監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
長い結婚生活にピリオドを打ち、離婚する夫婦が増えています。このように、長年(約20年以上)連れ添った夫婦が離婚することを「熟年離婚」といいます。
近年の統計によると、離婚件数そのものが減っているなか、熟年離婚の件数が増えています。また、同居期間が長い夫婦ほど離婚しやすくなっていることが明らかになっています。
では、熟年離婚を決意するきっかけは何なのでしょうか。また、いざ熟年離婚するときは何に注意すべきでしょうか。本記事で詳しく解説していきます。
熟年離婚の原因
熟年離婚の主な原因として、「長年のストレス」といわれることがあります。また、高齢の夫婦であれば、生活環境が変わったタイミングで新たな問題が生まれ離婚するケースもあります。以下でいくつか具体例をみてみましょう。
相手の顔を見ることがストレス
長年の結婚生活でストレスが溜まると、相手の顔さえ見たくないと思うようになるでしょう。そんななか、定年退職等で一緒に過ごす時間が急に増え、ストレスに耐えきれなくなり熟年離婚したいと言われることがあります。生活習慣のズレや相手の気に入らない言動が新たに見つかり、熟年離婚のきっかけとなることもあるでしょう。また、1人の時間がなくなったことがストレスという方も少なくありません。
価値観の違い、性格の不一致
価値観の違いや性格の不一致は、常に離婚原因の上位となっています。夫婦といえど他人ですから、性格のズレがあるのは仕方ありません。
熟年離婚では、結婚当初から些細な出来事が積み重なったり、一緒にいる時間が増えたりして、性格のズレに耐えきれなくなったということもあります。
また、若い頃は周囲の視線・将来の不安から離婚を踏みとどまったものの、高齢になるにつれて抵抗が減り、熟年離婚する夫婦もいます。
夫婦の会話がない
婚姻期間の短い夫婦でもそうですが、関係性が悪くなっていると会話が少なくなっていきます。これは、熟年離婚でも同様であり、夫婦の会話が減っている場合、関係性が悪くなっている可能性があります。
かなり関係性が悪くなっていると、挨拶さえしないという熟年夫婦もいます。
また、日々のコミュニケーションが減って孤独感にさいなまれたり、「一緒にいても楽しくない」とネガティブな気持ちになったりすることが、熟年離婚のきっかけとなり得ます。
会話がなくなるから関係性が悪くなることも、関係性が悪いから会話がなくなることもあると思いますが、どちらにせよ夫婦の会話がない場合、関係性がかなり悪化しているかもしれません。
子供の自立
子供の自立も、熟年離婚のきっかけになります。むしろ「子供が自立したら離婚しよう」と早くから決意している夫婦もいるほどです。
このような夫婦は、離婚によって子供が受ける悪影響や親権で揉めるリスクから、子供が小さいうちは離婚を踏みとどまっていますが、子供が自立して気掛かりがなくなったことをきっかけに、離婚に踏み切るということがあります。
借金、浪費癖
熟年夫婦にとって借金や浪費癖は深刻な問題であり、離婚の大きなきっかけとなります。なぜなら、定年退職により安定した収入が得られなくなり、老後のお金を貯めておく必要があったりするためです。また、「金銭感覚のズレに長年うんざりしている」という感情もあるでしょう。
婚姻期間が短い離婚に関しても、借金、浪費等は離婚のきっかけとなりますが、熟年離婚においても、借金、浪費等は重要なきっかけとなります。
介護問題
熟年夫婦となると、親の介護問題が出ていることもあります。この介護問題が原因で、妻から離婚を切り出すケースもあります。介護問題で夫婦関係が悪くなるのか、それとも、夫婦関係が悪くなっているから介護問題が生じるのかは分かりませんが、義両親の介護を行うことが負担で「離婚して解放されたい」と言われることもあります。
熟年離婚に必要な準備
熟年離婚する前に、その後の生活に向け計画的な準備する必要があります。若い世代よりも仕事が見つけにくかったり、家計の収入が急に減ったりする可能性があるため、生活基盤を整えておくことが重要です。具体的にどんな準備が必要か、以下でみていきます。
就職活動を行う
離婚後に安定した生活を送るため、収入源の確保は最重要といえます。できるだけ離婚前に就職先を決めておくと安心です。とはいえ、専業主婦やパート勤務だった方は、十分な生活費が稼げるかご不安でしょう。
離婚したいと思ったら早めに就職サイトや情報誌を調べ、自身に合う仕事を探しておくことが重要です。また、資格やスキルを身に付けておいても有効でしょう。ただし、専門的な資格や国家資格は実務経験が問われるものもあるため、注意が必要です。
味方を作る
離婚前に、ご自身の味方となってくれる人を見つけておくことも重要です。子供・親戚・友人等と幅広く交流しておくと良いでしょう。
熟年離婚した後は、思わぬ孤独を抱えたり、不安になったりすることもあります。また、1人で生活していく方は、体調面で助けが必要なときもあるでしょう。そんな「もしも」のため、味方を作っておくと安心です。
また、離婚で相手と揉めて裁判に発展した場合、味方が証人になってくれる可能性もあります。
住居を確保する
離婚後の住居として、元々住んでいた家を出ていく場合、実家に帰ったり、賃貸住宅を借りたりすることになります。いずれにしても、費用(引っ越し代金、家賃等)・職場からの距離・周辺環境等を考慮し、最適なものを選びましょう。また、賃貸住宅の場合、公営住宅などで費用を抑えることも考えられます。
