親権と監護権|違いや分けた場合のメリット、デメリットについて

離婚問題

親権と監護権|違いや分けた場合のメリット、デメリットについて

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

子に対する権利、義務としては、「親権」がすぐに想起されます。しかし、離婚しておらず共同親権に服する状態で別居した場合や、離婚後に親権者と実際に監護する者を分けた場合などにおいては、親権とは別に、子どもを監護する権利・義務(監護権)という部分のみがクローズアップされることがあります。
このページでは、この監護権について、ご説明をいたします。

監護権とは

監護権とは、子を監護・教育する権利・義務のことをいいます。監護とは、食事や衣服、住環境の提供や、病気の際の看病、病院への受診など子の成育に必要な一切の行為をいいます。また、教育とは、学校教育・家庭教育を問わず、子の成育に必要な教育を施すことをいいます。
ところで、子を監護・養育する権利としては、「親権」が思いつくと思います。親権には、主に、子を監護教育する権利(身上監護権)と財産を管理する権利(財産管理権)があると考えられており、監護権と身上監護権は、ほぼ同義です。親権から切り離された場合に、「監護権」と表現することが多いため、ここでも「監護権」という場合には、親権がない場合を想定して使用します。

親権と監護権の違い

親権者は、法律上、子に代わって法律行為をすることができるという権利(代理権)と子の法律行為に関して同意する権利(同意権)があります。そのため、例えば、子が事故に遭った場合などにおいて、親権者は、子の代わりに加害者に対して、損害賠償の請求をすることが出来ます。
一方で、監護権は、親権から切り離されているため、代理権も同意権もありません。あくまで子を監護する権利・義務となるため、上記のような損害賠償の請求を代理したりすることはできません。

身上監護権の内訳

身上監護権は、親権の一側面であり、子を監護教育する権利・義務です。ここでは、親権のうち、身上監護権に関する部分について、ご説明をします。

身分行為の代理権・同意権

15歳未満の子が養子となる場合、法定代理人(親権者、未成年後見人)の同意を必要とします。また、15歳未満の養子の離縁に際しては、離縁後に親権者となる父母が、その子に代わって、養親と協議を行います。
このように、身上監護権には、未成年者の身分関係に関して、代理権や同意権を有しています。

居所指定権

居所指定権とは、文字どおり、子の居所を指定する権利のことです。通常、子と親権者は、一緒に住むことが多いですが、この場合、同居している家を指定していることとなります。
また、後述のとおり、親権者と監護権者を分けることがあります。その場合、親権者は、子の居所として、監護権者の住居を指定したと考えることができます。

懲戒権

懲戒というと物騒ですが、要は、子に対して「しつけ」をする権利のことです。このような「しつけ」は、あくまで子を監護・教育するために必要な範囲で行うことができるに過ぎません。そのため、懲戒権があるといっても、体罰を与えることができるわけではありません(児童虐待の防止等に関する法律第14条)。

職業許可権

未成年の子は、何らかの契約をしても、その契約を取り消すことができます。これは、未成年者に十分な判断能力がなく、詐欺の被害に遭ったり、不必要な契約を結んでしまうおそれがあるために認められた権利です。
しかし、この取消権があると、未成年者と取引をしても後から契約が取り消されかねないため、未成年者は、成人するまで職業を営むことが出来なくなってしまいます。そこで、子は、親権者の同意を得れば、職業を営むことができるとされています。
裏を返すと、親権者には、身上監護権の一つとして、職業の許可を与える権利があるということとなります。

親権者と監護権者を分けるメリット・デメリット

離婚する際に未成年の子がいる場合、親権者を定める必要があります。この際、通常、親権者が子を監護することになりますが、親権者と監護権者を分けることも可能です。ここでは、親権者と監護権者を分けることのメリット、デメリットについてご説明します。

メリット

離婚時に、対立が生じやすいものの一つが、どちらが親権者となるかということです。親権が決まらない限り離婚することはできないため、当事者双方が離婚については同意していても、親権に争いがあると、長期間にわたって争い続けなければならなくなります。
親権を求める理由は様々ですが、親権を失うと子の監護に関われなくなるなどといったことが一つの理由として挙げられます。このような場合、親権と監護権を分けることで、親権に関しても合意ができ、離婚に関して早期に解決することができる可能性があります。
上記のとおり、親権争いが生じた場合に、早期解決が図れる可能性があることがメリットといえます。

デメリット

親権と監護権を分けた場合、実際に監護をしている者は、子の代理人になることはできず、子の法律行為に関して同意することもできません。例えば、子名義の通帳を作ろうとしても、子の代理人になれませんので、親権者に連絡をして、通帳を作ってもらう必要があります。また、子名義の携帯電話も同様に親権者に契約をしてもらう必要があります。ほかにも子が契約トラブルに遭った場合にも、監護権者がその契約を取り消すなどの対応を取ることができません。 また、親権と異なり、監護権については、公式な書類には明記されません。つまり、親権者とは異なり、監護権者については、戸籍に記載されることはありません。そのため、監護権者が誰であるかを示す合意書などがないと、後からトラブルになる可能性もありあす。

