約法等様々な法律に規定されていますが、法律によって、その意味するところが異なります。
団体交渉権が認められるか否かは労働組合法の「労働者」にあたるかどうかという問題ですが、労働組合法の「労働者」は例えば労働基準法の「労働者」よりもやや広く解釈されます。そのため、業務委託(請負)契約で「労働者」性が認められるか否かは特に注意をしなければなりません。
労働組合法上の労働者性が認められた裁判例
INAXメンテナンス事件(最高裁判所平成23年4月12日)では、業務委託(請負)契約で相手方に、「労働者」性が認められ、会社に団体交渉に応じる義務があると判断されました。
この他にも、業務委託(請負)契約で「労働者」性が肯定されました。判例上、労働組合法上の「労働者」にあたるか否かは、①事業組織への組み入れ、②契約内容の一方的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応じるべき関係、⑤指揮監督関係、⑥(受託者の)独立の事業主としての実態等を考慮して実質的に判断されることになります。
すなわち、形式的に業務委託(請負)契約を締結している場合であっても、上記の実質的な判断によっては、「労働者」性が肯定される余地があるのです。
業務委託に使用者性は認められるのか?
労働組合法上の労働者には、労働者と労働契約を締結している使用者だけでなく、①労働条件等を支配している者、②過去において使用者だった者もしくは将来において使用者となる可能性がある者も含まれると解釈されます。
これは、団体交渉による労働条件対等決定の促進という労働組合法の趣旨によるものです。
業務委託との団体交渉が特に問題となるケースとは?
業務委託を社内で作業させているケース
業務委託を社内で作業させているケースは、時間的・場所的拘束性が認められることから指揮監督関係が肯定されるとして、労働組合法上の「労働者」が認められる可能性が高くなります。
労働組合法上の使用者性を肯定した裁判例
朝日放送事件(最高裁判所平成7年2月28日)では、下請会社の労働者等が元請会社に対して団体交渉を求めたところ、元請け会社が下請け会社の労働者の労働条件等について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとして、元請会社の使用者性を肯定し、団体交渉に応じるべき義務を認めました。
業務委託で団体交渉を求められた場合の適切な対応方法
団体交渉に応じるべきか慎重に判断する
労働組合法上の「労働者」から労働組合法上の「使用者」に対し、団体交渉が求められた場合、これを拒否することは、労働組合法違反にあたり、違法となります。そのため、このような場合には、会社として、団体交渉に誠実に応じなければなりません。
もっとも、団体交渉に応じることは、会社にとって大きなコストとなります。そのため、業務委託(請負)契約において団体交渉を求められた場合には、法的にこれに応じるべきか否かを慎重に判断しなければなりません。
団体交渉の議題も判断要素になる
団体交渉の議題には、労働条件や職場環境、待遇に関する「義務的団体交渉事項」と、会社の専権に属する「任意的団体交渉事項」とがあります。「義務的団体交渉事項」については、会社が団体交渉を拒否すると違法となりますが、「任意的団体交渉事項」については、会社として必ずしもこれに応じなければならないわけではありません。
もっとも「義務的団体交渉事項」と「任意的団体交渉事項」との区別は時として不明確であるため、「任意的団体交渉事項だから」と団体交渉を拒否した場合に、違法と判断される可能性があります。
請負企業からの申入れには直接の雇用者と連携する
元請企業が、下請企業の労働者から団体交渉を求められた場合には、直接の雇用者である下請企業と連携することが重要です。なぜなら、現実に、下請企業の労働者の労働条件を決定するのは、直接の雇用者である下請企業だからです。
業務委託契約における団体交渉でお悩みなら弁護士にご相談下さい。
業務委託(請負)契約において団体交渉に応じるべきか否かは、上記の通り、様々な要素を総合的に考慮して判断しなければなりません。業務委託(請負)契約における団体交渉でお悩みの場合は、是非、弁護士にご相談下さい。
会社に提出された履歴書に記載された内容に、嘘があった場合、会社としては、その新入社員を安心して雇用し続けられないかと思います。このような場合に、会社としては、いかなる対応をすることができるのでしょうか。以下、解説していきます。
新入社員の履歴書が嘘だった場合の対応
新入社員が会社に提出した履歴書に嘘があった場合、会社としては、当該新入社員に対し、懲戒処分をすることができるのでしょうか。できるとして、その進め方はどのようにすれば良いのでしょうか。
弁明の機会を与えるべきか?