なお、財産分与によって夫婦で住んでいた家を譲り受け、住み続ける方もいます。この場合、ローンが残っていれば住宅ローンを誰が支払うのか、そのほか管理費や維持費はどれほどかかるのかについて、あらかじめ確認しておくことが重要です。
財産分与について調べる
財産分与は、夫婦が婚姻中に協力して築いた財産(共有財産)を、離婚時に1/2ずつ分け合うのが基本です。熟年離婚では、結婚生活が長いため共有財産が多いケースがよくあります。
適切な財産を受け取るには、まず共有財産を洗い出す必要があります。代表的なのは預貯金・不動産・車・保険等ですが、熟年離婚の場合、「退職金」も財産分与できる場合があります。
また、相手の隠し財産やへそくりも財産分与が可能です。ただ、相手の隠し口座を特定するのは難しいため、専門家である弁護士に相談されることをおすすめします。
専業主婦(専業主夫)の場合は年金分割制度について調べておく
熟年離婚される専業主婦(主夫)の方は、年金分割によって年金の受給額を増やせる可能性があります。年金分割とは、婚姻中に納めた厚生年金の記録を、多い側から少ない側に分け与えることです。専業主婦(主夫)であれば「3号分割」にあてはまり、相手の同意なく1/2まで年金分割することができます(ただし、婚姻の時期によっては、相手の同意を必要とします。)。
専業主婦(主夫)にとって、老後の収入である年金が増えるのは重要です。実際に年金分割した際にもらえる金額は年金事務所に確認できるため、離婚前に調べておくと良いでしょう。
退職金について把握しておく
退職金は、すでに支払われていたり、支払われるのがほぼ確実だったりすれば、財産分与できます。また、熟年離婚は定年退職の年齢に近いこともあり、財産分与できるケースが多いです。
高額な退職金を分け合うことができれば離婚後の貴重な資金となるため、支払われる金額や時期を調べておき、漏れなく対応することが重要です。
あなたの離婚のお悩みに弁護士が寄り添います
熟年離婚の手続き
熟年離婚の流れは、通常の離婚と同じです。
まずは夫婦の話し合いで解決する「協議離婚」を試みます。話し合いで揉めたり、一方が話し合いに応じなかったりする場合、家庭裁判所に「離婚調停」を申し立て、調停委員を挟んで話し合います。調停でも夫婦が合意できなければ「離婚裁判」を起こし、裁判所に、離婚の可否や離婚条件の判断を委ねることになります。
ただし、熟年離婚は財産分与が複雑だったり、取り決めた内容の書面化が重要だったりと注意点も多いため、早めに弁護士に相談されることをおすすめします。
熟年離婚で慰謝料はもらえるのか
離婚の原因が相手にある場合、慰謝料を請求することができます。例えば、相手が浮気・DVをした場合です。
なお、慰謝料の金額は相手の行為の程度や、その行為の期間などに応じて決まるため、熟年離婚では高額になることがあります。証拠を揃えたうえで相手の悪質さを主張できれば、高額な慰謝料が請求できるでしょう。
退職金は必ず財産分与できるわけではない
退職金は給与の一部のため、財産分与することができます。
ただし、全額ではなく「婚姻期間に相当する金額」のみが対象となるため注意が必要です。具体的な金額は、婚姻期間の長さと勤続年数などを踏まえて算出します。
また、退職金が既に支払われている場合・まだ支払われていない場合ではポイントが異なるため、以下でそれぞれご説明します。
退職金が既に支払われている場合
既に支払われた退職金は、財産分与の対象となります。退職金全額のうち「婚姻期間に相当する金額」を算出し、分け合うのが一般的です。
ただし、退職金をすべて使ってしまい手元に残っていない場合、分け合うものがないため、財産分与の対象外になることに注意が必要です。特に、退職金でローンを返済した方などは残金を確認しておきましょう。
とはいえ、相手の浪費のせいで退職金がなくなった場合、ほかの財産を分与する際に多めにもらえるといった考慮がなされることがあります。
退職金がまだ支払われていない場合
退職金がまだ支払われていない場合、「将来的な支給がほぼ確実」であれば、財産分与することができます。この「確実性」は、以下の要素を踏まえて判断します。
- 退職までの年数(一般的に10年以内かどうか)
- 勤続年数
- 就業規則の定め
- 支払いの実績
- 会社の経営状況
この場合、財産分与で受け取る金額は、別居時や離婚時を退職日とみなして計算したり、定年退職時に支払われる退職金を前倒しで分け合い、利息を控除して計算したりします。ただし、計算方法は複雑なため、弁護士などに相談するのが安心でしょう。
熟年離婚したいと思ったら弁護士にご相談ください
熟年離婚では、相手がなかなか離婚に応じてくれなかったり、財産分与で揉めたりして話し合いが難航することが多々あります。そこで、お早めに弁護士にご相談ください。弁護士は熟年離婚の注意点や相場について知識が豊富なため、スムーズに話し合いを進めることができます。また、調停や裁判に発展しても、証拠集めのアドバイスをしたり、ご依頼者様の代わりに有効な主張ができたりと多くのメリットがあります。
きちんと離婚を成立させて新たな一歩を踏み出すためにも、熟年離婚を決意されたら、ぜひ弁護士法人ALG&Associatesへご相談ください。
-
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)