監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
日本の離婚制度において長年議論されてきた「共同親権」が2026年4月1日に施行され、すでに運用が始まっています。
法改正により離婚後の子育ての形が大きく変化することが予想されていますが、「具体的に生活や手続きで何が変わるのか」「自分や子供にとってどのようなメリット・デメリットがあるのか」と不安や疑問を抱く方も多いのではないでしょうか。
本記事では、共同親権の基本的な概要から、海外の状況、導入によるメリット・デメリット、注意点やよくある質問まで分かりやすく解説します。
共同親権とは
共同親権とは、父母が離婚した後も、双方が共同で子供の親権を行使する制度のことです。
従来の日本の民法では、離婚後は父母のどちらか一方のみを親権者とする「単独親権制度」が採用されていました。
共同親権のもとでは、離婚後も父母双方が子供の親権者として、教育方針の決定、財産管理、居所の指定など、子供の発達や生活に関わる重要な事項を共同で判断・決定していくことになります。
共同親権になると何が変わるのか
共同親権が導入されると、これまで一方の親に偏っていた子育ての権利や義務が父母双方に分散・共有されるようになります。
具体的には、学校の進学先の決定、医療行為(重大な手術など)の同意、引越しによる居所変更といった重要な事項において、原則として離婚後も父母双方の合意が必要となります。
一方で、日常生活における食事の用意や習い事の送迎などの「日常の身の回りの世話」や緊急時の応急処置などについては、父母の一方が単独で決定・判断できる形となります。
海外の共同親権の導入状況は?
欧米諸国をはじめとする多くの先進国では、すでに離婚後の共同親権(あるいは共同親責任)制度が一般的に導入されています。
例えば、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツなどでは、離婚後も原則として父母双方が親権を持つ制度が定着しており、子供の成長において父母双方との交流を継続することが子供の福祉に叶うという考え方が基本となっています。
一方、DVや虐待などの危険がある特別な事情が存在する場合には、例外的に単独親権が認められる仕組みが整備されています。
日本ではいつから共同親権が導入されるのか?
日本では、共同親権の導入を盛り込んだ改正民法が2024年5月に成立し、2026年4月1日より施行・スタートしました。
制度の導入に伴い、離婚時には父母の協議によって「共同親権」か「単独親権」を選択できるようになっています。
父母間で意見がまとまらない場合は、家庭裁判所が「子の利益」や個別の事情を考慮した上で、どちらの親権形式が適しているかを判断することになります。
共同親権を導入するメリット
共同親権の導入には、離婚後の子育て環境や親同士の関係性において、さまざまなメリットが期待されています。
離婚時の親権争いを回避しやすい
単独親権制度のもとでは、離婚時にどちらか一方しか親権者になれないため、「親権をとられたら子供と会えなくなるのではないか」という焦りから、激しい親権争いへ発展するケースが多く見られました。
共同親権が選択肢に加わることで、離婚後も双方が親として関わり続けられる安心感が生まれ、不要な衝突や泥沼の親権争いを回避しやすくなると期待されています。
双方の妥協点を見つけやすくなり、スムーズな協議離婚の成立につながる可能性があります。
離婚後でも両親ともに子育てに関われる
共同親権では、離婚後も父母双方が法的な親権者としての立場を保持するため、子供の成長に対して責任を持ち続けやすくなります。
別居親にとっても「自分は親である」という自覚を持ちやすく、学校行事への参加や進路相談などを通じて、成長の過程に深く関わり続けることができます。
子供にとっても、両親からの愛情を感じながら健やかに成長できる環境が整いやすくなります。
養育費の不払いを防ぎやすい
日本の単独親権制度においては、離婚後の養育費の不払いが大きな問題となっていました。
別居親が子育てから孤立し、責任感が薄れてしまうことが一因とされています。
共同親権が導入され、離婚後も子育てに直接関与する機会が増えることで、別居親側の「親としての当事者意識」が維持されやすくなります。
その結果、養育費支払いの継続率が高まり、不払いを防ぐ効果が期待されています。
親子交流(面会交流)が実施されやすい
単独親権下では、同居親の意向や感情によって親子交流(面会交流)が拒否されたり、不定期になったりするケースが少なくありませんでした。
共同親権のもとでは、双方が親権者として権利と義務を有するため、親子交流(面会交流)の実施が円滑化されやすくなります。
定期的な親子交流(面会交流)が定着することで、子供と別居親との親子関係が断絶されるリスクが大幅に減少し、子供の情操教育や心の安定にも良い影響を与えます。
共同親権を導入するデメリット・問題点
メリットの一方で、共同親権には懸念されるデメリットや問題点も指摘されています。
DVやモラハラが継続するおそれがある
最も強く懸念されているのが、配偶者からのDV(配偶者暴力)やモラハラ(精神的虐待)が存在していたケースです。
共同親権になると、離婚後も子供の重要事項の決定において元配偶者と連絡や協議を行う必要があります。
そのため、離婚後もDVやモラハラの関係性や支配関係が断ち切れず、被害を受けた側の親が精神的に追い詰められたり、危険に晒され続けたりするおそれがあります。
子供の負担が増える可能性がある
父母が離婚後も対立状態にある場合、共同親権となることで子供が板挟みになり、大きな精神的ストレスを抱える可能性があります。
進路選択や習い事など、自分に関する事柄について親同士が意見を衝突させ、議論が平行線をたどる姿を間近で見続けることは、子供にとって大きな負担です。
両親の顔色を伺うようになり、自分の本当の気持ちを言えなくなってしまうリスクも懸念されます。
教育方針などの決定に時間がかかりやすい
