単純承認とは|借金相続のリスクについて

相続問題

単純承認とは|借金相続のリスクについて

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

相続の方法には、3つの方法があります。具体的には、単純承認、限定承認、相続放棄の3つです。簡単に説明すると、単純承認は何ら留保を付けずに相続をすることであり、相続放棄は相続をしないというものです。また、限定承認は、プラスの相続財産を限度として、マイナスの相続財産(借金など)について責任を負うというものです。
単純承認は、何も留保を付けずに相続するというものであり、皆さんが遺産相続と聞いた際に一番イメージする相続の方法だと思います。このページでは、単純承認について、ご説明しています。

単純承認とは

単純承認とは、「無限に被相続人の権利義務を承継する」(民法920)ということです。「無限に」と言われてもピンとこないと思いますが、例えば、被相続人の遺産に300万円の預金(プラスの相続財産)と、500万円の借金(マイナスの相続財産)があり、相続人が一人しかいないとします。この場合において、相続人が単純承認をすると、その相続人は、300万円の預金と500万円の借金のすべてを相続することになります。つまり、単純承認をした相続人は、マイナスの相続財産がプラスの相続財産の額を超えたとしても、そのすべてについて責任を負うことになります。
このように単純承認をすると、相続人は、相続財産のすべてについて相続します(ただし、相続人が複数の場合には、その相続分に応じて相続をすることになります。)。

単純承認のメリット

プラスの相続財産しかない場合や、プラスの相続財産がマイナスの相続財産を上回る場合、単純承認によって、相続によって、自己の財産を増やすことができます。これが単純承認のメリットです。
このメリットは、限定承認の場合でも同じです。なぜならば、限定承認というのは、遺産がトータルでプラスの場合は、そのプラスを相続する一方、トータルでマイナスの場合は、プラスの相続財産からマイナスの相続財産を返済すればそれ以上マイナスの相続財産について責任を負わないという相続の方法だからです。
もっとも、限定承認は、相続財産の目録を作成した上で裁判所への申述が必要など一定の手続きを必要とします。そのため、単純承認は、限定承認と比較して、簡易な方法でプラスの資産を得ることができるという点にメリットがあります。

単純承認のデメリット

マイナスの相続財産しかない場合、または、マイナスの相続財産がプラスの相続財産を上回る場合、単純承認をすると、その相続人は、プラスの相続財産の額にかかわらず、マイナスの相続財産すべてについて責任を負うことになります。その結果、相続人は、相続によって自己の資産が減らしてしまうことになります。
一方、相続放棄をすれば、プラスの相続財産も相続できない代わりに、マイナスの相続財産も相続することはありません。また、限定承認の場合においても、プラスの相続財産を超えてマイナスの相続財産を相続することはありませんので、相続をして自己の資産を減らすことにはなりません。
上記のとおり、単純承認のデメリットとしては、相続の結果、自己の資産が減ることがあることです。

単純承認と見なされるケース(法定単純承認)

単純承認をしていない場合でも、一定の行動をした、または行動をしない場合、単純承認をしたとみなされることがあります。これを法定単純承認と言います。法律上、3つの場合に単純承認したとみなされています。以下において、具体歴を用いて、法定単純承認に当たる場合をご説明します。

相続財産の全部または一部を処分した場合

法定単純承認の一つ目は、相続財産の全部または一部を処分した場合です。例えば、被相続人名義の預金を勝手に引き出して、使ってしまった場合や、被相続人名義の不動産を売ってしまった場合などがこれに当たります。
相続財産の全部または一部を処分するというのは、本来、単純承認をした相続人でなければ行うことができません。そのため、相続人が相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認をしたものとみなされています。

不動産の名義変更を行った場合

不動産の名義変更を行った場合も、相続財産の一部を処分した場合に当たるため、単純承認をしたとみなされることになります。つまり、この場合における「処分」とは、本来、単純承認をした相続人でなければできない行為を意味しており、具体的には、相続財産を捨てること、相続財産を使うこと、相続財産を貸すなどして収益を上げることなどが「処分」に当たります。
不動産の名義変更というのは、自身が所有者であるということを示すものであり、本来、単純承認をした相続人でなければ行うことができない行為に当たります。したがって、不動産の名義変更は、相続財産の一部の処分に当たり、単純承認をしたものとみなされます。

熟慮期間内に何も行わなかった場合

法定単純承認の2つ目は、熟慮期間中に相続放棄及び限定承認のいずれも行わなかったことです。
では、いつから、どの期間、相続放棄及び限定承認をしないと単純承認をしたとみなされるのでしょうか。つまり、「熟慮期間中」とはどういう意味なのでしょうか。
これについては、多くの場合、相続人が被相続人が亡くなったことを知った時点から3か月間が熟慮期間であり、この期間に相続放棄も限定承認も行わないと単純承認をしたものとみなされます。
以上のとおり、一定期間、相続放棄や限定承認をしない場合には、単純承認をしたものとみなされますので、相続放棄や限定承認をしたい場合には注意が必要です。

