特別受益とは?|時効などの基礎知識についてわかりやすく解説

相続問題

特別受益とは?|時効などの基礎知識についてわかりやすく解説

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

相続人の中に被相続人から生前に多額の贈与を受けていた者がいる場合、このような相続人についても法定相続分に応じて被相続人の財産を承継するとすれば、贈与を受けていた相続人とそうでない相続人のとの間で不公平が生じます。

そのため、このような贈与については、「特別受益」として相続財産に加算したうえで、具体的な相続分を算定することとされています。以下では、この「特別受益」について、わかりやすく解説していきます。

特別受益とは

「特別受益」とは、相続人の中に、被相続人から遺贈や贈与によって特別の利益を受けた者がいる場合に、その相続人の受けた贈与等の利益のことをいいます。

このような贈与については、相続財産に加算したうえで、各相続人の相続分を算定しなければならないとされており、これを「特別受益の持戻し」といいます。

対象者

特別受益として持戻しの対象になるのは、相続人に対する遺贈や贈与に限られています。すなわち、相続人の配偶者や相続人の子らに対してされた遺贈や贈与については、特別受益として持戻しの対象になるものではありません。

特別受益と遺留分の違い

特別受益 相続人に対する遺贈や贈与のみが対象になる
遺留分 相続以外の第三者に対する遺贈や贈与もその対象になる

遺留分とは、一定範囲の相続人に保障された最低限度の相続財産について、確保することのできる権利をいいます。

特別受益としての持戻しについては、被相続人から相続人への遺贈や贈与に限られています。一方、遺留分については、相続人以外の第三者への遺贈や贈与であっても遺留分侵害額請求の対象となります。

特別受益の時効

特別受益の対象になる被相続人からの遺贈や贈与について、期間制限はありません。すなわち、遺産分割の前であれば、特別受益として持戻しの対象になり、具体的な相続分を計算することになります。

ただし、令和5年4月1日以降に遺産分割協議を行う場合、被相続人が亡くなってから10年が経過していると相続人への遺贈や贈与について、特別利益であるとの主張をすることはできません(民法904条の3)。

特別受益の範囲(対象となる贈与)

特別受益として持戻しの対象となるのは、被相続人からの①遺贈、②婚姻のための贈与、③養子縁組のための贈与、④生計の資本としての贈与です(民法903条1項)。

遺贈

遺贈とは、遺言によって遺言者の財産を無償で相続人等に譲渡することをいいます。①遺贈は、その目的にかかわりなく、特別受益に該当し、持戻しの対象になります。

生活費の援助

相続人が被相続人から生活費の援助を受けていた場合、④生計の資本としての贈与として、特別受益に該当する可能性があります。生計の資本としての贈与であるかは、贈与金額、贈与の趣旨などから判断されますが、相続分の前渡しと認められる程度に高額な金員の贈与は、特別受益に該当する可能性が高いです。

不動産の贈与

居住用の不動産が相続人に贈与された場合、④生計の資本としての贈与として、特別受益に該当します。しかし、令和2年7月1日以降に被相続人が亡くなった場合、婚姻期間が20年以上の夫婦間で居住用不動産の遺贈または贈与がされたときには、特別受益として持戻し免除の意思表示があったものと推定されることになりました(民法903条4項)。

結婚に関する贈与

相続人が被相続人から持参金や支度金を受け取っていた場合には②婚姻のための贈与として、一般的には特別受益に該当します。ただし、その金額が少額で、被相続人の資産及び生活状況に照らして扶養の一部と認められる場合には、特別受益には該当しないと考えられています。

養子縁組のための費用

養子縁組のための費用についても、上記結婚に関する贈与と同様に持参金や支度金は、②婚姻のための贈与として、一般的には特別受益に該当します。

学費

被相続人が扶養義務者である場合、義務教育に関する費用や高等学校の学費については、扶養義務の履行に基づく支出として特別受益には該当しないと思われます。ただし、被相続人の資力や社会的地位に照らして扶養義務の範囲を超えると認められる場合には、特別受益に該当します。

特別受益の計算方法

特別受益がある場合の具体的な相続分の算定方法は以下のとおりです。

  1. みなし相続財産

    相続開始時に被相続人が有していた相続財産の額に、相続人が受けた贈与の額を加算し、「みなし相続財産」を算出します。

  2. 各相続人の相続分を乗じた額(一応の相続分)

    ①で算出された「みなし相続財産」に各相続人の相続分を乗じて、「一応の相続分」を算出します。

  3. 具体的相続分

    ②で算出された一応の相続分から相続人が受けた遺贈・贈与の額を控除し、「具体的相続分」を確定します。

特別受益の計算例

相続人 特別受益を考慮しない場合の相続分 特別受益を考慮する場合の相続分
1000万円(=2000万円×1/2) 1200万円
長男 500万円(=2000万円×1/4) 200万円
長女 500万円(=2000万円×1/4) 600万円

被相続人である夫が2000万円の財産を残して亡くなり、相続人が妻、長男、長女のみで、夫が生前、長男に対し土地(400万円)を贈与していた場合を考えてみましょう。

  1. みなし相続財産

    みなし相続財産は、相続財産2000万円に土地の価額400万円を加算した2400万円になります。

  2. 各相続人の相続分を乗じた額(一応の相続分)

    法定相続分は、妻が1/2、長男と長女がそれぞれ1/4ずつになります(民法900条1号、同4号)。

    そのため、一応の相続分は、妻が1200万円(=2400万円×1/2)、長男と長女がそれぞれ600万円(=2400万円×1/4)になります。

  3. 具体的相続分

    具体的相続分については、妻が1200万円長男が200万円(長男の一応の相続分600万円から土地の価額400万円を控除した額)、長女が600万円になります。

特別受益の相続税の計算方法

特別受益については、相続税の課税対象にはなりません。贈与がなされた時点で贈与税の課税対象とされており、相続税の課税対象とした場合には二重課税になってしまうからです。

なお、相続開始前3年以内に受けた贈与については、相続と同様に扱われるため、支払い済の贈与税は、支払わなければならない相続税から控除されることに注意が必要です。

特別受益についてわからないことがあれば弁護士にご相談ください

相続人への遺贈や贈与があった場合にそれが特別受益に該当するのか、また、特別受益に該当する場合の具体的な相続分の計算は複雑であり、相続人の具体的な相続分を的確に把握するためには専門的な知識や経験が求められます。

また、弁護士にご依頼いただくことで、身近な方が亡くなっている中で、相続に関するご依頼者の方の負担を減らすことが可能です。

そのため、特別受益に関してわからないことがある場合には、まずは是非一度、弁護士法人ALG&Associatesにご相談ください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。