遺言書によくあるトラブル事例と対処法

相続問題

遺言書によくあるトラブル事例と対処法

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

死後に備えて遺言を作成しようとする方は多いと思います。
最近では「終活」というフレーズで遺言の作成を進める書籍を見ることもあります。

しかし、正しい知識がないまま、遺言を作成すると、遺言をめぐってトラブルが生じたりすることがあります。
また、遺言そのものに問題はなくても、相続人が遺言に対する対応を誤ることでトラブルが生じることもあります。
この記事では、遺言書に関するトラブルについてご説明します。

遺言書があった場合のトラブル事例

遺言書を勝手に開封した

封印のある遺言書は家庭裁判所において相続人又はその代理人の立ち合いがなければ開封することができないとされ(民法第1004条第3項)、家庭裁判所外において開封をした者は5万円以下の過料に処せられることとなります(民法第1005条)。
封印された遺言書を発見した場合でも、これを勝手に開封してはならず、裁判所に検認の請求を行い、適正な手続きに従って開封するようにしましょう。

遺言書の字が汚くて読めない

自筆証書遺言は、遺言者(遺言を作成する方)が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならないとされます(民法第968条第1項)。
しかし、この自書にかかる字が汚くて読めない場合、遺言が正しく理解されない可能性があります。

病気等で体が不自由である場合に、綺麗に文字を書くことが難しい場合もあるかと思いますが、このような場合には、可能な限り読みやすい字を書くか、公正証書遺言(民法第969条)の方法等により遺言を作成することをご検討下さい。

日付が特定できない・誤った日付が記載されている

遺言書を作成した日付が特定できない、誤った日付が記載されている場合、その有効性が争われることがあります。
遺言書を作成した日付が特定できない場合、遺言の形式要件を満たさないとして無効と評価されます。

また、複数の遺言書がある場合には現実には最後に作成された遺言書であっても、日付を誤って記載することで最後の遺言書であると認められない可能性があります(前後の遺言の内容が抵触する場合、以前の遺言が撤回されたものと評価され得るところ(民法第1212条、第1213条第1項)、現実には最後に作成された遺言書が撤回されたと評価される可能性があります)。
その他にも、遺言の有効性が争われる余地を残すこととなるため、遺言の日付は、特定できるようにかつ正確に記載するようお願いいたします。

遺言内容が曖昧

遺言内容が曖昧な場合、遺言に記載された内容通りの法的効果が生じない可能性があります。遺言書を作成した当人にとっては明らかな内容であっても、第三者が読んだ際に、遺言内容が明らかでない、又は、複数の解釈が可能である、ということがあります。
心配な場合は、「このような内容の遺言を作成したい」という旨を、専門家に相談して、遺言書を作成してください。

遺言書の内容に納得いかない

相続人等が、遺言書の内容に納得できないと考えることもあります。
例えば、相続人に一人に対して全財産を渡す旨の遺言である場合に、他の相続人が内容に納得できないと主張することが考えられます。
このような場合、遺言書の内容に納得できないと考える方は、遺言無効確認の訴えを提起して遺言の有効性を争うことが考えられます。

また、遺留分権者である場合は、遺言により遺留分が侵害されたとして、遺留分を侵害した者に対して遺留分侵害額請求権を行使することが考えられます(民法第1042条)。
遺留分侵害額請求権を行使するためには、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分侵害行為があったことを知った時から一年間行使しないとき、又は、相続開始のときから10年を経過したときには、時効によって消滅するとされる(民法第1048条)ため、期間制限については注意が必要です。

遺言書を無理やり書かされた可能性がある

遺言作成者が、第三者により、遺言書を無理やり書かされた可能性がある場合には、これを理由に、遺言の無効を主張し、遺言無効確認訴訟を提起することが考えられます。
もっとも、遺言書を無理やり書かされたことを訴訟において立証することは、通常、困難です。

具体的には、遺言作成時における遺言作成者の精神状態(認知症の有無や精神疾患の有無等)、第三者が遺言作成に関与した程度、遺言内容の不自然さ(生前の状況にてらして内容が不自然であること)等を、証拠をもって具体的に立証し、裁判所に主張を認めてもらう必要があります。