懲戒処分をする場合、その対象となる社員に対し、どのような理由で処分をすることを予定しているのかを知らせた上で、その社員の言い分を聞く機会を設けなければなりません。この、社員の言い分を聞く機会を、弁明の機会といいます。
この弁明の機会を与えずに処分をしてしまった場合、後から、その処分の有効性が否定される可能性がありますので、注意が必要です。
減給などの懲戒処分としても良いか?
懲戒処分には、訓告・譴責から、解雇まで、様々あります。
そして、懲戒処分として何を選択するかについては、履歴書の嘘がどれだけ大きなものか、それにより会社に与える影響はどの程度か、当該社員の勤務態度などを総合的に考慮して判断します。処分が重すぎた場合、後から有効性が争われ、処分が無効になる可能性もありますので、減給などの処分を行う場合、慎重な判断が必要です。
入社後すぐの退職勧奨は認められるのか?
退職勧奨は、会社から社員に対し、退職するよう説得することを指しますが、退職を強制するものではなく、あくまで社員の同意のもと退職してもらうものになります。そして、退職勧奨をすること自体に関し、法律上の規制はありません。そのため、入社後すぐの退職勧奨自体は、許されます。
もっとも、退職勧奨であっても、社員が拒否している中、長時間説得を続けたり、短い期間の中で何度も退職勧奨を行うなどは、事実上退職を強要したものと評価され、違法となる可能性がありますので、ご注意ください。
履歴書の嘘で解雇は認められるか?解雇するポイントとは?
次に、履歴書の嘘を理由に、その社員を解雇することが許されるのかについて、解説していきます。
「履歴書の嘘」は解雇事由に相当するか?
解雇が許される場合というのは、かなり限定的と考えられています。
具体的には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上解雇が相当であると求められる場合など、解雇を選択する他ないような場合に認められます。
そうすると、履歴書の嘘の中でも、かなり重要な点に嘘があり、もはや雇用を続けられないような事情がある場合に限って、解雇が認められると考えられます。
懲戒解雇が認められる「履歴書の嘘」とは?
では、履歴書の噓の中でも、懲戒解雇が許されるのは、どのような場合なのでしょうか。
少なくとも、経歴の些細な詐称などのレベルでは、解雇までは認められないでしょう。他方、経歴の詐称であっても、その詐称自体で会社秩序を侵害し、会社と当該社員との信頼関係が完全に破壊されるようなものであれば、解雇も許容される場合があると考えられます。
履歴書の賞罰欄に犯罪歴を記載していなかった場合
新入社員が、本当は犯罪歴があるにもかかわらず、それを履歴書の賞罰欄に記載しなかった場合を考えてみましょう。
この場合でも、その犯罪が、重大な犯罪であるのかにもよりますが、もしその犯罪歴があると会社が知っていれば確実に雇用しなかったとしたら、解雇が有効になる可能性はあります。
一方、極めて軽微な犯罪歴であったり、かなり前(10年以上前など)の犯罪歴である場合には、解雇までは許容されないと思われます。
採用する前に履歴書の嘘を見抜くには?
会社としては、できれば採用前に新入社員の履歴書の嘘を見抜きたいでしょう。
そのためには、まずは面接の中で、履歴書の記載事項について聞き、不審な点がないかを確認することをお勧めします。
また、経歴に関し、証明書の発行が可能であれば、それを求めることも考えられます。
内定中に嘘が発覚した場合、内定取り消しは可能か?
