チーム医療における責任(チーム医療の総責任者)
監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士
- チーム医療
医療過誤があったとして損害賠償を求める場合の相手方
医療過誤で損害賠償請求する場合、診療契約上の債務不履行であるとして損害賠償を求める場合と、不法行為であるとして損害賠償を求める場合があります。診療契約は患者さんと医療機関を開設する者(通常は法人)との間で締結されるので、債務不履行に基づき損害賠償請求する場合には、相手方は医療機関を開設する法人とするのが一般的です。これに対し、不法行為は契約関係を前提としていないので、不法行為に基づき損害賠償請求する場合には、過失ある医療行為を行った医師を使用する者(通常、開設者である法人)を相手方とする(使用者責任の追及)ほか、過失ある医療行為を行った医師を相手方とすることもできます。
実際に損害賠償請求する場合には、経済的観点も踏まえて開設者である法人を相手方とすることが通常であり、弁護士としては法人を相手方とすることをお勧めしますが、中には信頼を裏切られたとして医師個人に対する損害賠償を考える方もいらっしゃると思います。大病院の高名な医師を信頼して医療の提供を受け、不本意な結果となった場合などは、そのような考えに至ることがあるようです。
ところが、そのような医師はチーム医療の総責任者として指揮監督することが主たる役割であることも多く、直接患者さんに対して医療行為を行うのは主治医となった医師であることから、当該医師が直接患者さんに対して行った行為には過失が認められないこともあります。それでは、そのような場合、チーム医療の総責任者である医師に対する責任追及はできないのでしょうか?
チーム医療とは
一般に、複数科の医師が協同して行う医療や、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士・理学療法士等の多職種の医療スタッフが協同して行う医療を「チーム医療」といいます。判例、裁判例上では、これに加え、大学病院等の病棟で、指導医、主治医、研修医からなるチーム(医師団)で行う患者の診療についても「チーム医療」であるとされています。
チーム医療の総責任者の責任に関する判例
チーム医療の総責任者の責任については、最高裁平成18年(受)第1632号平成20年4月24日判決が参考となります。以下では、この判例について説明します。
事案
大動脈弁狭窄および大動脈弁閉鎖不全と診断された患者Aが、学校法人Y1が開設するB大学病院で大動脈弁置換術を受けたところ、大動脈壁の縫合部から出血を生じ、循環不全により死亡した事案で、患者遺族が①術者Y2に手術手技上の過失がある、②術者Y2がA及び遺族に術前に何ら説明をしておらず、説明義務違反の過失があるなどと主張して学校法人Y1及びY2に対して損害賠償を請求した事案です。
Y2は、B大学医学部心臓外科教室の教授で、チーム医療の総責任者でした。そして、Aに対するチーム医療は、主治医をC(病院講師)として行われており、主治医Cは本件手術の必要性、内容、危険性等について説明をしていました。しかし、Y2自身はAらに対して本件手術の説明をしていませんでした。
本件の控訴審では、Y2自身が説明をしていないことから説明義務違反を認め、Y1及びY2に対して慰謝料の支払いを命じました。これに対して、Y2が最高裁に上告受理を申し立てました。
最高裁判所の判断
最高裁は、条理を理由として、チーム医療の総責任者は、患者やその家族に対し、手術の必要性、内容、危険性等についての説明が十分に行われるように配慮すべき義務を有するとしました。しかし、その説明は常にチーム医療の総責任者が自ら行わなければならないものではないとし、主治医が十分な知識、経験を有している場合には、主治医に説明を委ね、必要に応じて主治医を指導、監督するにとどめることも許されるとしました。そして、十分な知識経験を有する主治医の説明が不十分だった場合でも、チーム医療の総責任者が必要に応じて主治医を指導、監督していた場合には、チーム医療の総責任者は説明義務違反の責任を負わないとしました。
この判例は、説明義務に関して、チーム医療の総責任者に主治医に対する一定の指導監督義務を認めたものです。
まとめ
説明義務についてですが、チーム医療の総責任者に指導監督義務を認めた判例があります。チーム医療の総責任者に対して責任追及する場合には、この判例などを参考にして検討していくことになります。チーム医療の総責任者に対して責任追及したいとお考えの場合には、弁護士にご相談ください。
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保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。
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