想定してない相続人が現れた

検認の通知は、相続人全員に行わなければなりません。
そのため、想定していない相続人が現れた場合には、裁判所に連絡をして、その相続人に対しても検認通知書を発してもらうようにしましょう。

また、遺言により遺産分割協議が不要となる場合であればよいですが、遺産の一部についてのみ遺言が作成されており、なおも遺産分割協議が必要な場合には、相続人「全員」により、遺産分割協議を成立させる必要があります。
このような場合には、想定していない相続人とも連絡をとり、遺産分割協議を行う必要があります。

家族以外に財産を渡すと書かれていた

遺言により家族以外に財産を渡すことも可能です。
このような場合に、遺言の有効性を争う余地があるのであれば、遺言無効確認訴訟を提起して遺言の有効性を争うか、遺留分権者であれば財産を譲り受けた相手に対して遺留分侵害額請求権を行使するという対応が考えられます。

寄与分を主張された

遺言により財産を譲り受ける方が、相続人から、寄与分を主張される可能性があります。
しかし、寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈(遺言により財産を譲り渡すこと)の価額を控除した残額を超えることができない(民法第904条の2第3項)とされるところ、原則として、遺言の内容が、寄与分の主張に優先することとなります。
もっとも、遺贈の対象となる財産が相続財産の一部である場合には、残りの遺産について寄与分が認められる可能性はあります。

遺産分割協議後に遺言書が見つかった

遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合であっても、原則として、遺言書の内容が優先すると考えてください。
例外的に、相続人全員が、遺言の存在を認識しつつ、遺言と異なる内容の遺産分割協議を成立させることを了承している場合で、特段の事情がない限りは、遺言書の内容と異なる遺産分割協議を成立させることも可能です。

ここでいう特段の事情とは、遺贈により財産を譲り受ける第三者が存在する場合等、が挙げられます。
専門的な判断が必要な場合もありますので、遺産分割協議後に遺言書が見つかった場合には、専門家に相談することをお勧めします。

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遺言書が無かった場合のトラブル事例

遺言書がなかった場合は、相続人間で、遺産について遺産分割協議を行う必要があります。
遺産分割は、通常は、話し合いで開始しますが、話し合いができない場合や、話し合いをしたがまとまらない場合には遺産分割調停を申し立てることとなります。

なお、遺産分割調停において、遺産の全てについて判断がなされるわけではありません。
遺産の範囲の確定や、被相続人の財産が不正に流用されていたことが疑われる場合には、遺産分割調停に先立ち、これらの争点を解決しておく必要があります。
遺産分割調停によっても合意が得られない場合は、遺産分割審判により、裁判官が遺産分割について判断を行います。

遺言執行者に関するトラブル事例

遺言執行者が指定されていない

遺言において遺言執行者が指定されていない場合、相続人等の利害関係人が、家庭裁判所に対して、遺言執行者の選任を申し立てることができます(民法第1010条)。

遺言執行者が任務を怠る

遺言執行者は、遺言の執行のために必要な行為を行うという任務を負っており、この任務を怠ったときは、利害関係人は、家庭裁判所に対してその解任を請求することができます(民法第1019条第1項)。
また、相続人が、遺言執行者に対して、債務不履行による損害賠償請求を行うことも考えられます(民法第1012条第3項、644条、415条)。

遺言書でトラブルにならないための対策

遺言書でトラブルにならないようにするためには、遺言の作成段階で、専門家にご相談を頂くことが重要です。
また、相続人が遺言書を保管・発見したような場合、遺言の内容に納得できないというような場合にも、専門家にご相談をいただくことが望ましいです。

遺言を勝手に開封した場合に科料の制裁が科されることは、上記の通りではありますが、相続人が遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した場合には相続人の欠格事由(民法第891条第5号)に該当しますので、注意が必要です。

遺言書に関するトラブルは弁護士にお任せください

弁護士は、相続に関する様々な紛争を経験しており、遺言作成段階から、遺言書に関するトラブルを具体的に想定することが可能です。
遺言書に関するトラブルについては、弁護士にご相談下さい。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。