内定については、解約権の留保がついた労働契約と考えられています。そうすると、内定を取り消すにあたっても、解雇の場合と同様に、客観的に合理的な理由があること、社会通念上相当であることが必要です。
そのため、上記の解雇で解説したとおり、かなり慎重な判断が必要になりますので、ご注意ください。
嘘の程度や勤務態度によっては解雇しないという選択肢も
履歴書に嘘があった場合でも、会社としては、当該社員を継続して雇用し続けることは当然できます。
そのため、履歴書に嘘があっても、勤務態度が真面目であり、その他に特に見るべき問題点がないような場合は、戒告などの軽い処分に留め、雇用し続けることも、選択肢として十分あり得えます。
履歴書の詐称について争われた裁判例
履歴書に犯罪歴を記載しなかった点について争われた裁判があります。
以下、解説していきます。
事件の概要
過去に強盗の犯罪歴がある人が、会社に入社する際、履歴書の賞罰欄に、その犯罪歴を記載しなかった事案です。会社は、履歴書に重要な嘘があるとして、当該社員を解雇としました。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、当該社員の犯罪歴に関しては、刑の言渡しの効力が消滅したものであり、賞罰欄に記載する義務がないことを理由に、解雇は無効であると判断しました(仙台地裁昭和60年9月19日判決)。
ポイント・解説
この裁判例のポイントとしては、社員の犯罪歴について、既に刑の言渡しの効力が消滅していること、そのため賞罰欄に記載する義務がないことです。この裁判例は、いかなる犯罪歴であっても、解雇を有効とする理由にはならないということが分かります。また、具体的に、刑の言渡しの効力が消滅しているケースにおいて、解雇は無効とされたものとして、今後の参考になるものといえます。
新入社員の履歴書の詐称が発覚した際は、お早めに弁護士に相談することをおすすめします。
会社が新入社員を雇う以上、社員の履歴書に嘘があり、その社員の解雇を検討するケースというのは想定しておく必要があります。会社としては、その社員を解雇したいと考えても、後からその解雇が無効となり、高額の未払賃料の支払義務を負わなければならない可能性があることから、どうしても慎重に判断せざるを得ません。
新入社員を雇う場合の注意点や、仮に履歴書の嘘が発覚した場合の対応については、専門家である弁護士に相談することをお勧めいたします。
従業員の犯罪行為やその可能性が発覚した場合、会社としても懲戒処分について検討することとなると思います。
この場合、従業員の犯罪行為の有無やその詳細を調査し、懲戒処分をすべきかどうかを決定したり、懲戒処分をすべき場合にはどのような懲戒処分が適切であるのかを決定したりするには、相当程度時間がかかります。
この調査や検討のためにかかる期間において、当該従業員が出勤し続けるのは妥当ではないというときに行うのが自宅待機命令です。これは懲戒事由に基づく懲戒処分とは異なり、業務命令として行われるものです。そのため、原則として、自宅待機命令期間中の賃金を支払う必要があります。
従業員の犯罪行為における自宅待機命令
会社が自宅待機を命じる必要性
会社が自宅待機命令を命じる必要性がどのような場面で生じるのかご説明します。
従業員の犯罪行為やその可能性が発覚しても、すぐにその有無や詳細が明らかになるとは限りません。
本当に犯罪行為を行ったのかどうかや、行っている場合にその内容がどのようなものであるのかについての調査にはある程度時間がかかるものと考えられます。
また、犯罪行為を行ったことが明らかになり、その内容が明らかになった後も、適切な懲戒処分がいずれの懲戒処分であるのかについては検討を要する場合があります。
