労務

従業員の犯罪行為:起訴休職処分について

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善

監修弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長 弁護士

  • 休職

従業員が、犯罪行為を行った疑いにより起訴された場合に行われる起訴休職処分に関して、以下で説明します。

犯罪行為で起訴された従業員の「起訴休職処分」について

起訴休職処分は、従業員が、犯罪行為に関し起訴された場合に、一定期間または判決確定までの間休職とするものです。

起訴休職処分を命じる必要性とは?

起訴休職処分は、企業の社会的信用を維持する必要や、職場の秩序維持、懲戒や解雇などの処分を刑事手続きが終了するまで留保するといった必要から命じられます。

「自宅待機命令」とは何が違うのか?

従業員が犯罪事実について起訴された場合に、会社が自宅待機命令を下すこともあります。この自宅待機命令は、当該従業員に懲戒処分をくだすかどうかを判断するための間、業務命令として自宅待機を命ずるものです。自宅待機命令を下した場合、業務命令により従業員が労務の提供を行えない状態となっているので、会社は、原則として、従業員に対し、自宅待機中の賃金を支払う義務があります。
これ手に対し、後述のとおり、起訴休職処分の場合には、休職期間中の賃金を支払う義務がないという点で、自宅待機命令とは大きな違いがあります。

起訴休職処分を開始・終了するタイミング

起訴休職処分は、以下のタイミングで発令され終了するものが多いといえます。

どの時点で命じることができるのか?

起訴休職処分を命ずることができるのは、当該従業員が起訴された時点です。起訴を理由とする処分である以上、当然の事柄といえます。

起訴休職が終了する事由とは?

起訴休職が終了する事由としては、判決の確定、保釈、一審での無罪判決などがあります。後述の裁判例の考え方に立つと、保釈や一審の無罪判決により要件を満たさなくなった場合には、起訴休職の終了を認める必要があると考えられます。

起訴休職処分を命じるための要件について

裁判例は、従業員が犯罪行為に関し起訴されたことのみをもって、その者を起訴休職処分とすることはできないと解しており、裁判例の大勢は、以下の2つの要件のいずれかを満たすことを要するとしています。
①当該犯罪行為の起訴がなされたことによって、職場秩序や企業の社会的信用や当該労働者の職務遂行などの点で同人の就労を禁止することもやむなしと認められること、②勾留または公判期日出頭のために現実の労務提供が不可能または困難となること。
上記のような要件を要求する裁判例の立場からは、保釈や一審の無罪判決などにより、その要件を満たさなくなった場合には、使用者は復職措置をとらなければならないと解されています。

会社は起訴休職中の賃金を支払う必要があるのか?

起訴休職中、従業員は労務を提供しておらず、その休職の理由は従業員にあるので、会社は起訴休職中の賃金を支払う必要はありません。なお、就業規則における休職制度の設計で、起訴休職期間中の賃金を支払うという制度にしている場合には、この限りではなく、賃金を支払う必要が生じます。

起訴休職中に懲戒解雇とすることは可能か?

「起訴されたこと」が懲戒解雇理由とされていれば、理論的には、懲戒解雇することは可能です。また、「会社の信用を著しく害する行為」を行ったとして懲戒解雇することも考えられます。
しかし、起訴休職中は、当該従業員の犯罪行為について、有罪無罪の判断がなされていない状況です。当該従業員が、犯罪行為を行ったことを争っているような場合には、懲戒解雇が解雇権の濫用として無効と判断される可能性があるので、解雇を行うには注意が必要と考えられます。また、犯罪行為の内容によっては、有罪であったとしても、必ず解雇が有効となるわけではないので、この点からも解雇を行う場合には注意が必要です。

起訴休職処分後に無罪判決が確定した場合は?

起訴休職処分後に、無罪判決が確定する場合があります。このような場合、会社が行った起訴休職処分について問題が生じるのでしょうか。

会社が違法性を問われることはあるか?

