監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
離婚する際は、「有責配偶者」という言葉がよくみられます。しかし、具体的にイメージしづらかったり、離婚にどう影響するのかわからなかったりする方も多いでしょう。
相手が有責配偶者にあたる場合、裁判上の離婚事由が認められやすくなったり、慰謝料を請求できる可能性があります。また、他方で、こちらが有責配偶者に垣外うする場合には、裁判上の離婚が認められない可能性があったり、話し合いが難航したり、適切な主張・立証をしないと不利な結果になったりするリスクもあるため、注意も必要になります。
本記事では、そもそも有責配偶者とは何か、有責配偶者との離婚を進める際の注意点などを解説します。ご自身のケースにあてはまるかどうか、ぜひご確認ください。
目次
有責配偶者とは
有責配偶者とは、離婚の原因を作った側の配偶者のことを言います。
ポイントは、「どんな離婚の原因を作ったのか」です。というのも、ここでいう離婚の原因は、法的に離婚が認められる事由(法定離婚事由)にあてはまる必要があります。夫婦の話し合いで離婚の折り合いがつかず、裁判などで争う場合、この法定離婚事由があり、かつ夫婦関係を続けるのが難しいと判断されないと、離婚は認められないので注意しましょう。
有責配偶者となるケース
有責配偶者とは、離婚の原因(法定離婚事由)を作った側だとご説明しました。では、離婚の原因とは具体的にどんなものでしょうか。以下をご覧ください。
- 浮気や不倫といった不貞行為
- 悪意の遺棄
- 3年以上の生死不明
- 回復の見込みがないほど重度な精神疾患
- その他婚姻を継続しがたい重大な事由
なお、悪意の遺棄とは、「夫婦の同居義務や協力義務を怠り、夫婦関係を意図的に破綻させること」です。例えば、正当な理由や相手の同意もなく別居すること・生活費を出さないこと・健康なのに働かないことなどです。また、その他婚姻を継続しがたい重大な事由とは、DV・過度な宗教活動・極度の浪費癖・犯罪行為などが挙げられます。
有責性を証明するための証拠
裁判などで離婚請求をする場合、相手の有責性を裏付ける証拠を揃えなければなりません。揃えるべき証拠は、相手が作った離婚の原因によって異なります。
例えば、浮気や不倫の場合、性行為中やラブホテルに出入りしている写真や動画・性行為があったとわかるメールのやりとりや領収書などです。DVの場合、傷跡の写真・医師の診断書・録音データなどが有効です。また、悪意の遺棄であれば、別居後の住民票・生活費が振り込まれなくなった通帳・浪費癖がわかる明細書などが良いでしょう。
ただし、証拠を集めるためとはいえ、相手の携帯のデータを勝手にのぞいたり、別居中の相手の家に不法侵入したりすると、違法性が問われて証拠として認められないおそれがあります。証拠集めでお困りの場合、弁護士などにご相談ください。
有責配偶者からの離婚請求は原則認められていない
有責配偶者からの離婚請求は、基本的に認められません。夫婦関係を破綻させたうえに、離婚まで一方的に求めるのは、身勝手で許されないと考えられるためです。
ただし、一定の条件を満たせば、例外的に、有責配偶者からの離婚請求が認められる場合があります。
有責配偶者からの離婚が認められるケース
以下の3点にあてはまる場合、離婚しても影響は少ないとして、有責配偶者からの離婚請求が認められることがあります。
- 別居期間が、年齢や同居期間を踏まえても相当長期にわたっていること(約10年別居が続いていると、長期と判断されやすくなります)
- 夫婦間に未成熟子(経済的に自立できていない子供、身体に障害がある子供など)がいないこと
- もう一方の配偶者が、離婚しても経済的・社会的・精神的に苦しまないこと
ただし、いずれも条件を満たす必要があるということではありません。最終的には、総合的に判断されることになります。
勝手な離婚を防ぐには、離婚届の不受理申出制度を利用する
協議離婚の場合、離婚について夫婦で合意してから、離婚届に記入・押印して市区町村役場に提出するのが原則です。しかし、市区町村役場では、離婚届の記入漏れの確認といった形式審査しかせず、筆跡や当事者の意思までは確認しません。そのため、まだ合意できていなくても、相手が勝手に離婚届を記入・提出すれば、受理されて離婚が成立してしまいます。
