薬に関する注意義務

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

医薬品の副作用により生命・身体・健康が害された場合の損害賠償責任

今日の医療では、医薬品の投与が治療上、重要な役割を果たしています。しかし、医薬品は人体にとって異物であり、副作用が生じることは避けられません。では、医薬品の副作用により、生命・身体・健康が害された場合、投与・処方した医師に損害賠償責任を追及することができるでしょうか?

医療過誤で損害賠償請求をするためには、医師に注意義務違反(過失)が認められることが必要です。したがって、医薬品の副作用により生命・身体・健康が害されただけで医師に損害賠償責任が認められるわけではなく、医師が医薬品を投与するにあたり行うべき注意義務を怠ったときに損害賠償責任を追及することができます。

では、医師の医薬品に関する注意義務は、どのように判断されるのでしょうか?

医師の医薬品に関する注意義務の判断にあたって、重要な役割を果たしているものが医薬品の添付文書です。

添付文書

医薬品は、効能を有する一方、副作用など安全性の問題もあるため、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下「薬機法」といいます)により規制されています。添付文書は、薬機法52条1項に基づいて作成される文書で、「医薬品の適用を受ける患者の安全を確保し適正使用を図るために、医師、歯科医師、薬剤師等の医薬関係者に対して必要な情報を提供する目的で当該製造販売業者が作成するもの」です。具体的にいうと、添付文書には、禁忌、用法及び用量、用法及び用量に関連する注意、重要な基本的注意、相互作用、副作用など、医薬品を投与する上で重要な情報が記載されています。

添付文書と医薬品に関する注意義務

医師が添付文書の記載に反した場合、注意義務違反をどのように判断するのでしょうか?

最高裁平成4年(オ)第251号平成8年1月23日判決は、この点について判断した判例です。

この判例の事案は、虫垂炎(いわゆる盲腸)にり患した7歳の児童が虫垂切除手術を受けたところ、手術中に心停止に陥り、重大な脳機能低下症が残ったことについて、医療機関と医師を相手に損害賠償請求した事案です。問題となったのは、麻酔剤であるペルカミンSの添付文書には副作用とその対策の項に血圧対策として、麻酔剤の注入後は10分ないし15分まで2分間隔に血圧を測定すべきことが記載されていたのに、医師が介助の看護師に5分ごとに血圧を測定して報告するよう指示した点です。

判例は、次のように判示しました。「医薬品の添付文書(能書)の記載事項は、当該医薬品の危険性(副作用等)につき最も高度な情報を有している製造業者又は輸入販売業者が、投与を受ける患者の安全を確保するために、これを使用する医師等に対して必要な情報を提供する目的で記載するものであるから、医師が医薬品を使用するに当たって右文書に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合には、これに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定されるものというべきである。」

つまり、判例は、医師が添付文書に反した場合には、注意義務違反(過失)があったものと推定される、としたのです。そして、添付文書に反したことについて特段の合理的な理由がある場合には過失は否定されるとして、添付文書に反した場合の注意義務違反の判断方法を明らかにしました。

医薬品に関する情報収集義務

では、医師は医薬品に関して、添付文書の記載だけ確認していれば足りるのでしょうか?

最高裁平成12年(受)第1556号平成14年11月8日判決は、この点について判断した判例です。

この判例の事案は、精神病院に入院中にフェノバールを含む複数の向精神薬の投与を受けた患者が、スティーブンス・ジョンソン症候群(以下、SJSといいます)を発症し、失明したとして損害賠償を求めたものです。患者はフェノバールによってSJSを発症し失明したと認定され、フェノバール投与に関する医師の注意義務違反があったかどうかが問題となりました。

この事案では、医師は添付文書のSJSに関する記載には反していませんでした。しかし、本判例は、「向精神薬の副作用についての医療上の知見については、その最新の添付文書を確認し、必要に応じて文献を参照するなど、当該医師のおかれた状況の下で可能な限りの最新情報を収集する義務があるというべきである」と判示しました。

つまり、判例は、医薬品を用いる医師に対し、添付文書を確認するだけでなく、当該医師のおかれた状況の下で可能な限り最新情報を調査すべきとしました。

最後に

判例は、医薬品に関する注意義務を判断するにあたっては、添付文書の記載を重視しています。しかし、特段の合理的な理由の有無が問題となったり、添付文書を確認するだけでなく最新情報の調査義務が認められたりと、単に添付文書に反しているかどうかだけで注意義務違反が判断されているわけではありません。

医薬品の投与について注意義務違反が認められるかどうかについては専門的な判断が必要ですので、医薬品投与による医療過誤の被害を受けた場合は、医療過誤に精通し、医学的知見を有する弁護士に相談することをお勧めします。

この記事の執筆弁護士

弁護士 渡邊 悦子
弁護士法人ALG&Associates 弁護士 渡邊 悦子
東京弁護士会所属
弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)
東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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