会社に提出された履歴書に記載された内容に、嘘があった場合、会社としては、その新入社員を安心して雇用し続けられないかと思います。このような場合に、会社としては、いかなる対応をすることができるのでしょうか。以下、解説していきます。
新入社員の履歴書が嘘だった場合の対応
新入社員が会社に提出した履歴書に嘘があった場合、会社としては、当該新入社員に対し、懲戒処分をすることができるのでしょうか。できるとして、その進め方はどのようにすれば良いのでしょうか。
弁明の機会を与えるべきか?
懲戒処分をする場合、その対象となる社員に対し、どのような理由で処分をすることを予定しているのかを知らせた上で、その社員の言い分を聞く機会を設けなければなりません。この、社員の言い分を聞く機会を、弁明の機会といいます。
この弁明の機会を与えずに処分をしてしまった場合、後から、その処分の有効性が否定される可能性がありますので、注意が必要です。
減給などの懲戒処分としても良いか?
懲戒処分には、訓告・譴責から、解雇まで、様々あります。
そして、懲戒処分として何を選択するかについては、履歴書の嘘がどれだけ大きなものか、それにより会社に与える影響はどの程度か、当該社員の勤務態度などを総合的に考慮して判断します。処分が重すぎた場合、後から有効性が争われ、処分が無効になる可能性もありますので、減給などの処分を行う場合、慎重な判断が必要です。
入社後すぐの退職勧奨は認められるのか?
退職勧奨は、会社から社員に対し、退職するよう説得することを指しますが、退職を強制するものではなく、あくまで社員の同意のもと退職してもらうものになります。そして、退職勧奨をすること自体に関し、法律上の規制はありません。そのため、入社後すぐの退職勧奨自体は、許されます。
もっとも、退職勧奨であっても、社員が拒否している中、長時間説得を続けたり、短い期間の中で何度も退職勧奨を行うなどは、事実上退職を強要したものと評価され、違法となる可能性がありますので、ご注意ください。
履歴書の嘘で解雇は認められるか?解雇するポイントとは?
次に、履歴書の嘘を理由に、その社員を解雇することが許されるのかについて、解説していきます。
「履歴書の嘘」は解雇事由に相当するか?
解雇が許される場合というのは、かなり限定的と考えられています。
具体的には、客観的に合理的な理由があり、社会通念上解雇が相当であると求められる場合など、解雇を選択する他ないような場合に認められます。
そうすると、履歴書の嘘の中でも、かなり重要な点に嘘があり、もはや雇用を続けられないような事情がある場合に限って、解雇が認められると考えられます。
懲戒解雇が認められる「履歴書の嘘」とは?
では、履歴書の噓の中でも、懲戒解雇が許されるのは、どのような場合なのでしょうか。
少なくとも、経歴の些細な詐称などのレベルでは、解雇までは認められないでしょう。他方、経歴の詐称であっても、その詐称自体で会社秩序を侵害し、会社と当該社員との信頼関係が完全に破壊されるようなものであれば、解雇も許容される場合があると考えられます。
履歴書の賞罰欄に犯罪歴を記載していなかった場合
新入社員が、本当は犯罪歴があるにもかかわらず、それを履歴書の賞罰欄に記載しなかった場合を考えてみましょう。
この場合でも、その犯罪が、重大な犯罪であるのかにもよりますが、もしその犯罪歴があると会社が知っていれば確実に雇用しなかったとしたら、解雇が有効になる可能性はあります。
一方、極めて軽微な犯罪歴であったり、かなり前(10年以上前など)の犯罪歴である場合には、解雇までは許容されないと思われます。
採用する前に履歴書の嘘を見抜くには?
会社としては、できれば採用前に新入社員の履歴書の嘘を見抜きたいでしょう。
そのためには、まずは面接の中で、履歴書の記載事項について聞き、不審な点がないかを確認することをお勧めします。
また、経歴に関し、証明書の発行が可能であれば、それを求めることも考えられます。
内定中に嘘が発覚した場合、内定取り消しは可能か?
内定については、解約権の留保がついた労働契約と考えられています。そうすると、内定を取り消すにあたっても、解雇の場合と同様に、客観的に合理的な理由があること、社会通念上相当であることが必要です。
そのため、上記の解雇で解説したとおり、かなり慎重な判断が必要になりますので、ご注意ください。
嘘の程度や勤務態度によっては解雇しないという選択肢も
履歴書に嘘があった場合でも、会社としては、当該社員を継続して雇用し続けることは当然できます。
そのため、履歴書に嘘があっても、勤務態度が真面目であり、その他に特に見るべき問題点がないような場合は、戒告などの軽い処分に留め、雇用し続けることも、選択肢として十分あり得えます。
履歴書の詐称について争われた裁判例
履歴書に犯罪歴を記載しなかった点について争われた裁判があります。
以下、解説していきます。
事件の概要
過去に強盗の犯罪歴がある人が、会社に入社する際、履歴書の賞罰欄に、その犯罪歴を記載しなかった事案です。会社は、履歴書に重要な嘘があるとして、当該社員を解雇としました。
裁判所の判断(事件番号・裁判年月日・裁判所・裁判種類)
裁判所は、当該社員の犯罪歴に関しては、刑の言渡しの効力が消滅したものであり、賞罰欄に記載する義務がないことを理由に、解雇は無効であると判断しました(仙台地裁昭和60年9月19日判決)。
ポイント・解説
この裁判例のポイントとしては、社員の犯罪歴について、既に刑の言渡しの効力が消滅していること、そのため賞罰欄に記載する義務がないことです。この裁判例は、いかなる犯罪歴であっても、解雇を有効とする理由にはならないということが分かります。また、具体的に、刑の言渡しの効力が消滅しているケースにおいて、解雇は無効とされたものとして、今後の参考になるものといえます。
新入社員の履歴書の詐称が発覚した際は、お早めに弁護士に相談することをおすすめします。
会社が新入社員を雇う以上、社員の履歴書に嘘があり、その社員の解雇を検討するケースというのは想定しておく必要があります。会社としては、その社員を解雇したいと考えても、後からその解雇が無効となり、高額の未払賃料の支払義務を負わなければならない可能性があることから、どうしても慎重に判断せざるを得ません。
新入社員を雇う場合の注意点や、仮に履歴書の嘘が発覚した場合の対応については、専門家である弁護士に相談することをお勧めいたします。