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慰謝料

慰謝料とは

医療過誤によって生命、身体、健康が害された場合には、被害者は精神的苦痛を被ることとなります。この精神的苦痛を慰藉するために認められるのが慰謝料です。

慰謝料の算定

民法では、損害賠償は金銭で行うこととされています(民法722条1項、417条)。そのため、精神的苦痛を慰藉する慰謝料についても、金銭換算して請求しなければなりません。

精神的苦痛は目に見えるものではないのに、どのように金銭換算するのでしょうか?

医療過誤と同様に人の死亡や傷害についての損害が問題となる交通事故では、件数が多いことから、損害についての算定基準が策定されています。この基準では、入通院慰謝料、後遺症慰謝料、死亡慰謝料の基準が定められており、医療過誤の損害賠償請求の場合でもこの算定基準を参照して算定することがほとんどです。

慰謝料に関する判例

同じく人の死亡や傷害についての損害が問題となるといっても、交通事故と医療過誤とでは受ける精神的苦痛は異なると考えられます。それにもかかわらず、同じ基準で慰謝料を算定してもよいのでしょうか?特に、医療過誤では被害者である患者やその家族は、信頼されていた医師に裏切られたという精神的苦痛を受けます。この点について考慮しなくてよいのでしょうか?

東京地裁平成17年(ワ)第5832号平成18年7月26日判決及びその控訴審である東京高裁平成18年(ネ)第4253号・平成18年(ネ)第4878号平成19年9月20日判決がこの点について判断しています。

この裁判例は、帝王切開により出産した後、血圧低下、頻脈などの症状がみられた患者が腹腔内出血により死亡した事案で、帝王切開終了後に医師が帰宅しており、患者が呼びかけても反応しない、瞳孔散大、対光反射がみらないなどの状態となり、看護師から診察依頼があるまで2時間半超の時間、医師が患者を直接診察することはなかったという事案です。

第1審である東京地裁は、医療事件と交通事故の違いに着目し、「交通事故においては、事故以前に当事者間に何ら法律関係がないのが通常であるのに対し、医療事故の場合は、患者と医師の間に契約関係が存在し、患者は医師を信頼して身を委ね、身体に対する侵襲を甘んじて受け入れているのであるから、医師の注意義務違反によって患者の生命身体が損なわれたとき、患者には損害の客観的態様に基づく精神的苦痛に加えて、医師に対する信頼を裏切られたことによる精神的苦痛が生ずるものと考えられる。したがって、医師の注意義務違反の内容と程度及び患者側の受けた損害の内容と程度によっては、患者側の精神的苦痛に対する慰謝料の額が交通事故等の場合よりも高額なものとなる場合もあり得るというべきである」と判示し、本件では医師が患者の信頼関係に反した程度は高く、それに伴って患者・患者家族の受けた精神的苦痛も大きいとして、交通事故の算定基準より300万円高額となる慰謝料を認めました。

これに対して、控訴審である東京高裁では、交通事故の場合でも加害者の過失の内容が悪質で程度が大きい場合など、慰謝料の額が通常の交通事故よりも高額なものとなる場合もあり「一概に、医療事件における場合と交通事故における場合とで、慰謝料水準が異なるということはできず、具体的事案における慰謝料額は、当該事案における諸般の事情を総合考慮して判断すべきものというほかない。」と判示して、医療事件であるということだけで一律に慰謝料を増額すべきという見解には立ちませんでした。しかし、本件事案については、医師が患者の信頼関係に反した程度が高く、それに伴って患者・患者家族が受けた精神的苦痛も大きいとして、第1審で認められた慰謝料は維持しました。

以上の裁判例からすれば、医療事件であるということだけで一律に慰謝料が増額されるということはありませんが、事案に即して、医師の過失の程度が大きいなど具体的な事由を主張すれば慰謝料の増額理由として認められるといえます。

最後に

医療過誤の被害者となってしまった場合、過誤を受けた患者さん本人も、その家族も大きな精神的苦痛を味わいます。その精神的苦痛を適切に評価し、医師の過失の程度の大きさなど具体的な事由を主張するには、医療過誤に精通し、医師の過失の程度の大きさを判断できる弁護士であることが必須になります。医療過誤の被害者となってしまった場合には、医療過誤に精通した弁護士に相談することをお勧めします。