監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
父母が離婚をするにあたっては、父母のいずれを親権者とするか定めなければなりません。
協議により、父母のいずれを親権者とするか定めることができれば問題ないですが、父母双方が親権を譲らない場合には、裁判所において、親権者が指定されることになります。
目次
父親が親権を取りにくい理由
フルタイムで働いているため子供の世話が難しい
親権者の判断において、父母のいずれが主たる監護者かという点が重要になります。
主たる監護者とは、子供の世話を主として担ってきた者であり、子と一緒に過ごす時間の長短のみならず、衣食住や幼稚園・保育園・学校への対応等子供の世話において重要な部分について、父母のどちらが担っていたかにより判断されます。
現代においても、父がフルタイムで働き、母が専業主婦又は時短やパートタイム労働で働くというケースが多く、こういったケースでは、母が主たる監護者として認定されやすい傾向にあります。
子供への負担を考えると母親優先になりがち
裁判所は、母を主たる監護者として認定した場合には、離婚後も、母が継続して子を監護することが、子供への負担が小さいと判断する傾向にあります。
そのため、主たる監護者としての認定を受けにくい父親は、親権において不利になる傾向にあります。
父親が親権を獲得するためのポイント
これまでの育児に対する姿勢
就労状況によっては難しい場合もあるかもしれませんが、状況が許すのであれば、主たる監護者として認定される程度に、育児にかかわることが重要です。
具体的には、毎日の子供の食事を用意する、子供の成長に合わせて衣類を用意し、季節に合わせて衣替えを行う、子供が生活する場所を定期的に掃除する、幼稚園・保育園・学校との連絡を密に行うことが重要です。
子供の予防接種や定期健診の付き添い、子供が怪我や病気になった場合の通院の付き添い等も父親が行うことが望ましいです。
その際、母の指示を受けて動くという姿勢は望ましくありません。
例えば、幼稚園・保育園・学校の行事や、予防接種、定期健診といった子供にとって重要な行事について自ら把握し、計画性を持って行動することも重要です。
これから、保育園や幼稚園に入園するのであれば、父母のいずれが保育園や幼稚園選びのために動いたか、入園手続を行ったかも重要なポイントになります。
離婚後、子育てに十分な時間が取れること
父親が親権を取得した場合、離婚後、子育てに十分な時間を取ることができることも重要です。
父親が仕事をしていない場合であれば問題はないかもしれませんが、仕事をしている場合は、仕事と子育てとを調整できることが重要となります。
具体的には、子供の急な怪我や病気の場合に仕事を抜け出して対応することができるか、幼稚園の送迎に合わせて出退勤を調整することができるか、等です。
この点については、父親の父母(子供からしたら祖父母にあたります)を監護補助者として手助けを受けながら対応することも考えられます。
その場合には、監護補助者の子供とのそれまでの関わりや、監護補助者の健康状態などにてらして、現実に、子育てを補助することができる見通しを持てることが重要です。
なお、その場合でも、監護補助者にまかせっきりにするのではなく、あくまでも、父親が監護の中心となることが重要です。
子供の生活環境を維持できるか
上記の話とも重なりますが、離婚後に、子供の生活環境を維持できることが重要です。
父親が子育てに十分な時間をとることができることは前提ですが、住環境を含めて、これまでと同じように安定した生活環境を維持できることが重要です。
転園や転校はそれ自体で決定的に不利になる事情ではないですが、それまでと同じ幼稚園・保育園・小学校に通わせることができるのであれば、この点は有利となります。
父親が親権争いで有利になるケース
父親が親権者としての適格性を有し、かつ、母親が親権者としての適格を有しない場合には、父親が親権争いで有利になります。
母親が育児放棄をしている
母親が育児放棄をしている場合は、主たる監護者が父親と認定されやすいため、父親に親権者適格が認められ、その裏返しとして、母親に親権者適格が認められない傾向にありますので、父親が有利となります。
なお、例えば、「食事を用意しているのは母親だが時々食事を作り忘れたり冷凍食品ばかりだったりする」というケースがあります。
こうしたケースで、母親の育児放棄を主張をしても、食事を用意しているのが母親である以上、母親が主たる監護者と認定され、父親が有利になることはありません。
母親の育児が不十分であることもポイントにはなりますが、父親が母親よりも育児を行っていることが重要です。
母親が子供を虐待している
母親が子供を虐待している場合には、母親の親権者としての適格性が認定され、父親側が親権争いで有利になります。
もっとも、虐待の程度は幅が広く、全てのケースで、母親の親権者適格が否定されるわけではありません。
虐待の程度により、裁判所が、この点をどこまで重視するかが異なります。
子供が父親と暮らすことを望んでいる
子供の年齢が高くなってくると、親権者の指定において、子供の意思も重視されるようになります。
例えば、ある程度大きくなった子供が、父親と暮らすことを望んでいる場合には、この点を考慮して親権者が指定されることになります。
もっとも、子供は、父母のどちらも好きであることが少なくありません。
そのため、仮に、お子様が、父親と暮らすことを望んでいると発言した場合でも、母親の前では母親と暮らしたいと発言している可能性もありますし、裁判所で行われる調査官調査でのお子様の発言が本心によるものかどうか、調査官において慎重に判断されることになります。
また、仮に、父親が、子供に対し、「父親と暮らしたいと言うように」働きかけた、という事実が顕在化した場合には、こうした働きかけの事実をもって父親側に不利になることもありますので、注意が必要です。
妻の不貞は父親の親権獲得に有利にはならない
母親が不貞をしていたことをもって、直ちに母親側が親権獲得において不利になることはありません。
例えば、不貞のため、子育てができておらず、その分、父親が子育てをしていた、ということであれば、父親側に有利になることがありますが、これは、母親の不貞の有無が問題であるというよりは、主たる監護者が父母のいずれかという問題になります。
父親が親権を獲得した場合、母親に養育費を請求することは可能か?