起訴休職処分後に、無罪判決が確定した場合、起訴休職そのものが遡って違法となるものではないと解されています。起訴休職処分は、有罪を理由とする処分ではなく、処分時に要件を満たす以上、無罪判決によりその効力に影響は生じないと考えるべきだからです。

起訴休職中、無給だった賃金を支払わなければならない?

起訴休職処分後に、無罪判決が確定したとしても、起訴休職処分は遡って違法、無効となるものではありません。そのため、起訴休職中の賃金を支払う義務は生じないと考えられます。

起訴休職処分を就業規則に定める際のポイント

起訴休職処分は、就業規則上、「刑事手続きで起訴された者は、その事件が裁判所に係属する間はこれを休職する。」などと定められることが多いといえます。
しかし、裁判例が、一定の要件のもとで、起訴休職処分の有効性を認めていることからすれば、少なくとも、一審で無罪判決が下された場合等で起訴休職の要件を満たさなくなった場合には、休職が終了するように定めておく方がよいでしょう。

起訴休職処分の有効性が問われた裁判例

起訴休職処分の有効性が争われた裁判例を以下で、解説します。

事件の概要

本件では、従業員が、刑事事件で起訴された際に、就業規則上、起訴休職命令の定めがない法人において、「休職をさせることを適当と認めるとき」に該当するとして、法人が休職を命令し、その有効性が問題となりました(その他の争点は省略)。第一審は、法人の起訴休職処分を無効と判断しましたが、高裁は、一審を破棄し、法人の起訴休職処分を有効と認めました。その際、裁判例は、起訴休職が認められる要件について、詳細に判断をおこないました。

裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)

裁判所は、刑事事件で起訴された被用者をそのまま就業させた場合、職務内容や犯罪事実の内容によっては、職場秩序や使用者の社会的信用が害されること、被用者の労務の継続的給付や使用者の組織的活動に障害が生じることなどから、就業規則に明確な起訴休職の規定がなくとも、起訴休職処分を命ずることが可能と判断しました。
一方、被用者が起訴されたという事実のみでは、休職を命ずることは認められないとも判断しました。休職が認められるのは、職務の性質や、犯罪事実の内容、身体拘束の有無などの事情に照らして、従業員が就労することにより、使用者の対外的信用が失墜する等の要件が必要であるとしました。また、無給休職の場合は、休職による従業員の不利益が極めて大きいことから、犯罪行為の軽重と著しく均衡を欠かないことも必要であると判断しました(平成13年(ネ)第109号福岡高判平成14年12月13日参照)

ポイント・解説

本裁判例のポイントは、起訴休職処分に関し、就業規則に明確な規定がなくとも、これを命ずることができると判断した点です。
また、被用者が起訴されたという事実のみでは、休職を命ずることができないと判断しており、この考え方は、就業規則上、起訴休職処分の規程が存在する場合にも妥当すると考えられます。
本件の第一審判決は、本裁判例と同様の判断枠組みで、起訴休職処分を無効と判断しました。本裁判例と第一審判決の結論が異なったのは、刑事事件判決の評価の違いによるものと考えられます。したがって、起訴休職処分の有効性を判断するには、具体的な犯罪事実の内容の評価が重要な要素となると考えられます。

起訴休職処分を命じるかどうかについては、慎重な判断が求められます。起訴された従業員の対応でお悩みなら弁護士にご相談下さい。

ほとんどの企業において、起訴休職処分の制度が設けられていますが、起訴がなされれば休職を命ずることができるという規定がほとんどです。しかし、裁判例の考え方を踏まえると、起訴された場合に一律に休職処分を命ずると、職務内容や犯罪事実等の諸般の事情を踏まえて、無効と判断される可能性あります。
従業員が起訴された場合に、起訴休職処分を命ずるかどうかについても、慎重な判断が求められるといえます。お悩みの場合には、是非、弁護士にご相談ください。

名古屋法律事務所 所長 弁護士 井本 敬善
監修:弁護士 井本 敬善弁護士法人ALG&Associates 名古屋法律事務所 所長
保有資格弁護士(愛知県弁護士会所属・登録番号:45721)
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