転医義務(開業医の義務)

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

  • 開業医

身近な医療機関

開業医とは、自ら診療所(クリニック)や病院を営んでいる医師をいいますが、一般的には、診療所を営んでいる医師がイメージされることが多いです。医療機関の役割分担の観点から、身近な場所で主として軽症の患者さんの診療にあたるのが診療所とされており、体調不良を覚えた場合には、最初に開業医のお世話になる方が多いのではないでしょうか。しかし、開業医は、総合病院と異なり人的・物的な制約があるため、総合病院では実施可能な診療を行えない場合があります。では、開業医は、自ら営む医療機関では実施不可能であるとして治療を行わなかった場合、何らの責任も問われないのでしょうか?

医療水準と開業医の義務

医療過誤で損害賠償請求する場合の要件の一つに過失があります。過失とは、医師の注意義務違反をいいますが、この注意義務の基準とされるのは、「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準である」とされています(最高裁昭和54年(オ)第1386号昭和57年3月30日判決)。そして、最高裁平成4年(オ)第200号平成7年6月9日判決は、新規の治療法に関する医療水準を決するには、「当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり・・・すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当ではない。」と判示して、注意義務の基準である医療水準は医療機関の性格などによって異なることを明らかにしました。そうすると、総合病院と診療所では、注意義務の基準が異なるため、総合病院では治療を行わなかったことが注意義務違反となる場合でも、開業医では注意義務違反とならないことになりそうです。

しかし、人的・物的な制約があり治療が行うことができない場合でも、医師には治療を行うことができる医療機関(高次医療機関)に患者さんを転医させる義務(転医義務)が認められます。つまり、自ら治療を行うことができない場合でも、開業医は高次医療機関に患者さんを転医させて医療の提供を受けられるようにしなければなりません。転医義務に違反したことによって損害を生じさせた場合には、開業医は損害賠償責任を負うことになります。

開業医の転医義務

最高裁平成7年(オ)第1205号平成9年2月25日判決は、風邪で約4週間毎日のように開業医にかかった患者に、開業医らが顆粒球減少症の副作用を有する多種類の風邪薬を投与した結果、患者が顆粒球減少症の副作用で死亡した事案で、開業医の役割について述べた上で、次のように判示して開業医の転医義務を認めました。

「開業医の役割は、風邪などの比較的軽度の病気の治療に当たるとともに、患者に重大な病気の可能性がある場合には高度な医療を施すことのできる診療機関に転医させることにある・・・開業医が本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては、自院又は他の診療機関において患者が必要な検査、治療を速やかに受けることができるように相応の配慮をすべき義務があるというべきで」ある。

具体的な疾患の診断ができない場合

開業医では人的・物的な制約から、総合病院と同様の検査ができるとは限りません。そこで、具体的な疾患が何かという診断ができない場合もあります。具体的な疾患の診断ができない場合、開業医は転医義務を負わないのでしょうか?

最高裁平成14年(受)第1257号平成15年11月11日判決は、かかりつけの開業医で診察を受けたが、適時に総合医療機関に転送されなかったため重い脳障害の後遺症が残ったとして開業医に対して損害賠償を求めた事案で、当該事案の事情では開業医は「その病名は特定できないまでも、本件医院では検査及び治療の面で適切に対処することができない、急性脳症を含む何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いことをも認識することができたものとみるべきである」として、一連の症状からうかがわれる急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処し得る医療機関へ転送する義務を認めました。この判例は病名が特定できなくても、何らかの重大で緊急性のある病気にかかっている可能性が高いと判断できる場合に、転医義務を認めたものです。

まとめ

開業医の役割には、患者に重大な病気の可能性がある場合には高度な医療を施すことができる診療機関に転医させることも含まれます。この可能性を見逃して転医させなかった場合には、開業医に対して損害賠償責任を追及することが可能です。開業医が重大な病気を見逃していたのではないかという疑いをお持ちの場合には、医療過誤に精通した弁護士に相談してみることをお勧めします。

この記事の執筆弁護士

弁護士 渡邊 悦子
弁護士法人ALG&Associates 弁護士 渡邊 悦子
東京弁護士会所属
弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)
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