しかし、このような調査や検討にかかる期間において、当該従業員を出勤させ続けるのは適切ではない場合も考えられます。
たとえば、会社の金を横領したことが強く疑われる経理担当の従業員について、そのまま出勤させて経理業務をさせることは妥当ではないと考えられます。
しかし、事実関係が明らかにならないうちに出勤停止や懲戒解雇等の懲戒処分をすることはできません。あとから無効な懲戒処分として問題となることが考えられます。また、事態が明らかでないうちに軽い懲戒処分をしてしまうと、後から実は悪質性が高い行為であったことが明らかになっても、原則として、同じ行為に重ねて重い懲戒処分をすることはできません。
このような場合に、懲戒処分ではなく、業務命令としての性質を持つ自宅待機命令を行う必要性が生じるものといえます。
出勤停止処分や起訴休職処分との違い
自宅待機命令と似たようなものに、出勤停止処分や起訴休職処分があります。しかし、これらと自宅待機命令とはその性質や効果が異なるものです。
まず、出勤停止処分は懲戒処分であり、業務命令である自宅待機命令とは行為の性質が異なります。原則として賃金を支払う必要のある自宅待機命令と異なり、出勤停止命令はきちんと要件を満たせば、原則として賃金を支払う必要はありません。
次に起訴休職処分は、当該従業員が起訴されたことを理由として、一定の要件を満たすことで行うことのできる休職命令であり、起訴休職命令についても、適切に行われる限り、原則として休職期間中の賃金を支払う必要はありません。
就業規則の規定が無くても自宅待機命令は可能か?
業務命令としての自宅待機命令の場合
自宅待機命令は業務命令として行われるものであり、きちんと賃金を支払っているのであれば、就業規則等の根拠がなくても行うことができるとされています。ただし、正当な業務命令として認められるだけの相当な事由が必要です。
懲戒処分としての自宅待機命令の場合
同じように自宅待機を命じる場合でも、懲戒処分として行う場合(いわゆる出勤停止処分)には、原則として就業規則の規定が必要です。
自宅待機を命じるには要件を満たす必要がある
どのような犯罪行為で自宅待機命令を出せるのか?
例えば、当該犯罪行為に対する相当な懲戒処分が解雇や懲戒解雇の処分である場合には、調査や検討のための期間においても自宅待機命令を出せるものと考えられます。
次に、当該犯罪行為の性質に照らして、当該従業員を出勤させるのは不適切であると認められる場合などについても、自宅待機命令を出すことができるものと考えられます。
「業務命令権の濫用」とみなされるケースとは?
一方で、悪質性の低い行為でかつ、当該従業員を出社させても問題は生じないような場合には、業務命令としての自宅待機命令であっても、業務命令権の濫用とみなされるおそれがあります。
自宅待機の期間はどの程度が妥当か?
自宅待機命令の期間は合理的な期間である必要があります。
当該自宅待機命令の目的に照らして合理的な期間であるかどうかで判断すべきこととなりますので、一概にどの程度の期間ならよいのかとはいえませんが、例えば、懲戒事由の有無やその内容、適切な処分を検討するための期間として自宅待機命令を出すのであれば、そのために必要な期間において自宅待機命令を出すべきであり、自宅待機命令を出したのに長期間にわたって調査や検討を怠ったために不必要に自宅待機命令の期間が長くなったのであれば、不適切であると判断されることが考えられます。
自宅待機中の外出を禁止することは可能?
業務命令としての自宅待機命令が有効になされている場合であれば、原則として、当該命令を受けた従業員は、勤務時間中においては自宅待機していなければならないものと考えられます。
自宅待機中の賃金支払義務について
例外的に不支給が認められる場合とは?
