監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭った場合、加害者に対し、その事故によって被った損害の賠償を請求することができます。
しかし、交通事故の示談交渉が長引いたときなど、時効期間が経過してしまうと、損害賠償請求権を行使できなくなることがあります。
そのため、時効がいつ完成してしまうのかという点を意識しながら、交渉を進めていくことが重要です。
本ページでは、交通事故の損害賠償請求の時効について、詳しく解説していきます。
目次
交通事故の損害賠償請求は3年または5年で時効となる
交通事故による損害賠償請求権は、損害の内容ごとに時効で消滅する期間が異なります。
車や携行品などの損害(物損)については3年間、治療費や休業損害といった身体に関する損害(人損)については5年間となります。
そのため、各期間が過ぎると、それぞれの損害賠償請求権は時効により消滅してしまいます。
また、ひき逃げ等で加害者が分からず、損害賠償請求をする相手が判明していない場合であっても、交通事故が起きたときから20年間を経過したときに消滅時効が成立します。
時効のスタートはいつから?
交通事故の時効の開始時期は、被害者が、損害及び加害者を知った時から開始するとされています(民法724条)。
なお、民法では、期間の起算にあたっては、初日を算入しないので、事故発生日の翌日が1日目となります(民法139条)。
基本的には、事故が発生した時点で、被害者と損害が明らかになります。
そのため、「損害及び加害者を知った時」事故が発生した日の翌日を起算点としています。
事故の種類 | 時効 |
---|---|
物損事故 | 事故が発生した日の翌日から3年 |
人身事故 | 事故が発生した日の翌日から5年 |
死亡事故 | 死亡した日の翌日から5年 |
当て逃げ・ひき逃げ | 事故が発生した日の翌日から20年 |
交通事故示談で時効が近い場合の注意点
請求権の時効が迫ってくると、交渉が長引いたときにその請求が認められなくなってしまうという焦りが生じ、大きく妥協した内容であっても示談をしてしまうことがあります。
しかし、一度示談をしてしまうと、特殊な事情がない限り、その示談内容を覆すことは出来ません。
したがって、時効が成立する時期が近付いてきたときには、まずは時効期間を延長する等の手段を検討すべきといえます。
交通事故の時効を延長する方法は?
被害者が時効を延長する手段として、民法上、時効の完成猶予と時効の更新という制度があります。
時効の完成猶予とは、時効の完成を一時的に先延ばしにする制度です。
具体的には、催告や訴訟の提起等があります。
時効の更新とは、時効期間をリセットして、カウントを新たに始めるという制度です。
具体的には、加害者側が債務を承認することや勝訴判決を得ること等があります。
この時効の完成猶予と時効の更新について、詳しく説明していきます(なお、以下の説明において、全ての完成猶予と時効の更新をとりあげているわけではありません。)
請求書を送付する(催告による時効の完成猶予)
事故を起こした加害者に対して、損害賠償の支払いを履行するよう求めることを「催告」といいます。
通常は、催告をした事実を後から証明することができるように、内容証明郵便等を利用して損害賠償請求書を送付します。
このように被害者から加害者に対し催告を行った場合、請求をした日から6か月間は、時効が成立しません(民法150条)。
すなわち、請求した日から6ヶ月内に本来の時効成立日が経過するという場合であっても、請求した日から6ヶ月間が経過した日が時効成立日になります。
なお、催告による時効の完成猶予は1度しか行うことができません。
そのため、6か月の猶予期間中での解決が難しい場合には、訴訟等の別の手段を準備する必要があります。
加害者に債務を認めてもらう(債務の承認による時効の更新)
加害者が損害賠償金の支払義務があることを認めた場合(これを、債務の承認といいます)には、時効期間がリセットされ、債務の承認をしたときから、新たにカウントがスタートします(民法152条1項)。
加害者から、損害賠償金の支払義務を認める旨の署名・押印等をもらうというのが確実ではありますが、加害者が自らに不利なことに応じてくるとは限らないため、現実には難しいでしょう。
もっとも、加害者が損害賠償金の支払義務があることを前提とした行動をとった場合には、それをもって債務の承認をおこなったものと評価しうる場合があります。
具体的には、加害者が、治療費や休業損害等、損害の一部でも支払いをおこなった場合には、それらを受けた日から時効期間がリセットされます。
裁判を起こす(訴訟提起による時効の完成猶予又は判決取得による時効の更新)
交通事故による損害賠償請求について訴訟提起をした場合、その訴訟が終了するまでの間は時効が完成しません(民法147条)。
そして、その訴訟の判決等で損害賠償請求権の存在を認めるような判決が出た場合には、物損か人身であるかに関わらず、判決が確定したときから新しく10年間の時効期間がスタートします(民法147条2項、同169条)。
もし、訴訟が取り下げられたような場合には、時効の更新の効力は生じないものの、その手続きが終了したときから6ヶ月を経過するまでの間は、時効は完成しません。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
示談が進まない場合の対処法
交通事故の示談交渉においては、事故態様や過失割合、賠償額といった争点になりうるポイントが多くあります。
それぞれの争点で当事者双方の主張が食い違った場合、なかなか示談交渉が進まないといったケースも往々にしてあります。
このような場合、弁護士を代理人として、法的根拠に基づいた主張や弁護士基準を用いた主張による交渉を進めていくため、加害者側から大きな譲歩を引き出すことが出来る可能性も高まります。
交通事故で時効が気になる場合は弁護士にご相談ください
時効が間近に迫った状況になると、どうしても焦りが生まれやすくなります。
そうすると、交渉が思うように進んでいなかったとしても、急いで示談をしてしまうという方もいます。
また、何もしないまま時効期間を経過してしまって、請求自体が認められなくなってしまうこともあります。
このような事態を避けるためには、消滅時効が成立する時期を正確に把握し、適切な対応を選択していくことが必要となってきます。
弁護士にご相談いただいた場合、ご相談者様の状況に応じた法的なアドバイスを受けることができるので、時効によって権利が消滅してしまうといった事態を回避しやすくなります。
時効について少しでも不安を感じている場合には 、一度、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)