監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
遺産相続の際、他の相続人から遺産分割の話が出るというのはよくあることですが、「遺留分侵害額請求」という話が出ることがあります。
「遺留分」とは、被相続人による贈与や遺贈について、一定の相続人に取得が認められる持分的利益です。被相続人による贈与や遺贈が、一定の相続人の遺留分を侵害する場合には、その相続人は、「遺留分侵害額請求」をすることができます。
以下では、遺留分侵害額請求について、どのように対処すべきかなどについて解説していきます。
目次
遺留分侵害額請求をされたら、内容をよく確認しましょう
他の相続人から遺留分侵害額請求をされたら、まずは、どのような内容の主張なのかを確認する必要があります。
以下、詳しく見ていきましょう。
請求者に遺留分を請求する権利はある?
遺留分侵害額請求をすることができるのは、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人です。また、相続放棄をした方や、相続人として欠格事由のある方や廃除された方については、遺留分侵害額請求をすることはできません。
以上を踏まえ、そもそも、遺留分侵害額請求をしている相続人が、当該請求をすることができるのかを確認しましょう。
遺留分の侵害は事実かどうか
次に、遺留分の主張をしている方が請求権を有しているとして、その主張内容が事実か否かを確認しましょう。
例えば、遺留分を主張する方から、被相続人から生前贈与を受けていると主張された場合は、被相続人から贈与を受けたというのが事実かどうかの確認が必要です。
仮に、金銭の交付の事実があっても、それに対して何かしらの物を交付していたり、労務の提供をしていた場合には、贈与というのは事実に反することになります。このように、主張内容が事実ではないこともありますので、事実関係の詳細な確認が必要です。
請求された割合は合っている?
遺留分侵害額請求をされ、その主張の内容が事実であったとして、次は、請求の割合が妥当かを確認する必要があります。割合については、総体的遺留分割合・個別的遺留分割合で検討します。
総体的遺留分割合は、遺産全体のうち遺留分として認められる割合を意味します。
①相続人が直系尊属のケースでは全体の3分の1、②それ以外のケースでは全体の2分の1が総体的遺留分割合として認められます。
そして、各相続人の法定相続分を乗じた割合が、個別的遺留分割合となります。
遺留分侵害額請求の時効を過ぎていないか
遺留分侵害額請求の前提としての事実があり、請求割合が正しいとしても、遺留分侵害額請求権には時効がありますので、時効期間が経過していないかを確認する必要があります。
遺留分侵害額請求権の時効は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年以内」と決まっています。また、除斥期間として、相続開始の時から10年を経過した場合は、請求ができないこととなっています。
相続があってから一定の期間が経ってから遺留分侵害額請求の話が出ることは珍しくありませんので、時効及び除斥期間については注意する必要があります。
払わなくていいケースでも連絡は必要?
遺留分の侵害がない場合は、当然ながら支払の必要はありません。また、相手方に連絡をする法的義務もありません。
しかし、当然ながら、相手方は遺留分侵害額の請求権があると考えて請求しているので、こちらが連絡を無視した場合、家庭裁判所に調停を申し立てるなどの法的手続きに移る可能性があります。そうすると、調停等に対応する必要がでてきます。
そのため、支払いの必要がない場合でも、相手方に連絡をするのが良いでしょう。
遺留分の請求は拒否できないの?
遺留分は、法律上決められた権利です。そのため、請求をしてきた相手方への支払を拒否することはできません。
そのため、正当に認められる遺留分侵害額の請求をされているにもかかわらず支払いを拒否し続けると、最終的には預金口座や不動産などの財産の差押えがされる可能性があります。
このような事態を防ぐためにも、早めに専門家に相談することをお勧めします。
遺留分は減らせる可能性がある
上記のとおり、遺留分は法律上認められた権利ですので、遺留分を侵害している場合に遺留分侵害額請求を拒否することはできないものです。
しかし、遺留分侵害額請求が認められるケースでも、支払う金額を減らせる場合があります。
以下、請求者に特別受益がある場合と遺産の評価額が下がる場合を見ていきましょう。
請求者に特別受益がある場合
遺留分侵害額請求を行ってきた相手方に、特別受益があるようなケースでは、その特別受益について考慮して、相手方へ支払う金額を決めていくことになります。
そのため、このようなケースでは、相手方に支払う金額を減らせることになります。
計算としては、特別受益に相当する金額を相続財産に加え、その金額に上記で説明した総体的遺留分割合、そして相手方の個別的遺留分割合を乗じて、金額が決まります。
相手方に特別受益があるかどうかは、支払う金額に影響してきますので、しっかりと確認する必要があります。
遺産の評価額を下げる
遺留分の金額は遺産の総額によって決まります。そのため、遺産の評価額が下がれば、当然ながら相手方に支払う遺留分侵害額の金額は減少します。
例えば、不動産については、評価方法によって評価額が変わってきます。そのため、相手方が主張してきた不動産の評価額を安易に信じず、適正な評価額かどうかの確認をすべきです。
基本的には、こちらでも評価を取得し、その上で相手方と協議していくべきでしょう。
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相続分野のうち、遺産分割そのものは馴染みがあるかもしれませんが、遺留分はなかなか馴染みがないかと思います。特に、特別受益があるような場合などは、複雑な計算も必要となりますので、スムーズに解決するのは容易ではありません。そのため、専門家のサポートが必要なケースが多いのではないでしょうか。
弁護士法人ALGには、相続について専門知識を有しており、経験豊富な弁護士が多数在籍しています。そのため、依頼者様にとってベストな解決ができるよう、お力添えができるかと思います。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)