先ほどもご説明したように、自宅待機命令の期間中においても、原則として賃金を支払う必要性があります。
この点、後程ご説明する裁判例(名古屋地判平成3年7月22日判タ773号165頁)においては、従業員への賃金支払義務が免除されるためには、当該従業員を就労させないことについて、
又は
②自宅待機命令を実質的な出勤停止処分に転化させる就業規則の懲戒規定上の根拠が存在することが必要
そのため、当該従業員の横領行為が明らかで、そのまま出勤を続けさせれば、さらなる横領行為が行われるおそれが認められるなどの場合には、例外的に自宅待機命令期間中の賃金不支給が認められ得るものと考えられます。
自宅待機命令に従わない従業員の対処法
自宅待機命令も、業務命令であるため、これに反して、当該従業員が出勤を強行した場合などには、懲戒処分と対象となり得ます。
自宅待機命令に関する裁判例
事件の概要
【名古屋地判平成3年7月22日判タ773号165頁】
この事件は、職場での暴力を理由に懲戒処分をするにあたって、先行して業務命令としての性質を持つ自宅謹慎を命じられたというものです。会社は、この自宅謹慎の期間においても欠勤扱いとし、賃金を控除(不払い)しました。
このケースにおいては、懲戒処分自体は有効なものであると認められ、また、会社において、懲戒処分が決定した場合、これに先行する自宅謹慎期間は欠勤扱いとする旨の慣行が成立していたことなども認めました。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所はこの事件において、自宅謹慎中の賃金の不払いを認めませんでした。
その前提として、自宅謹慎中の賃金の不払いが認められるためには、
- 不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由が存するか
又は - 自宅待機命令を実質的な出勤停止処分に転化させる就業規則の懲戒規定上の根拠が存在する
ことが必要
であるとし、この事件であったような、自宅謹慎中は賃金は支払わないとする労使慣行や、そのことについての組合との間の口頭の了解が存在していうことだけでは、賃金不払いをすることはできないと判断しました。
ポイント・解説
この裁判例に沿って考えるとすれば、就業規則における懲戒の規定において、懲戒に先行する自宅待機命令の期間中の賃金は、実際に懲戒処分がなされた場合には不支給となる、といった規定を設ける必要があり、このような規定がなければ、不正行為の再発、証拠隠滅のおそれなどの緊急かつ合理的な理由があるかどうかという厳格な基準で判断されることとなります。
そのため、自宅待機命令の期間中に賃金の不払いとすることを可能とするためには、そのための規程を就業規則における懲戒の規定において定めておく必要があるといえます。
ただし、実際に定める規定の内容に合理性が認められる必要があり、また、自宅待機命令や懲戒処分についても有効なものであると認められる必要があります。
自宅待機命令でお悩みなら弁護士にご相談下さい。企業にとって最善の方法をアドバイス致します。
これまでご説明してきたように、自宅待機命令について様々な論点があり、実際に行う場合にはきちんとした検討を行う必要があります。
特に、自宅待機命令の期間中において、賃金を不払いとする例外的な対応をとろうとするときは、事前の準備や十分な検討も必要となります。
自宅待機命令についてお悩みの場合は、一度ぜひ弁護士までご相談ください。
パワー・ハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害されるものをいうとされています(労働総合施策推進法30条の2第1項)。
会社は、職場におけるパワー・ハラスメント(以下、「パワハラ」といいます。)の防止に努めるだけでなく、従業員からパワハラに関する相談を受けた場合、その内容に応じて適切に対処しなければなりません。
それでは、退職した従業員から在職中のパワハラを理由に訴えられた場合にはどのように対応すべきでしょうか。
従業員の退職後にパワハラで訴えられることはある?
従業員がパワハラを理由に会社を訴えるのは、当該従業員が在職中の場合に限られるものではなく、退職した従業員が在職中に受けたパワハラを理由に会社を訴えることも少なくありません。
なぜ退職後に訴えるのか?