父親が親権を獲得した場合でも、父母の収入状況によっては、母親に養育費を請求することは可能です。
父親だから養育費を請求できないということはありません。
親権を得られなくても子供には会える
親権を得られない親には、面会交流権といって、子供に会う権利が認められます。
これを面会交流権といいます。
面会交流権が制限されるのは、父親が子供に対して虐待を加えていた等父子関係に問題があるケース、父親が母親に対してDVを加えておりこれを子供が見ていたケース等ですが、他にも、父親が母親に対して過剰な面会交流条件を要求するなど攻撃的な姿勢を示すケースでも面会交流が制限される可能性があります。
夫婦関係の問題と、親子関係の問題は別の問題であるという認識を持ち、父親側も、面会交流を円滑に実施できるように協力するという姿勢を母親や裁判所に見せることが、充実した面会交流の実現につながります。
子供の親権を父親が勝ち取れた事例
親権又は監護権(注:離婚前に父母のいずれかが子供を育てる権利を監護権といいます)争いが問題となる事例では、主たる監護者が母親であるケースが多いです。
そのため、父親が親権又は監護権を取得するのは、中学生や高校生になった子供が、父親の元で暮らしたいと主張し、この点が重視された場合が多いです。
子供が父親の元で暮らしたいと主張する理由には様々なものがありますが、父子関係のみならず、通学や進学等現実的な事情によることもあります。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
父親の親権に関するQ&A
乳児の親権を父親が取るのは難しいでしょうか?
事例にもよりますが、難しいことが多いです。
これは、父母の性差の問題ではなく、現実に、母親が育児休暇を取得することが多い等の事情によるものです。
乳児の事例であっても、主たる監護者が父親であるとの認定を受けることができれば、父親が親権を獲得できる可能性はあります。
未婚の父親が親権を取ることは可能ですか?
未婚出産の場合、親権者は、自動的に母親になります。 そのため、未婚の父親が親権を取ることは原則としてできません。
元妻が育児をネグレクトをしています。父親が親権を取り返すことはできますか?
親権の変更は、親権者変更調停・審判という裁判所での手続によって行われます(当事者の合意によってはできません)。
親権者変更調停・審判では、元妻に親権を行使させることが不相当といえる程度のネグレクトにあたるか否かという点が問題となります。
そのため、ネグレクトの程度によっては、父親が親権を取り戻すことができる可能性があるといえます。
妻は収入が少なく、子供が苦労するのが目に見えています。経済面は父親の親権獲得に有利になりますか?
経済面は、親権獲得と関係がありません。
母親の収入が少ない場合には、父親が母親に養育費を支払うことで経済的な問題は解決されます。
仮に、母親が、浪費家であるなど、相当額の養育費の支払いを受けても、生活が困窮する可能性があるといえる場合には、経済観念について、母親の親権者の適格性を問題にする、という争い方も可能であると考えます。
ただ、この点も、程度問題であるため、単に普通より支出が多い、塾や習い事等特別な教育を受けさせることができない、という程度であれば、父親側に有利な事情にはあたらないでしょう。
父親の親権争いは一人で悩まず弁護士に相談しましょう
親権争いについては、上記のように、様々なポイントがあります。
ポイントを意識せずに、親権争いをすることで、不利になってしまったり、あるいは、勝ち目のない争いに時間や労力をかけることになってしまったり、という結果になることもあります。
父親の親権争いについては、争うべきポイントや、見通しを含め、弁護士の相談されることをお勧めします。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)