労務

子会社従業員からの団体交渉への対応について

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • 団体交渉

「親会社」と「子会社」の関係とは?

「親会社」と「子会社」は、50%以上の株式を所有することで経営を支配している会社と支配されている会社の関係にあります。

すなわち、親会社は、子会社の大株主として、子会社の経営方針を決定することができる立場にあるわけです。

子会社の従業員からの団体交渉に親会社は応じる義務があるか?

団体交渉に応じる義務を持つのは、労働組合法上の「使用者」に該当する者です。子会社の従業員からの団体交渉を申し入れられた場合、親会社がこれに応じる義務があるかどうかは、親会社が「使用者」に該当するかどうかにより判断が分かれます。

労働組合法における親会社の「使用者性」

労働組合法上、「使用者」の定義はありませんが、最高裁判所は、一般的に使用者とは、労働契約上の雇用主をいうが、雇用主以外の事業主であっても、その労働者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位になる場合には、団体交渉において「使用者」に当たると判断しています。(朝日放送事件 最三小判平成7年2月28日民集49巻2号559頁)

①労働組合法上の使用者性が肯定された裁判例

直接雇用関係のない会社に対して使用者性を認めた事例(中労委平成15年3月19日決定)をご紹介します。

事件の概要

大阪証券取引所が有価証券の売買取引の媒介業務を行っていた仲立証券株式会社(大阪証券取引所の立会場内で、正会員の間の現物取引の媒介業務を行っていた証券会社)の企業再開と仲立証券株式会社の従業員の雇用確保、仲立証券株式会社の従業員を大阪証券取引所や証券関係の業界で再雇用することを議題とする団体交渉の申入れを拒否したことが不当労働行為に当たるとして争われた事件です。

裁判所の判断(中労委平成12年(不再)第56号・平成15年3月19日決定)

本決定においては、

  • 仲立証券株式会社は、制度的に取引所に依存せざるを得ない立場ないしは従属的な立場にあったことから大阪証券取引所は、仲立証券株式会社に対して制度的に見て相当な支配力を有していること
  • 仲立証券株式会社の再建案の検討等に大阪証券取引所が積極的に関与していたこと
  • 仲立証券株式会社の株式は、大阪証券取引所と同取引所の正会員協会(取引所と同一歩調をとる可能性が高い)と併せて52%となっていることから、資本的に影響力を及ぼすことのできる立場にあったこと
  • 仲立証券株式会社の社長2名がいずれも大阪証券取引所の出身であったこと
  • 大阪証券取引所が仲立証券株式会社の経営に大きく影響する仲立手数料の大幅な引き下げをすることにより、仲立証券株式会社の経営に大きな打撃を与えることにより同社の従業員の賃金削減に直接の影響を与えたこと

等から、仲立証券株式会社は、制度面・資本面・人事面において大阪証券取引所に依存せざるを得ない立場にあったことから、大阪証券取引所が仲立証券株式会社に対して相当な支配力を有していたこと、そして、当該支配力を実際に行使して仲立証券株式会社の従業員の基本的労働条件である解雇するか否かという問題を左右する再建策等に積極的に関与して、当該再建策を実行に移していたことから、大阪証券取引所が仲立証券株式会社の従業員の基本的な労働条件である雇用問題に対して現実的かつ具体的な支配力を有していたと判断しました。

ポイント・解説

本件では、仲立証券が制度面・資本面・人事面において、大阪証券取引所に依存せざるを得ない立場にあり、その力関係から実際に大阪証券取引所が仲立証券の経営方針等に積極的に関与していたという事実をもって、「使用者」に該当すると判断しています。

すなわち、諸般の事情から力関係があるとしても、実際にその力関係を行使していることが使用者性を認めるポイントとなったようです。

②親会社及び持ち株会社の使用者性が否定された裁判例

親会社及び持株会社が労働組合法上の「使用者」に該当しないとした事例として高見澤電機製作所外2社事件(東京地判平成23年5月12日)を紹介します。

事件の概要

従業員の同意なく行われた人事異動に関して、親会社及び当該人事異動後に設立された持株会社に対して団体交渉を申し入れたところ、親会社及び持株会社の使用者性が争われた事案です。

裁判所の判断(平成21年(行ウ)第295号 東京地裁平成23年5月12日判決)

