監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
相続に関して、寄与分という制度があります。寄与分とは、相続財産の維持又は増加について特別の貢献をした相続人がいる場合に、遺産相続の際、その相続人が取得できる遺産を増額させようという制度です。寄与分の中で、「被相続人の事業に関する労務の提供」を行っていた場合、「家事従事型」と呼ばれます。
以下では、この「家事従事型」の寄与分について解説します。
目次
- 1 家事従事型の寄与分とはどんなもの?
- 2 寄与分を認めてもらう要件
- 3 家事従事型の寄与分を主張するためのポイント
- 4 家事従事型の寄与分に関する裁判例
- 5 家事従事型の寄与分の額はどのように決めるか知りたい
- 6 家事従事型の寄与分に関するQ&A
- 6.1 夫の飲食店を無償で手伝っていたが離婚しました。寄与分は認められますか?
- 6.2 長男の妻として農業を手伝っていました。寄与分は主張できるでしょうか。
- 6.3 夫の商店を手伝いながら、ヒット商品の開発にも成功しました。寄与分を多くもらうことはできますか?
- 6.4 父の整体院を給与無しで手伝っていました。小遣いを月4万円もらっていたのですが、寄与分は請求できるのでしょうか?
- 6.5 父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合、寄与分は認められますか?
- 6.6 無給で手伝っていましたが、たまの外食や旅行等に行く場合は費用を出してもらっていました。寄与分の主張はおかしいと言われましたが、もらうことはできないのでしょうか。
- 7 ご自身のケースが寄与分として認められるか、弁護士へ相談してみませんか?
家事従事型の寄与分とはどんなもの?
家事従事型の寄与分とは、被相続人の事業に関する労務の提供により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした場合に認められる寄与分をいいます。
なお、事業の内容や、労務の提供の方法については、特に決まりはありません。
家事=炊事洗濯ではない。家事従事型の具体例
家事従事型と聞くと、炊事洗濯をイメージするかもしれませんが、ここでの「家事」とは、家業や事業を意味しています。
例えば、夫が農業を営んでおり、妻がその手伝いを毎日無償で行い、農地からの収穫を維持できるように貢献していた場合や、母が経営する飲食店で、長女が無償でほぼ毎日勤務した結果、母が営業収入で生活できていた場合が挙げられます。
寄与分を認めてもらう要件
寄与分を認めてもらう要件は、①寄与者が相続人であること、②被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により特別の寄与をしたこと、③被相続人の財産が維持され又は増加があったことです(民法904条の2第1項)。
家事従事型の独自の要件
家事従事型の寄与分の場合、上記の寄与分の一般的な要件に加え、以下の要件が必要と考えられています。
①寄与が無償又は無償に近い状態で行われていること
つまり、例えば提供した労務に見合うだけの報酬を受け取っている場合などには、寄与分としては認められません。
②労務の提供が一定期間継続しており、かつ労務の内容が相応の負担を要するものであること
被相続人の財産の維持又は増加に貢献したといえるための要件です。
通常の手伝いをした程度では認められない
寄与分として認められるためには、「特別の寄与」と評価できるほどの貢献が必要です。では、どの程度の貢献が必要となるのでしょうか。
まず、親族間には、民法上の扶養義務があります。そのため、通常の手伝いや身の回りの世話をしたという程度では、親族としての扶養義務の範囲内であるとして、寄与分は認められません。そのため、例えば、相続人が被相続人の営む農業などの手伝いをしたことがあるというだけでは、寄与分が認められる可能性は低いと考えられます。
家事従事型の寄与分を主張するためのポイント
上記のとおり、家事従事型の寄与分が認められるためには、寄与分一般の要件では足りません。家事従事型の寄与分を主張するためのポイントを具体的に上げると、以下のとおりです。
①被相続人と同居していたか否か
②被相続人と同居していた場合、生活費等をだれが負担していたか
③被相続人の事業に関して労務提供をするようになった経緯
④どれくらい手伝っていたか(労務の内容、時間等)
以上の事情を総合的に考慮し、被相続人の事業に対する寄与者の貢献が、「特別の寄与」にあたるか否かを判断することになります。
こういったものが証拠になります
「特別の寄与」があったと主張する上で、それを裏付ける証拠の存在が非常に重要になります。
証拠としては、業務日誌(日報)、タイムカード、メール、寄与者の確定申告書、給与明細書、預金通帳、被相続人の確定申告書、会計帳簿、預金通帳などが想定できます。
家事従事型の寄与分に関する裁判例
これまで述べたとおり、家事従事型の寄与分は様々な要件が必要となります。では、具体的にどのように判断されているのか、以下、裁判例を紹介します。
相続人以外の寄与分が認められた裁判例
(平成4年12月28日審決 神戸家裁)
