業務委託との団体交渉が特に問題になるケースと適切な対応方法

業務委託との団体交渉が特に問題になるケースと適切な対応方法

業務委託(請負)の場合でも団体交渉に応じる必要があるか?

団体交渉権は「労働者」に認められます。「労働者」とは、通常、使用者との間で雇用契約を締結し、雇用契約に基づいて、労務を提供する者をいいます。業務委託(請負)契約は、雇用契約とは異なるため、業務委託(請負)契約に基づいて働く方は、「労働者」にあたらず、団体交渉権が認められないことが通常です。

もっとも、雇用契約か業務委託(請負)契約かは、契約の形式だけでなく実質によっても判断されます。そのため、形式的には業務委託(請負)契約であっても、実質が雇用契約であると評価される場合もあり、このような場合に、団体交渉を拒否すると、違法と評価される可能性があるため、注意が必要です。

業務委託に労働者性は認められるのか?

「労働者」は労働基準法、労働災害補償保険法、労働組合法、労働契約法等様々な法律に規定されていますが、法律によって、その意味するところが異なります。

団体交渉権が認められるか否かは労働組合法の「労働者」にあたるかどうかという問題ですが、労働組合法の「労働者」は例えば労働基準法の「労働者」よりもやや広く解釈されます。そのため、業務委託(請負)契約で「労働者」性が認められるか否かは特に注意をしなければなりません。

労働組合法上の労働者性が認められた裁判例

INAXメンテナンス事件(最高裁判所平成23年4月12日)では、業務委託(請負)契約で相手方に、「労働者」性が認められ、会社に団体交渉に応じる義務があると判断されました。

この他にも、業務委託(請負)契約で「労働者」性が肯定されました。判例上、労働組合法上の「労働者」にあたるか否かは、①事業組織への組み入れ、②契約内容の一方的決定、③報酬の労務対価性、④業務の依頼に応じるべき関係、⑤指揮監督関係、⑥(受託者の)独立の事業主としての実態等を考慮して実質的に判断されることになります。

すなわち、形式的に業務委託(請負)契約を締結している場合であっても、上記の実質的な判断によっては、「労働者」性が肯定される余地があるのです。

業務委託に使用者性は認められるのか?

労働組合法上の労働者には、労働者と労働契約を締結している使用者だけでなく、①労働条件等を支配している者、②過去において使用者だった者もしくは将来において使用者となる可能性がある者も含まれると解釈されます。

これは、団体交渉による労働条件対等決定の促進という労働組合法の趣旨によるものです。

業務委託との団体交渉が特に問題となるケースとは?

業務委託を社内で作業させているケース

業務委託を社内で作業させているケースは、時間的・場所的拘束性が認められることから指揮監督関係が肯定されるとして、労働組合法上の「労働者」が認められる可能性が高くなります。

労働組合法上の使用者性を肯定した裁判例

朝日放送事件(最高裁判所平成7年2月28日)では、下請会社の労働者等が元請会社に対して団体交渉を求めたところ、元請け会社が下請け会社の労働者の労働条件等について現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるとして、元請会社の使用者性を肯定し、団体交渉に応じるべき義務を認めました。

業務委託で団体交渉を求められた場合の適切な対応方法

団体交渉に応じるべきか慎重に判断する

労働組合法上の「労働者」から労働組合法上の「使用者」に対し、団体交渉が求められた場合、これを拒否することは、労働組合法違反にあたり、違法となります。そのため、このような場合には、会社として、団体交渉に誠実に応じなければなりません。

もっとも、団体交渉に応じることは、会社にとって大きなコストとなります。そのため、業務委託(請負)契約において団体交渉を求められた場合には、法的にこれに応じるべきか否かを慎重に判断しなければなりません。

団体交渉の議題も判断要素になる

団体交渉の議題には、労働条件や職場環境、待遇に関する「義務的団体交渉事項」と、会社の専権に属する「任意的団体交渉事項」とがあります。「義務的団体交渉事項」については、会社が団体交渉を拒否すると違法となりますが、「任意的団体交渉事項」については、会社として必ずしもこれに応じなければならないわけではありません。

もっとも「義務的団体交渉事項」と「任意的団体交渉事項」との区別は時として不明確であるため、「任意的団体交渉事項だから」と団体交渉を拒否した場合に、違法と判断される可能性があります。

請負企業からの申入れには直接の雇用者と連携する

元請企業が、下請企業の労働者から団体交渉を求められた場合には、直接の雇用者である下請企業と連携することが重要です。なぜなら、現実に、下請企業の労働者の労働条件を決定するのは、直接の雇用者である下請企業だからです。

業務委託契約における団体交渉でお悩みなら弁護士にご相談下さい。

業務委託(請負)契約において団体交渉に応じるべきか否かは、上記の通り、様々な要素を総合的に考慮して判断しなければなりません。業務委託(請負)契約における団体交渉でお悩みの場合は、是非、弁護士にご相談下さい。

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