退職した従業員が会社を訴える理由として、①在職中は職場おける人間関係などを考えて訴えることができなかった、②パワハラが原因で退職せざるをえなかったため、パワハラの加害者だけではなく会社に対しても不満を持っていることなどが考えられます。
パワハラの損害賠償請求には消滅時効がある
パワハラを理由とした損害賠償請求権は、その法的根拠により異なる下記の期間を経過することにより時効によって消滅します。
⑴ 不法行為(人格的利益の侵害)に基づく場合(民法724条、724条の2)
- 損害及び加害者を知った時から3年(生命・身体を害する場合については5年)
- 不法行為の時から20年
⑵ 債務不履行(労働契約上の付随義務)に基づく場合(民法166条1項、167条)
- 権利を行使することができることを知った時からは5年なお、労働契約の締結が2020年4月1日より前の場合は、10年(改正前民法167条1項)
- 権利を行使することができる時から10年(生命・身体を害する場合については20年)
退職後にパワハラで訴えられたときの会社側の対応
早い段階で弁護士に相談する
退職した従業員からパワハラを理由に訴えられた場合には速やかに弁護士に相談すべきです。会社として適切な主張を行うためには、限りある時間を有効に活用し、事実関係の確認などを進めていかなければならないからです。
事実関係を確認する
当事者に対する直接の聴き取りだけでなく、パワハラを見たり、聞いたりした当事者以外の第三者が存在するのであれば必要な範囲でそのような第三者からも聴き取りを行うべきでしょう。また、当事者間のメールやSNSなどのやり取りが残っていれば客観的な証拠の一部として保存しておく必要があります。
被害者と示談交渉を行う
事実関係を確認した結果、パワハラに該当する場合には被害者である従業員に対し、パワハラに該当することを認めたうえで、謝罪し、解決金として一定の金銭の支払いを提案するといった示談交渉を行うことが考えられます。会社と被害者従業員との間で示談が成立した場合には当事者間において早期に解決を図ることが可能になります。
加害者への懲戒処分を検討する
事実関係を確認した結果、パワハラに該当する場合にはパワハラを行っていた加害者に対し、懲戒処分を検討する必要があります。なお、加害者に対する懲戒処分については、そのパワハラの程度に応じた適切なものでなければなりません。
再発防止策を検討・強化する
事業主には、パワー・ハラスメントを防止するために雇用管理上必要な措置を講じることが法律上義務付けられています(労働総合施策推進法30条の2第1項)。
そのため、①懲戒処分の公表(ただし、被害者や加害者のプライバシーへの配慮が必要になります。)、②ハラスメント防止の啓発活動、②相談窓口の設置やその周知、③就業規則等の見直しなどの再発防止策などに会社として取り組まなければなりません。
パワハラ問題で会社が問われる法的責任とは?
使用者責任
会社は、パワハラを行っていた従業員の使用者であるとして被害者である従業員に対し、使用者責任を負っています(民法715条1項本文)。
パワハラが認められる場合には、会社は、被害者従業員に対し、使用者責任に基づく損害賠償義務を負うことが考えられます。
債務不履行責任
会社は、従業員との間で労働契約を締結しており、従業員に対し労働契約に付随する職場環境配慮義務(ないし安全配慮義務)を負っています。
パワハラが認められる場合にはこの義務に違反したものであるとして、会社は、被害者従業員に対し、債務不履行に基づく損害賠償義務を負うことが考えられます。
従業員の退職後にパワハラで訴訟を起こされた事例
事件の概要(大阪地判平成20年9月11日・平成19年(ワ)第9031号)
おむすびの製造・販売などを業とするY社の取締役統括部長として勤務していたXが、Y社社長から職務に関して違法な言動をされ、著しく精神的な苦痛を被ったとして、退職後に不法行為または労働契約上の債務不履行(職場環境保持義務違反)に基づき慰謝料200万円などの支払いをY社に対して求めたという事案です。
裁判所の判断
