
監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士
相続をきっかけに、故人に借金があることや故人が借金の連帯保証人になっていたことが判明することは、少なくありません。
以下では、「亡くなった人が連帯保証人になっていた場合の相続」について、複雑になりがちな法律関係を整理するとともに、具体的な事例とともに説明していきたいと思います。
亡くなった人が連帯保証人だった場合の相続はどうなる?
被相続人の死亡により、被相続人に属していた一切の権利義務は相続人に引き継がれます(民法896条)。
この一切の権利義務には、預貯金や不動産などの積極財産だけでなく、借金などの消極財産も含まれます。
そのため、亡くなった人が連帯保証人になっていた場合、被相続人の連帯保証人としての地位についても相続人に引き継がれます。
連帯保証人の債務負担の相続割合は?
連帯保証人になっていた被相続人を相続により引き継いだ相続人は、相続人それぞれの法定相続分の割合に応じて、連帯保証人としての地位に基づく債務についても引き継ぐことになります。
連帯保証人になっていた夫Aが亡くなり、相続人として妻Bと2人の子CとDが相続人であるような場合を考えてみましょう。この場合、法定相続分は、Bが2分の1、CとDがそれぞれ4分の1ずつになります(民法899条、900条)。
そのため、被相続人の連帯保証人としての地位に基づく債務についても、Bが2分の1、CとDがそれぞれ4分の1ずつの割合で負担することになります。
相続人の中に債務者がいる場合
相続人の中に連帯保証をしている債務の債務者がいる場合、相続人は相続開始以前からの債務者としての地位と相続により引き継いだ連帯保証人としての地位の両方を有していると考えられます。
仮にそのような相続人が相続放棄をした場合、連帯保証人としての地位を相続することはなくなりますが、相続開始以前からの債務者としての地位についてまで失われるものではありません。
子の借金の連帯保証人になっていた父親Aが亡くなり、相続人は子Bのみである場合を考えてみましょう。
Bは、相続放棄をすることによって連帯保証人としての地位を相続することはなくなりますが、B自身の借金についてまで責任を負わなくなるものではありません。
相続開始後に発生した債務は?
連帯保証は、主たる債務について保証するものです。そのため、連帯保証人が亡くなり、相続開始後に発生した債務であっても、相続人が法定相続分に応じた債務について責任を負う場合があります。
しかし、被相続人の連帯保証契約が、個人根保証契約(民法465条の2以下)である場合には、相続人は相続開始後に発生した債務について責任を負うものではありません。
個人根保証契約においては、主たる債務者または保証人が亡くなることが、主たる債務の元本の確定事由になっているからです(民法465条の4第1項第3号)。
そのため、連帯保証契約が個人根保証契約である場合、相続人は、連帯保証人である被相続人が亡くなった時点で生じていた債務に限り、責任を負うことになります。
連帯保証の時効について
連帯保証債務について、消滅時効が完成している場合には消滅時効を援用することによって、債務を免れることができます。
消滅時効が完成するまでの期間は、連帯保証契約が成立した日が令和2年4月1月以降であれば、債権者が権利を行使できることを知ったときから5年、または、権利を行使することができるときから10年です。
また、連帯保証契約が成立した日が令和2年3月31日以前であれば、権利を行使することができるときから10年になります。
相続放棄をすれば連帯保証人にならずに済む
相続放棄をした者は、その相続に関してはじめから相続人ではなかったものとみなされます(939条)。
連帯保証人である被相続人の相続人が相続放棄をした場合、相続人は被相続人の権利義務を引き継ぐことはなくなり、連帯保証人として地位や責任を負うことはなくなります。
相続放棄については、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、相続放棄をする旨を家庭裁判所に申述することによって行います(民法915条1項、938条)。
連帯保証人の地位は他の相続人に引き継がれる?
連帯保証人の相続人が相続放棄をした場合には、連帯保証人としての地位や責任を負うことがなくなるのは上記のとおりです。
では、連帯保証人の相続人が複数いる場合に一部の相続人のみが相続放棄をした場合はどうなるのでしょうか。
連帯保証人になっていた父親が亡くなり、相続人は子A・Bの2人のみである場合を考えてみましょう。
このような場合にAが相続放棄をするとBのみが相続人となるため、連帯保証人としての地位や責任についてもBのみが負うことになります。
連帯保証人であることを知らなかった場合の対処法
相続放棄については、相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に、相続放棄をする旨を家庭裁判所に申述することによって行わなければなりません。
それでは、被相続人が連帯保証人であることについて知らないまま、被相続人が亡くなってから3か月が経過してしまった場合、どのように対処すれば良いのでしょうか。
このような場合については、速やかに一度弁護士までご相談ください。被相続人が亡くなってから3か月が経過していても例外的に相続放棄をできる場合があります。
相続人が亡くなった人の連帯保証人だった場合
相続人が被相続人の連帯保証人になっていた場合、相続人は、被相続人の債務者としての地位を相続により引き継ぐことになります。
一方で、相続人は、相続開始前から連帯保証人としての地位を有しています。
このような場合、相続人は、相続により引き継いだ債務者としての地位と相続開始以前からの連帯保証人としての地位の両方を持っていると考えられます。
仮にそのような相続人が相続放棄をした場合、債務者としての地位を引き継ぐことはなくなりますが、連帯保証人としての地位についてまで失われるものではないため、連帯保証人としての地位や責任について、負わなければなりません。
ただ、被相続人に相続人が連帯保証している債務以外にも多額の債務があるような場合については、相続放棄をするメリットがあるように思われます。
この場合は相続放棄できないことに注意が必要
①相続人が相続財産の全部または一部を処分したとき、②相続の開始があったことを知ったときから3か月以内に限定承認または相続の放棄をしなかったとき、③相続財産の全部または一部について、その所在を相続債権者にわからなくする(隠匿)、ひそかにこれを消費する、悪意で相続財産の目録に記載しないなどの相続債権者に対する背信行為がある場合には、相続人は、当該相続について、単純承認したものとみなされ、相続放棄をすることはできなくなります(民法921条)。
相続に強い弁護士があなたをフルサポートいたします
連帯保証人の相続は弁護士にご相談ください
連帯保証人の相続については、相続人の中に債務者がいる場合や相続人の一部が相続放棄をする場合なども考えられ、法律関係が複雑になりがちです。
このような場合に、相続による不測の不利益を回避するためには専門的な知識が求められます。
また、弁護士にご依頼いただくことで、身近な方が亡くなっている中で、相続に関するご依頼者の方の負担を減らすことが可能です。
そのため、亡くなった人が連帯保証人になっていた場合の相続について、どのように対処すれば良いのか分からないときには、まずは是非一度、弁護士法人ALG&Associatesにご相談ください。
- 相続財産:
- 不動産、有価証券、預貯金等
- 依頼者の被相続人との関係:
- 子
- 相続人:
- 他に数人
- 争点:
- 感情のもつれによる事件の長期化
弁護士法人ALGに依頼した結果 | ||||
---|---|---|---|---|
遺産分割が完了 |
事案の概要
主に感情面での対立により、長期間(年単位)で遺産分割が成立していなかった事件
弁護方針・弁護士対応
お互いの感情面での対立を解消することは困難であると判断。
依頼者の方にも納得してもらい、相手方に対し、遺産の分け方以外の話を極力しない、相手方から遺産の分け方以外の話について攻撃的な話をされても取り合わず、できる限り受け流すという方針で相手方と交渉。
名古屋法律事務所・相続案件担当弁護士の活動及び解決結果
調停まで至らずに遺産分割が成立。
-
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)