裁判所は、上記の最高裁判決(朝日放送事件最判平成7年2月28日民集49巻2号559頁)の規範を引用し、親会社及び持株会社は子会社の経営について一定の支配力を有していたと言えるが。労働者の基本的な労働条件について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったと言える根拠はないとして、労働組合法上の使用者には当たらないと判断しました。

ポイント・解説

本件で、親会社は問題となった人事異動の時点で、

  • 子会社の株式の過半数を有していたこと
  • 子会社の全取締役の過半数が親会社の出身又は親会社の役員を兼務していたこと

から、親会社が子会社の経営について一定の支配力を有していたと推認しましたが、

子会社の組織再編や子会社の持株会社の設立が親会社の意向に沿うものであったと推認できるとしても

  • 親会社の関与がグルーブ企業の経営戦略的観点から行う管理・監督の域を超えたものであると認めるだけの証拠がない
  • 親会社が子会社の労働者の賃金、労働時間等の基本的な労働条件に対して、雇用主として同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めるだけの証拠がないとして、親会社の使用者性を否定しました。

持株会社については

  • 資本関係及び兼務役員を通じて親会社として子会社に対し、経営について一定の支配力を有していたと推認できること
  • 持株会社の子会社に対する営業取引上の意思決定ないし行為が子会社の労働者の賃金等の労働条件に影響を与えうることは否定できないとしつつも
  • 当該決定過程に持株会社が現実的かつ具体的に関与したことを認める証拠がないこと
  • 労働時間等の基本的な労働条件等についても、持株会社が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めるだけの証拠がないとして持ち株会社の使用者性を否定しました。

子会社の従業員から団体交渉を求められた場合の適切な対応

子会社の従業員から団体交渉を求められた場合、どのように対応すべきかについては、慎重に判断する必要があります。

雇用関係がなくても誠実に対応する

上記の裁判例のとおり、直接の雇用関係がない子会社の従業員に対しても、労働組合法上の「使用者」として認められる場合もあるため、子会社の従業員から団体交渉の申入れだからと安易に拒否するべきではありません。

子会社の従業員から団体交渉の申入れであったとしても、団体交渉に応じる義務がある可能性があることを考慮して誠実に対応すべきです。

団体交渉の議題を十分に精査する

親会社に団体交渉に応じる義務があるかどうかの判断にあたっては、団体交渉の議題となっている内容について、現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にあるかどうかを検討する必要があります。

そのため、団体交渉に応じる義務があるかどうか判断するためにも、団体交渉の議題を十分に精査することが必要となります。

親会社の決定権・影響力を調査する

団体交渉の議題を十分に精査することができたら、子会社の従業員から団体交渉の申入れに対して応じる義務の有無を判断するため、当該議題について、親会社としてどの程度、具体的に支配・決定できる地位にあったか調査することになります。

当該議題については、子会社が判断する事項であり、親会社が関与していないのか、むしろ、親会社が決定して、子会社に対して具体的な指示を出している事項なのか、当該議題の決定についての関与の程度について調査します。

なお、親会社に団体交渉に応じる義務があるか否かについては、親会社が子会社の株式をどの程度持っているのか、子会社の役員、管理職と親会社との関係等を総合的に考慮することになります。

子会社の従業員からの団体交渉でお困り際は弁護士にご相談下さい。

以上のとおり、子会社の従業員からの団体交渉に応じる義務があるかどうかについては、さまざまな事情を総合的に考慮して判断する必要があるため、難しい判断を迫られることになります。

判断を誤れば、不当労働行為として損害賠償請求をされることになりますので、慎重な判断を期すためにも、専門家である弁護士に一度ご相談いただくことをお勧めいたします。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
愛知県弁護士会所属。弁護士法人ALG&Associatesでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

来所・zoom相談初回1時間無料

企業側人事労務に関するご相談

  • ※電話相談の場合:1時間10,000円(税込11,000円)
  • ※1時間以降は30分毎に5,000円(税込5,500円)の有料相談になります。
  • ※30分未満の延長でも5,000円(税込5,500円)が発生いたします。
  • ※相談内容によっては有料相談となる場合があります。
  • ※無断キャンセルされた場合、次回の相談料:1時間10,000円(税込み11,000円)

顧問契約をご検討されている方は弁護士法人ALGにお任せください

※会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません

ご相談受付ダイヤル

0120-406-029

※法律相談は、受付予約後となりますので、直接弁護士にはお繋ぎできません。

メール相談受付

会社側・経営者側専門となりますので、労働者側のご相談は受け付けておりません