裁判所は、以下のような事実を認定したうえで、Y社社長は職務に関して、Xに肉体的疲労及び精神的ストレスを蓄積させ、健康状態を著しく悪化させるような言動を繰り返し行い、その結果、Xは精神的疾患により就労不能になり退職を決意せざるを得なくなった等として、Y社に対し慰謝料150万円の支払いを命じました。
- Y社社長は、Xに対し、Xの能力を質量ともに超える業務に従事するように指示しながら、適切な指導、援助等を行わなかったうえ、業務上の指示内容を突然変更し、また、Xの仕事振りについて、一方的に非難や不快感を露わにするなどの不適切な対応をしていた。
- XはY社での就労によりストレスを蓄積させ、これが要因となって精神疾患になり心療内科の医師から就労不能であり、1か月の自宅療養を要する状態と診断された。
- Y社社長は、上記診断書を受け取った後、Xに対し、しばらく休養することを認めながら、他方で業務上の指示をFAX等で行い、店長会議への出席を求めるなどしていた。
ポイント・解説
パワー・ハラスメントを行っていたのが会社代表者であったこと、自宅療養を要する状態との診断書を受け取った後も業務上の指示等を行っていたことなどが慰謝料額の算定にあたって考慮されたものと思われます。
退職した従業員からパワハラを訴えられたら、なるべくお早めに弁護士にご相談下さい。
退職した従業員からパワハラを訴えられた場合には退職した従業員への対応だけでなく社内における調査や加害者への処分など慎重かつ迅速に対処しなければならない事項が多くあり、日常の業務と並行して適切に対応することは簡単ではないと思われます。そのため、退職した従業員からパワハラを理由に訴えられた場合には、まずは一度弁護士法人ALG&Associatesにご相談ください。早期解決に向けてご尽力させていただきます。
労働審判のポイント
労働審判は、労使関係の紛争を迅速かつ適切に解決することを目的としているため、裁判所は迅速性をかなり重視しています。
法的には、期日を3回まで設けることになっていますが、だからと言って、3回目までにどうにかすればいい、とのんびり構えていると痛い目を見る手続になります。
労働審判の大まかな流れ
労働審判は、大まかに次のような流れで終了に向けて進められます。
- 労働者からの労働審判の申立て
- 裁判所から会社へ労働審判の期日指定・呼び出しの通知
- 会社からの答弁書提出
- 期日(1~3回)
- 調停又は審判等
労働審判を申し立てられた会社はどう対応すべきか?
労働審判は、法制度上は、3回以内の期日で審理を終える手続、逆に言えば3回までは期日がある手続きとされていますが、実務上は、第1回目の期日で大筋が決まってしまうこともあります。
そのため、第1回目の期日までの準備が労働審判の結果を決定づける可能性がある重要なポイントとなります。
申立て~期日前のポイント
労働者が労働審判を申し立てた後、裁判所が第1回目の期日を申立日から40日以内の日に指定して、会社に申立書と共に呼び出し状を郵送します。会社は、この申立書に対して、反論として答弁書を作成し、答弁書の主張を裏付ける証拠を提出する必要があります。
期日は申立日から40日以内ですが、裁判所内の処理や郵送のために会社に申立書が届く頃には期日まで3週間程度しかない等ということは珍しくありません。
しかも、上記のとおり、労働審判では、第1回目の期日で審判の大筋が決まってしまう可能性があるため、時間がない中で、会社の言い分を全て答弁書に記載して会社に有利な主張を説得的に論じた上、証拠と共に提出する必要があります。
労働審判期日のポイント
事実関係を説明できる者を同行させる
労働審判期日では、労働審判委員から申立書、答弁書、その他証拠の内容を踏まえ、両当事者に質問をします。当然、その質問の内容は、紛争の事実関係に関する事項になります。
労働者側は、労働者本人が出廷するので、労働者側は、その主張する事実関係に基づいて回答をすることが可能でしょう。これに対し、会社側が「わかる者がいないので、答えられません。」等と回答するのでは、手続きが進まないどころか、労働者側の質問に対する回答に基づいて事件の見通しを立ててしまう可能性もあります。
そのような事態に陥らないよう、紛争に関する事実関係を最もよく知る者を手続に同行させる必要があります。
審判員からの質問には端的に回答する
