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鑑定

鑑定とは

鑑定とは、訴訟における証拠調べの1つで、裁判官の判断能力を補うために専門的分野における知識や判断について、裁判所の依頼に基づき、特別の学識経験有する者に口頭または書面で報告させる手続きをいいます(民事訴訟法212条以下)。

医療過誤訴訟では、過失・因果関係などの要件を判断するために医学的知見が要求されるため、医師を鑑定人として鑑定が行われることがあります。

鑑定の種類

鑑定人1名が書面で意見を述べる書面単独鑑定、複数の鑑定人が書面で意見を述べる書面複数鑑定のほか、東京地裁の医療集中部で行われているカンファレンス鑑定などがあります。カンファレンス鑑定とは、原則として3名の医師を鑑定人に指定し、鑑定人が事前に簡単な意見書を提出した上で、法廷において口頭で鑑定意見を述べる方式で行われる口頭複数鑑定です。

鑑定手続きの流れ

鑑定手続きは、次のような流れで進むことになります。

当事者による鑑定申出→裁判所による鑑定の採否の判断→鑑定事項の確定→鑑定人の選任→鑑定資料の選定→鑑定人の宣誓→鑑定意見の報告

鑑定意見の評価

専門家である医師による鑑定意見は、訴訟においてどのように評価されるのでしょうか?

自然科学の領域で行われる医学研究では、データが不十分な症例をもとに研究をすすめると誤った結論を導くこととなり、人の生命に危険をもたらすこととなります。そのような観点から、医師はデータが不十分な場合に、断定的な結論を述べることに慎重である場合がほとんどです。しかし、民事上の責任を追及する訴訟においては、自然科学的な証明とは異なり、通常人が疑いを差し挟まない程度の確信がもてる証明がされれば(歴史的証明がされれば)、事実を認定することが可能です。そこで、鑑定意見についても、訴訟において要求されるのは歴史的証明であるという観点から再吟味する必要があることになります。

さらに、鑑定意見については、鑑定資料を十分に検討しているかどうか、結論を導くにあたって合理的な医学的根拠が示されているかなどの観点からも評価も必要です。

患者側の代理人としては、鑑定意見が不利なものであったとしても、上記の観点から問題点がないかを検討し、鑑定意見の証拠価値が低いとして争っていくことになります。

鑑定に基づく事実認定に関する判例(最高裁平成7年(オ)第1205号平成9年2月25日判決)

風邪で医師から抗生物質・鎮痛解熱剤・鎮咳剤など複数の薬剤の投与を受けた患者が、投与を受けた薬剤が原因で顆粒球減少症にかかって死亡したことについて、遺族が損害賠償請求した事案です。この事案では患者の顆粒球減少症の発症時期と起因剤の事実認定が問題となりました。原審である広島高裁は、鑑定に依拠して顆粒球減少症の発症時期と起因剤の認定を行い、その事実を基礎として相当因果関係を否定して損害賠償請求を棄却する判断をしました。これに対して、最高裁は、鑑定のみに依拠して顆粒球減少症の発症時期と起因剤の認定を行った原審の事実認定は違法であると判断しました。ここでは、発症日の認定に関する最高裁の判断を説明します。

鑑定意見は4月14日より前に顆粒球減少症の発症を確認し得る検査所見及び症候がないこと、4月14日以降に患者の症状が急激に進行したことから推測すると同日よりも相当前に発症していたとはいえないことを論拠として、発症日を4月13日から14日朝と判断していました。

最高裁は、本件では4月14日までに顆粒球減少症の発症の可能性をも想定した問診・診察がされていないなどという事情から、4月14日より前に顆粒球減少症の発症を確認し得る検査所見等がないというのは、顆粒球減少症特有の症状の有無に意識的に注意を払った問診及び診察もされなかった結果をいうにすぎないと評価し、鑑定意見は患者の本症発症日をどこまでさかのぼり得るかについて科学的、医学的見地から確実に証明できることだけを述べたにとどまるとしました。また、患者の症状等から患者の顆粒球減少症が急性型であったといえるかどうかには疑問があるとし、慢性型の顆粒球減少症が重症化したものであるとの説明を否定し去ることは困難であるとしました。

そして、本件鑑定について、「患者の病状のすべてを合理的に説明し得ているものではなく、経験科学に属する医学の分野における一つの仮説を述べたにとどまり、医学研究の見地からはともかく、訴訟上の証明の見地からみれば・・・発症日を認定する際の決定的な証拠資料ということはできない」と結論づけました。

まとめ

鑑定意見は医師の医学的な見解を述べたものであり、訴訟の結論に大きく影響するものですが、その証拠価値については、適切に評価する必要があります。医療過誤訴訟で、鑑定意見を適切に評価することができるのは、医療過誤に精通した弁護士になります。医療過誤で損害賠償請求を検討されている場合、医療過誤に精通した弁護士に相談することをお勧めします。