監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
交通事故に遭ってしまったとき、弁護士に加害者との交渉を依頼すれば、最終的な示談金の増額が期待できる反面、相談料や着手金といった弁護士費用が掛かってきます。
このようなときに、【弁護士費用特約】のオプションのついた保険に加入しているのであれば、その特約を活用することで、弁護士費用を保険会社に補償してもらうことができます。
その一方で、弁護士費用特約に加入していない方の場合、弁護士費用がどれだけかかるか分からないといった不安や費用倒れのリスクがあることから、弁護士への相談・依頼をためらってしまう方も多いのではないかと思います。
この記事では、弁護士費用特約がないときに検討いただくべき点や特約なしで相談・依頼をする場合における費用といった点について解説していきます。
目次
自身の自動車保険に弁護士費用特約がない場合の対処法
ご自身の加入する自動車保険に弁護士費用特約がついてなかったとしても、自動車保険以外の保険でも似たような特約が付いていれば活用できることがあります。また、特約によっては、契約者本人だけでなく、本人の関係者も適用対象となる場合があります。
自動車保険以外の保険を確認する
弁護士費用特約は、自動車保険に附帯していることが多い特約ではあるものの、自動車保険以外にもバイク保険、自転車保険、個人賠償責任保険、火災保険、生命保険、医療保険など様々な保険についている可能性があります。
そのため、自動車保険に弁護士費用特約が付いていない場合、他の保険に使えそうな特約がないか、ぜひ確認してみてください。
家族や同乗者の保険を確認する
弁護士費用特約は、契約者本人だけではなく一定の範囲内の関係者も、適用対象として利用できる場合があります。この一定の範囲については、保険会社によって変わることがあります。
一般的には、配偶者、同居している親族、別居中の未婚の子、保険契約車両の搭乗者や所有者などが対象となっていることが多いです。
そのため、自分の加入している保険に弁護士費用特約がないときでも、自分の家族が加入している保険に特約がついている場合には、実際に利用できるか否かについて、一度、その契約がある保険会社に連絡してみることをお勧めします。
特約がない場合、弁護士費用はどれくらいかかる?
弁護士費用については、事務所ごとに異なる料金体系を設定しています。そのため、以下で説明する内容は、あくまで一例です。
相談料
弁護士に法律相談をするときに発生する費用です。30分5000円くらいで設定している事務所も多いですが、初回相談の場合は一定時間分を無料としている事務所もあります。
特に、被害者側の事故については、無料相談で案内してくれる事務所も多いため、まずは気になる法律事務所に問い合わせしてみることをお勧めします。
着手金
着手金とは、弁護士に事件を依頼するときに、弁護士が弁護活動(相手方との交渉、書類の作成など)に着手することへの対価として払われるものです。
この着手金の金額は、事件の難易度によって変動することが多いです。交通事故の場合は、事故の規模が大きいほど最終的な示談金の額が大きくなることが見込まれるため、経済的利益の見込み額が高いほど高額な着手金となる傾向にあります。
実費
交通事故事件では、病院のカルテやレントゲン写真といった資料を取り寄せたり、自らの主張の根拠としていくための調査として鑑定などを行うべき場合もあります。そのような実費については、弁護士へ支払う対価である着手金・成功報酬金とは、別途支払いが必要となってきます。
また、交渉で解決が難しい場合には、裁判などの手続きによる解決を図ることになります。このときにも、裁判所に納める手数料や郵券が必要となります。
成功報酬
成功報酬とは、弁護士に事件を依頼した結果として、成果が得られたことに対する報酬のことです。多くの場合は、獲得した金額の〇%と定められていることから、得られた金額に応じて変動します。また、この割合は得られた金額によって段階を付けていることもあります。
交通事故事件において、この成功報酬が発生しているときは、報酬以上の成果が得られているため、比較的負担感が少ないかと思います。
まずは交通事故チームのスタッフが丁寧に分かりやすくご対応いたします
弁護士費用特約がなくても弁護士に依頼すべき?