これを防ぐため、「離婚届不受理申出」という制度があります。離婚届不受理申出とは、申出人以外から離婚届が提出されても受理しないよう、あらかじめ役所に依頼できる制度です。この制度を利用すれば、ご自身が離婚届を提出しない限り離婚は成立しないため、相手の勝手な離婚を確実に防ぐことができます。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
有責性に時効はあるか
有責性自体に、時効はありません。そのため、相手の過去の浮気やDVなどを理由に、離婚請求することは可能です。ただし、実際の裁判などでは、相手の浮気やDVなどがあまりにも昔のことだったり、すでに夫婦関係が修復していたりすると、離婚請求が棄却される場合があります。なぜなら、有責性が生じた事由が過去のことであった場合、当該行為や事由について宥恕したものと認められる可能性があるからです。
一方、相手の不貞に対して「不貞慰謝料」を請求する際は、時効があるため注意が必要です。具体的には、「相手が不貞をした事実と、不貞相手(名前・住所など)を知った日から3年」または「相手が不貞をした日から20年」が経つと時効が成立し、それ以降は、慰謝料を請求しても認められないのが原則です。
どちらにも有責性がある場合の判断は?
夫婦どちらにも有責性がある場合、それぞれの有責性の大きさによって、離婚を認めるか判断します。有責性の大きさは、行為の程度・行為に及んだ順番・夫婦関係への影響などを考慮して判断します。
そして、有責性が大きい方を有責配偶者・小さい方を無責配偶者とみなすのが一般的です。有責性が同程度の場合、どちらも無責配偶者とみなします。したがって、ご自身に有責性があっても、相手の有責性がより大きいと証明できれば、離婚請求が認められる可能性があります。一方、ご自身の有責性が大きい場合、離婚請求しても基本的に認められませんが、「有責配偶者からの離婚請求が認められるケース」のに該当する場合、例外的に認められる場合があります。
別居中の婚姻費用について
夫婦は、基本的に、別居中でも、それぞれの収入に応じて生活費(婚姻費用)を分担しなければなりません。しかし、婚姻費用をもらう側(権利者)が、別居の主な原因を作った有責配偶者の場合、婚姻費用の支払いが減額・却下される傾向があります。自ら夫婦関係を悪化させておきながら、相手に婚姻費用を請求するのは都合が良すぎるためです。とはいえ、権利者が子供と暮らしている場合、子供は夫婦の有責性に関係なく保護される必要があるため、婚姻費用のうち、子供の生活費や学費といった養育費部分は全額請求できるのが一般的です。
有責配偶者に慰謝料請求する場合の相場は?
有責配偶者に慰謝料を請求する際は、相手の有責性を証明する証拠を揃える必要があります。裁判などでは、基本的に証拠がないと慰謝料の請求は認められないため、しっかり準備しましょう。
なお、慰謝料の相場は、浮気やDVといった事情により異なるものの、100~300万円となるのが一般的です。具体的な金額は、相手の有責行為の程度・期間・子供の有無・心身への影響などを総合的に考慮して、判断することになります。
有責配偶者との離婚は弁護士に依頼したほうがスムーズにすすみます。
有責配偶者との離婚では、相手が証拠を隠してしまったり、集めたものが証拠として不十分だったりと、さまざまな問題が起こり得ます。また、相場を大きく超えた慰謝料を請求すると、かえって不利な結果を招くおそれもあるため、注意が必要です。とはいえ、相手への怒りや悲しみを抱えながら、おひとりで冷静に対応するのは難しいでしょう。離婚問題に詳しい弁護士に依頼すれば、効果的な主張や立証をしてもらえたり、適切な金額で慰謝料を請求してくれたりと、スムーズかつ的確に交渉を進めることができます。有効な証拠を集めるためのアドバイスも受けられて、精神的にも楽になるでしょう。
有責配偶者との離婚をお考えの方は、損をしないためにも、ぜひ弁護士にご相談ください。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)