裁判所で、労働審判委員会からの質問に対して回答するというのは、想像するより難しいことです。前提事実から説明しようとして、質問の趣旨から外れてしまって、結局質問に回答できない、等ということは珍しくありません。
また、長く回答することで、会社の主張と矛盾することを述べてしまう可能性すらあるのです。
そのため、審判員からの質問に回答することになった担当者の方は、質問に対して端的に回答することが求められます。
調停成立時のポイント
和解の落としどころを見極める
労働審判委員会は、質問が終わった後、他方当事者を別室に待機させて、片方ずつ調停成立に向け和解条件について聴取します。
その際、労働審判委員会から、審判を出すとしたらどのような内容の審判を出すか等という事件の見通し(心証といいます。)を聞かされることも少なくありません。会社としては、その心証をもとに条件を譲歩するのか、譲歩するとしてどの程度譲歩するのか、譲歩せず審判を求めるのかを見極める必要があります。
調停条項には「守秘義務条項」を入れておく
紛争の原因が会社にあるとないとに関わらず、労働者と紛争をしていたという事実は会社の評判に関わる事項になります。
そして、SNSが発達した現代では、労働者が簡単に紛争の内容をSNSで発信してしまう可能性があります。労働者が会社の名誉に配慮した発信をしてくれればいいのですが、紛争をしていた相手方の名誉に配慮することなく、労働者目線の歪んだ事実を発信してしまう可能性は否定できません。
そのため、調停を成立させる場合には調停条項に紛争の経緯や調停の内容を第三者に口外しないとする守秘義務条項を入れておくべきです。
審判時のポイント
異議申立ては2週間以内に行う
調停が不成立になった場合には、労働審判委員会が、審判をします。審判は、労働審判委員会から口頭で伝えられます。
この審判に、不服がある場合には、2週間以内に異議の申し立てを行わなければ、労働審判委員会の審判内容が確定してしまいます。
そのため、会社として、審判内容を受け入れられないということであれば、2週間以内に異議申し立てをする必要があります。なお、異議申し立てを行うと、手続きは自動的に訴訟に移行して、以後は裁判手続きとして、紛争を継続していくことになります。
労働審判でやってはいけない対応とは?
労働審判の呼出しを無視する
労働審判の呼び出しを無視して欠席すると、5万円以下の過料が科せられる可能性がある(労働審判法31条)上、期日に労働者側からの主張のみで、会社に不利な審判が下される可能性があります。
そのため、どれだけ労働者の申立て内容に理由がないと思ったとしても、労働審判が申し立てられている以上、無視することはしてはいけません。
法律や証拠に基づかない主張を行う
労働審判は、裁判所の手続である以上、証拠に裏付けられた事実に基づいて、法律に則った判断をします。そのため、証拠がない事実を主張しても、労働審判委員会はその主張を採用してはくれませんし、法律に反する主張を認めることはありません。
したがって、答弁書に記載する内容も証拠に裏付けられた事実をもとに、法律に則った主張をしなければなりません。
会社が労働審判で虚偽の陳述をした場合はどうなる?
会社が労働審判で虚偽の陳述をした場合には、特に罰則等があるわけではありません。
しかし、虚偽の陳述をしたという事実が発覚した場合には、その他の陳述に対する信用性を損なうことになりかねず、翻って会社の不利に働くことになるため、虚偽の陳述等はすべきではありません。
労働審判に強い弁護士を選ぶ必要性
会社にとって、労働審判は、突然申し立てられ、また時間がない中で事実関係を法律的に主張することが求められる難しい手続となります。
そのため、法的知識がない会社の担当者では、対応しきれず、会社に不利な審判が下される可能性があります。
そこで、労働審判は、労働審判に強い弁護士にご依頼いただいて、対応することをお勧めいたします。
労働審判の有利な解決を目指すには会社側の対応が重要です。労働審判の対応でお悩みなら弁護士にご相談下さい。
労働審判で有利な解決を目指すためには、会社側が迅速に、かつ適切に対応することが必要となります。そして、適切に対応することが難しいことは、上記のとおりです。労働審判の対応でお悩みであれば、お早めに弁護士にご相談いただくことをお勧めいたします。