親権と監護権を分ける手続き

親権者と監護権者との間の合意によって、親権と監護権を分けることになります。親権者の定めとは異なり、離婚届に記載するなどの手続きはありませんので、当事者間の合意のみによって親権と監護権を分けることが可能です。また、当事者間では協議できないような場合には、離婚調停の中で、親権と監護権を分ける話し合いをすることも可能です。

子供と一緒に暮らすための監護者指定とは

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監護権をとるために必要なこと

監護権の問題が生じるのは、主に離婚の前に別居状態に至ったとき、離婚後に親権者と監護権者を分けようとするときが考えられます。
通常、裁判所は、親権者と監護権者とを一致させるため、離婚後に監護権だけを取るために必要なのは双方の納得だけといえます。
一方で、離婚の前に別居状態に至ったときについては、どちらかが監護権を取得しなければなりません。そのため、家庭裁判所において、監護権者を定めることがあります。
では、家庭裁判所はどのような基準で監護権者を決めるのでしょうか。これについては、過去の監護状況、現在の監護状況、子の意思、監護環境、監護補助者の有無などの事情を総合考慮して判断しています。この中で、特に重要なのは、監護実績なのですが、監護は、家庭内のことであり、誰がどのような監護をしたのかを示す証拠が存在しないことが多々あります。そこで、子育ての記録をつけるなど、自己の監護に関して立証する証拠を残しておくのが良いと考えられます。

監護を怠った場合の罰則

子の年齢にもよりますが、幼年の子に対し、生存に必要な保護をしなかった場合には、保護責任者遺棄等の罪(刑法218条)に該当する可能性があります(なお、刑罰は、3か月以上5年以下の懲役です。)。例えば、自分で食事の用意等ができないような年齢の子に対して、十分な食事を与えない場合などにおいては、必要な保護をしなかったと考えられ、保護責任者遺棄等に当たる可能性が高いでしょう。

一度決めた監護権は変更できる?

一度、監護権者を定めても、後で、監護権者を変更することは可能です。変更に際して、家庭裁判所の手続きは必要ではなく、当事者間の協議のみで監護権者を変更することができます。また、家庭裁判所で協議を行うことも可能であり、当事者間の協議で解決できない場合には、家庭裁判所の調停により解決を図ることも考えられます。
一方で、親権変更については、法律上、家庭裁判所の手続きを経ることが必要とされています。当事者間の合意のみでは親権者を変更することはできませんので、必ず家庭裁判所に申立てをしましょう。

監護権に関するQ&A

親権者と監護権者を分けた場合、親権者に養育費を請求することはできますか?

養育費が子のために使われるべき金銭であることを考えると、実際に監護に当たっている監護権者に対して養育費が支払われるべきと考えられます。そのため、監護権者は、親権者に対して養育費の請求をすることができると考えます。

監護権の侵害とはどんなことをいいますか?

監護権者のもとから、一方的に子を奪うような行為が監護権侵害に当たると考えられます。別居後、監護権者と指定された親から、もう一方の親が無断で子を連れ去る行為や、面会交流が終了しても、子を返さないような場合、監護権の侵害にあたる可能性があります。

祖父母でも監護権を獲得できますか?

原則として、監護者は、子の父母のいずれかが指定されるものであり、それ以外の者が指定されることはありません。もっとも、第三者を監護権者とすることが禁止されているわけではないため、子の利益のために、祖父母を監護権者として指定すべき事情があれば、祖父母が、監護権者になるという可能性はあります。
ただし、祖父母が家庭裁判所に対して、監護権者の指定を求める調停、審判を申し立てることはできないとされています(最高裁令和3年3月29日民集75巻3号952頁)。

監護権を証明する書類はあるのでしょうか?

監護者指定の調停、審判で監護者を決めたという場合、調停調書、審判書で誰が監護権者になったのかを証明することができる可能性があります。しかし、このような場合を除くと、監護権を証明するような書面は特にありません。そのため、親権と監護権とを分離させた場合、誰が監護権者になったのかが明らかになるように、合意書などを作成しておいた方がよいでしょう。

監護権のみを持っている場合でも児童扶養手当をもらうことができますか?

児童扶養手当は、離婚、父母いずれかの死亡、失踪などの場合において、実際に監護をしている者に支給されることとされています。そのため、基本的に、親権を有していない場合であっても、監護権を有し、実際に監護していれば、児童扶養手当が支給されることとなります。

監護権についてわからないことは弁護士にご相談ください

ここでは監護権について、ご説明をいたしました。監護権が問題となるという場面は少なく、実務上は、離婚前に別居した状況において問題になるくらいだと思われます。しかし、監護権は、子どもを実際に監護する権利・義務であり、重要なものです。監護権に関して分からないことがある、監護権の争いが生じているという場合には、専門家である弁護士にご相談いただければと思います。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。