相続放棄や限定承認後に財産の隠匿・消費などがあった場合

単純承認とみなされる3つ目は、限定承認や相続放棄をした後に、相続財産の全部もしくは一部を隠匿したり、ひそかに消費、悪意で相続財産の目録中に相続財産を記載しなかったりすることです。つまり、仮に限定承承認や相続放棄をした後であったとしても、相続財産を隠匿するなど、単純承認した相続人でなければできない行為をした場合(隠匿、消費)などにおいては、単純承認をしたものとみなされています。
そのため、限定承認や相続放棄をした後においても、相続財産の取り扱いには注意が必要となります。

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単純承認にならないケース

上記において、法定単純承認について、ご説明いたしました。もっとも、相続財産を使用したような場合であってもt、一定の場合には、法定単純承認には当たらない場合があります。以下においては、法定単純承認に当たらない場合のご説明をいたします。

葬儀費用を相続財産から出した場合

被相続人が亡くなった場合、一般的には、葬儀が行われることとなります。この葬儀費用を遺産から支払った場合、相続財産の一部の処分に当たるのでしょうか。
これについては、葬儀費用の支出については、社会的見地から不当なものではなく、相続財産の処分に当たらないと判断した裁判例(大阪高決平成14年7月3日(平成14年(ラ)第408号))があります。そのため、高額な葬儀費用の支出などでなければ、単純承認をしたものとはみなされないと考えられています。

生前の入院費を相続財産から支払った場合

生前の入院費を相続財産から支払った場合について、過去の裁判例(大阪高決昭和54年3月22日(昭和53年(ラ)第447号))において、火葬費用並びに治療費残額の支払いに充てたのは、「人倫と道義上必然の行為であり、公平ないし信義則上やむを得ない事情に由来するものであつて、これをもつて、…債務承継の意思を明確に表明したものとはいえない」として、相続財産の一部を処分したとはいえないと判断したものがあります。
ただし、この裁判例は、被相続人と音信不通であったところ、警察からの連絡で被相続人の死亡を知らされて火葬場に行った際に治療費と火葬費用を請求されたため、相続人が治療費(1万2000円)と火葬費用(3万5000円)をその場で支払ったという特殊な事情があります。
そもそも、治療費を相続財産から支払うことについては、相続財産の一部を使用するものであり、単純承認をした相続人でなければ行えない行為と考えられます。また、相続人と被相続人との関係性や、治療費の額も様々であり治療費の支払いが、必ずしも「人道や道義上必然の行為」とまではいえないでしょう。
したがって、生前の入院費を相続財産から支払うことは、場合によっては単純承認したとはみなされないことがあると考えられますが、相続財産の一部を使用するものであり、単純承認したとみなされる可能性も十分にあります。そのため、相続放棄等を考える場合は、生前の治療費を相続財産から支払わない方がよいと思われます。

形見分けを受けた場合

形見分けに関して、単純承認とみなされる場合と単純承認にはみなされない場合の両方が考えられます。
そもそも形見分けは、被相続人が大切にした物を分けることですが、「被相続人が大切にしていた物」も遺産であるため、形式的には相続財産の一部を処分したといえそうです。もっとも、例えば、被相続人が長年愛用していた衣類など、経済的な価値がない物を形見分けしても、相続財産の価値を減らしたとはいえません。そのような形見分けを、単純承認をした相続人しか行えないような処分と考えることはできないため、、単純承認とはみなされないと考えられます。
一方で、形見分けといっても、高級腕時計など、経済的価値がある物を形見分けした場合においては、相続財産を減少させており、単純承認をした相続人しか行い得ないような行為に当たると考えられます。
したがって、形見分けで経済的価値が高い物をもらい受ける場合は、単純承認とはみなされる一方、経済的価値の低い物をもらい受ける場合は、単純承認とはみなされない可能性が高いといえます。

単純承認するかどうかはどうやって決める?

単純承認は、プラスの相続財産もマイナスの相続財産も無限定に相続します。そのため、マイナスの財産の方が大きい場合は、単純承認をすべきではなく、相続放棄又は限定承認を考えるべきです。
そのため、基本的には、単純承認するか否かは、相続財産がトータルで見てプラスになっているのか、マイナスになっているかで判断すべきといえます。
もっとも、相続放棄をすると、例えば、被相続人の自宅不動産(相続人にとっての実家)を相続できなくなります。このような場合は、金銭的な問題だけではなく、思い出や思い入れなど、心情的な問題も伴います。そのため、基本的には、相続財産がトータルでプラスなのか、マイナスなのかで単純承認をするかを決めることになりますが、それ以外にも、一定の財産を引き継ぎたいという希望があるのかなども考慮して決めることになります。

単純承認したくない場合

単純承認をしたくない場合は、熟慮期間中に相続放棄又は限定承認をする必要があります。相続放棄又は限定承認をした場合は、単純承認をしたことにはなりませんので、単純承認をすることを回避することができます。なお、上記のとおり、相続放棄や限定承認をした場合でも、後に財産の隠匿等を行うと、単純承認したとみなされることがありますので、注意が必要です。

単純承認についてお悩みの方は弁護士へご相談下さい

このページでは、単純承認について、ご説明させていただきました。単純承認すべきか否かが判断できない、そもそも相続財産が分からない、単純承認をしたいが、他の相続人と揉めている、単純承認後どうしたらいいのか分からないなど、相続に関して、お悩みの方は、専門家である弁護士に、一度ご相談いただければと思います。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。