申立人は、被相続人を扶養していました。その中で、被相続人が持病の高血圧と心臓病に老衰も加わり、寝たきりの状態となったため、申立人の妻が昼夜被相続人の側に付きっきりになり看護をしていました。このような申立人の妻の被相続人に対する献身的看護は、親族間の通常の扶助の範囲を超えるものがあり、遺産の維持に特別の寄与貢献があったものと評価するのが相当と判断し、寄与分を認めました。
家事従事型の寄与分が認められなかった裁判例
(平成27年7月28日決定 札幌高裁)
相続人は、被相続人の指示で会社を退職し、被相続人の経営する簡易郵便局に夫婦で勤めることとなり、2人で月25万円から35万円の給与を得ていました。この金額は、当時の賃金センサスによると、大卒46歳時の平均給与の半分にも満たないものでした。
しかし、業務の主体は被相続人であったこと、給与水準は事業内容・企業の形態・労働者の経験や地位等の諸条件により異なること、相続人夫婦は被相続人と同居しており、家賃や食費は被相続人が支払っていたことから、相続人は当該事業への従事で相応の給与を得ていたというべきとして、寄与分は認められませんでした。
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家事従事型の寄与分の額はどのように決めるか知りたい
寄与分は、寄与相続人が得られたであろう給付額から、生活費相当額を控除して寄与期間を乗じることによって算出します。
計算式としては、
「寄与相続人が通常得られたであろう給付額」×(1-生活費控除割合)×寄与年数-現実に得た給付
となります。
「寄与相続人が通常得られたであろう給付額」は、被相続人死亡時における、その家業と同種同規模の事業に従事する、寄与相続人と同年齢層の年間給付額を基準にします。賃金センサス等を参考にすることが多いでしょう。
「生活費控除割合」については、寄与相続人が被相続人と同居していて、家賃や生活費を支払わずにいた場合、被相続人から利益を受けていたとされ、その分が控除されます。
家事従事型の寄与分に関するQ&A
夫の飲食店を無償で手伝っていたが離婚しました。寄与分は認められますか?
寄与分が認められるのは、法定相続人に限られます。 妻は夫の法定相続人となりますが、相続開始時に既に離婚していた場合には、法定相続人とはなりません。そのため、過去に夫に無償で労務提供をしていたとしても、その後離婚した場合には、寄与分の前提となる相続権すらないことになるので、当然ながら寄与分は認められません。
長男の妻として農業を手伝っていました。寄与分は主張できるでしょうか。
寄与分が認められるのは、法定相続人に限られます。 被相続人の長男の妻は法定相続人ではないため、寄与分は認められません。 ただし、被相続人の親族(相続人以外)が特別の寄与をした場合には、相続人に対し、寄与に応じた額の金銭(特別寄与料)の支払いを請求することができます。よって、本件では、特別寄与料として、請求することができる可能性があります。
夫の商店を手伝いながら、ヒット商品の開発にも成功しました。寄与分を多くもらうことはできますか?
被相続人の事業を手伝いながら、ヒット商品の開発にも携わり、被相続人の財産の維持・増加に大きく貢献したといえる場合は、その貢献の程度により寄与分が多く認められる可能性があります。 ただし、寄与分算定の際に、寄与行為にかかった金額ではなく、寄与行為による貢献度を割合に置き換えて算定する場合もあるため、貢献に見合った金額の寄与分が必ず認められるわけではありません。
父の整体院を給与無しで手伝っていました。小遣いを月4万円もらっていたのですが、寄与分は請求できるのでしょうか?
整体院が法人ではない場合、寄与分が認められる可能性があります。それでも、月4万円というのが、整体院で従事していた時間からして著しく少なく、労務提供の継続性・専従性が必要になります。
父の会社に従業員として勤めて経営を支えていた場合、寄与分は認められますか?
個人と法人は別人格であるため、「被相続人の事業」については、法人による事業を含まないのが原則です。会社内での貢献は、あくまでも会社財産への貢献であり、被相続人の財産に対する貢献とはいえません。よって、この場合、寄与分は認められないと考えられます。
無給で手伝っていましたが、たまの外食や旅行等に行く場合は費用を出してもらっていました。寄与分の主張はおかしいと言われましたが、もらうことはできないのでしょうか。
自身で負担するのが通常である家賃や日常の生活費と異なり、外食費や旅費については、親族に出してもらうこともあり得ます。そのため、社会通念上相当の範囲内でれば、外食や旅行等に行く場合の費用を出してもらったことが、直ちに寄与分の額に影響するわけではありません。
ご自身のケースが寄与分として認められるか、弁護士へ相談してみませんか?
寄与分については、その制度内容、そして認められるための様々な要件があり、非常に複雑です。これまでの裁判例を見ても分かるとおり、寄与分が認められるか否かの判断は、様々な要素を考慮するため、ご自身で判断するのは容易ではありません。相続の際に、寄与分というものが問題になり得ることを初めて知ったという方もいらっしゃるでしょう。寄与分が認められるのか、認められるとしてそれはどの程度なのか、といった問題に直面した場合には、早めに弁護士に相談することをお勧めします。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)