弁護士費用特約がない場合でも、弁護士に依頼した方が良い結果に繋がりやすいと考えられるケースもいくつか考えられます。以下の項目では、事故の種類に応じて解説していきます。
物損の場合
物損事故は、弁護士が入ったとしても、そこまで大きく賠償額が変わらないケースも多く、比較的費用倒れが発生しやすい類型と言えます。
他方で、過失割合について、当事者双方が自分を加害者と主張しているようなケースでは、この過失割合の帰結によって、賠償額が大きく変動します。また、過失割合が争いになってる場合は、法律上の主張や綿密な立証が必要となることもあり、専門家である弁護士に依頼した方が良い結果に繋がりやすいと言えます。
上記のとおり、過失割合のような、賠償額に大きくかかわるようなポイントに争いがあるときには、ある程度のコストをかかったとしても、弁護士へ依頼した方が、ご自身の求める解決に近づけることがあります。
人身事故の場合
慰謝料といった賠償額の計算にあたっては、「自賠責基準」、「任意保険基準」、「弁護士基準」と呼ばれる基準があり、どの基準を用いるかによって金額も大きく変わることがあります。
弁護士が介入していない事案では、保険会社から提示される金額は、基本的に「自賠責基準」、「任意保険基準」のどちらかです。「自賠責基準」は、自賠責保険における最低限の補償額を定めたものであり、「任意保険基準」も自賠責基準を少し高額にしたくらいの基準のことが多いです。
一方で、弁護士は、「弁護士基準」を用いて相手方と交渉をしますので、結果として示談金が大幅に増額できることがあります。特に、後遺障害等級が認定されたような事案では、傷害部分への慰謝料だけではなく、後遺障害に対する慰謝料にも増額の余地があるため、弁護士が入った方が、かかった費用を踏まえても最終的な経済的利益が高くなることが多いです。
費用倒れのリスクがないかは確認してもらえる
交通事故事件では、弁護士が入る前であっても、相手方から賠償額の提示がされることがあります。このときも、弁護士が介入することで、慰謝料額などの増額が見込めることがあります。しかしながら、事案によっては、増額できる額よりも弁護士費用として掛かる額の方が高いこともあります。
このようなときには、費用倒れが発生しやすいため、弁護士に依頼した場合に、費用倒れのリスクがないかどうかについて、法律相談において確認するとよいでしょう。
特約なしの交通事故の解決事例
右折待ちのために停車したいたところ、後ろから追突されたという交通事故の事案で、法律相談の時点で、すでに事故で負ったケガに関する治療を終えており、残存した症状について、14級9号の後遺障害等級認定を受けている状態でした。
相談者には、相手方保険から示談金として約110万円を支払う旨の提示がされていましたが、これは「自賠責基準」で計算された慰謝料額や逸失利益額を前提としていました。しかしながら、相談者は弁護士費用特約に入っていなかったため、弁護士への依頼を悩んでいるとのことでした。
法律相談時に聴取した事実をもとに、費用倒れのリスクを検討させていただいたところ、弁護士基準で交渉を行えば、慰謝料と逸失利益に大きな増額が見込める事案でした。相談者の方には、費用倒れのリスクが少ないことを説明して、事件の依頼を受けました。
事件の依頼後、弁護士基準で相手方保険に賠償額を提示し、逸失利益の期間などを交渉したところ、最終的な示談金としては約300万円の支払いとなりました。このとき、弁護士費用を差し引いても、およそ150万円の増額ができました。
弁護士費用特約に加入していなくても、まずはご相談ください
弁護士費用特約が使えないことから、弁護士に相談すること自体も諦めるしかないと考えてしまう方もいますが、弁護士費用をかけても、それ以上のリターンが得られる見込みがある場合もあります。
そのため、特約がなかったとしても、まずは一度弁護士に相談してみることをお勧めします。事案によっては、弁護士費用を上回る示談金を得ることができることもあります。
また、弁護士に依頼することは、自分自身で相手方と対応しなくても良くなることで負担を減ずることが出来たり、スムーズに交渉を進めることが出来たりといったメリットもあります。
費用倒れのリスクについても、弁護士に相談いただく中で、費用倒れのリスクがある事案であるか否か自体を検討してもらうこともできるため、専門家の意見を踏まえた判断をすることが出来ます。
費用をかけて弁護士に依頼するか否かを迷ったときには、是非一度、弁護士にご相談いただければと思います。
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保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)