子供の進学先の選定、留学、医療行為の同意など、重要な判断を行う際に父母双方の合意が必要となるため、意思決定に時間がかかるというデメリットがあります。
特に父母の意見や価値観が大きく異なる場合、協議が難航してタイムリーな決定ができず、出願期日に間に合わないなどの不利益が子供に及ぶリスクがあります。
遠方への引っ越しが制限される場合がある
共同親権下では、子供の居所(住む場所)を変更する際にも父母の合意が必要とされる場合があります。
そのため、同居親が仕事の都合による転勤、再婚、実家への帰省などを理由に遠方へ引っ越そうとしても、別居親の反対によって転居が制限される可能性があります。生活環境の変更やキャリア形成において柔軟な対応が難しくなる場面が生じる恐れがあります。
もっとも、父母の一方を監護者と定めている場合には、監護者は単独で子の居所の指定や変更を行うことができるので、引っ越しが制限されることはありません。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
共同親権を取るためのポイント
離婚後に共同親権を選択・維持するためには、いくつかの重要なポイントがあります。
まず前提となるのは、「離婚後も冷静かつ建設的に意思疎通ができる関係性を保てるか」という点です。
父母間のコミュニケーションが完全に断絶している場合、共同親権の運用は困難になります。また、感情的な対立を排除し、「子供の利益(子どもの福祉)」を最優先に考えられる姿勢が必要です。
具体的には、離婚協議の段階で、連絡方法や面会の頻度、教育費の分担ルールなどをまとめた離婚協議書を作成しておくことが大切です。
共同親権が認められないケース
法改正後も、すべてのケースで共同親権が認められるわけではありません。
特定の問題がある場合には、子供の安全と福祉を守るために「単独親権」と定められます。
具体的には、以下のようなケースが該当します。
- 配偶者に対するDV(身体的・精神的暴力)やモラハラが存在する場合
- 子供に対する虐待(身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待)がある場合
- 一方の親が激しい精神的対立状態にあり、共同で意思決定を行うことが著しく困難と判断される場合
家庭裁判所がこれらの事実を認定した場合、共同親権は認められず、一方の親による単独親権となります。
共同親権が取れない場合の対処法
相手方の拒否や裁判所の判断によって共同親権が取れず、単独親権となった場合でも、別居親が子供との関わりを完全に失うわけではありません。
親権者になれなかった場合でも、適切な「親子交流(面会交流)」の条件を設定することで、定期的に子供と会い、成長を見守ることができます。
また、離婚協議書や調停調書において、「進路や重大な病気の際には事前に通知・相談を受ける」といった条項を定めておくことも可能です。
さらに、事情の変化(同居親側の事情変更やDVの解消など)があれば、後から親権者の変更を申し立てることも検討できます。
共同親権についてのQ&A
共同親権導入後に離婚した場合、自動的に共同親権になるのでしょうか?
自動的に共同親権になるわけではありません。
制度導入後に離婚する場合であっても、父母の協議によって「共同親権」か「単独親権」を選択することになります。
協議が整わない場合は家庭裁判所に調停や審判を申し立て、裁判所が子供の利益を考慮してどちらを指定するか判断します。
既に離婚している場合、共同親権になった後の親権はどうなるのでしょうか?
制度導入前に離婚した場合は、原則として従来の単独親権のまま維持されます。ただし、制度導入後に家庭裁判所へ「親権者変更」の申立てを行うことで、単独親権から共同親権へと変更することが可能です。
家庭裁判所が子供の意向や父母の関係性を考慮し、変更が妥当であると判断した場合に共同親権へ移行します。
共同親権で再婚した場合、子供の親権者は誰になりますか?
再婚相手と子供が「養子縁組」をするかどうかで親権者が変わります。
再婚相手と子供が養子縁組をしない場合、親権者は離婚時と変わらず「実父と実母」のままです。
一方、再婚相手と子供が養子縁組をした場合、親権者は「実母と再婚相手(養親)」の共同親権となり、実父は親権を失うことになります。
共同親権は拒否できますか?
相手から共同親権を求められた場合でも、拒否することは可能です。
協議離婚において自身が同意しなければ、共同親権が成立することはありません。相手が譲らず協議が難航した場合は裁判所の調停・審判へ移行します。
DVや虐待の事実、意思疎通が不可能な事情などを主張・立証できれば、裁判所によって単独親権が認められる可能性が高くなります。
共同親権から単独親権への変更はできますか?
離婚後に共同親権となった後でも、単独親権への変更は可能です。
離婚後に相手方からDV・虐待が発生した場合や、意見の対立が激化して子供の進路決定などに重大な支障が出ている場合、家庭裁判所に「親権者変更の調停・審判」を申し立てることができます。
子供の利益を著しく害すると認められれば、単独親権への変更が認められます。
共同親権について不明点があれば弁護士へご相談ください
共同親権の導入により、今後の離婚協議や子育てのあり方は大きく変わります。
共同親権を選択すべきか単独親権を目指すべきかは、それぞれの家庭環境、父母の関係性、DVの有無、そして何より子供の意向や幸せによって異なります。
自分にとってどの選択が最適なのか判断に迷う場合や、相手方との交渉に不安がある場合は、早期に離婚問題や親権問題に詳しい弁護士へ相談することをおすすめします。
法的なアドバイスを受けることで、適切な手続きを進め、自分と子供の権利と未来を守ることができます。

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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
