医師の弁明義務(顛末報告義務)

代表執行役員 弁護士 金﨑 浩之

監修医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 弁護士

  • 弁明義務

医師の説明義務の類型

医師の説明義務は、一般的に次の3つの類型に分類されています。

  1. ①患者が自己決定するための説明義務
  2. ②療養方法の指導としての説明義務
  3. ③顛末報告義務・弁明義務

医師の弁明義務(顛末報告義務)

弁明義務(顛末報告義務)は、治療行為によって不本意な結果が発生した場合に、治療行為終了後において、医師が患者に対して診療の経過や悪しき結果の原因について説明する義務です。①患者が自己決定するための説明が治療行為の前になされるのに対し、③弁明義務(顛末報告義務)に基づく説明は治療終了後になされるという点で異なります。また、②療法方法の指導としての説明義務は診療行為の一環をなすものであるのに対し、③弁明義務(顛末報告義務)に基づく説明は診療行為ではないという点で異なります。

弁明義務(顛末報告義務)の根拠

弁明義務(顛末報告義務)の根拠は、一般的に民法656条による645条の準用にあると考えられています。

医療機関と患者さんの間には、診療契約という契約が締結されています。この診療契約は性質上、民法の準委任契約(民法656条)にあたると解されており、民法上、(準)委任が終了したときは、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならないと定められているので、これが弁明義務(顛末報告義務)の根拠と考えられているのです。

弁明(顛末報告)の相手方

診療契約は患者さんと医療機関との間で締結されるものなので、患者さん本人に弁明(顛末報告)するのが原則になります。

では、患者さんが死亡した場合、遺族に対して弁明(顛末報告)すべき義務は認められるのでしょうか?

遺族は診療契約の当事者ではないことなどから、遺族に対する弁明義務(顛末報告義務)が認められるのかどうかについてはさまざまな議論がありますが、診療契約に付随する義務である、信義則上の義務である、診療契約上の意思解釈から診療契約上の義務である、として遺族に対する弁明義務(顛末報告義務)を認めた裁判例があります(大阪地裁平成16年(ワ)第8288号平成20年2月21日判決ほか)。

弁明義務(顛末報告義務)に関する裁判例

弁明義務(顛末報告義務)について注目された裁判例としては、広島地裁昭和58年(ワ)第18号平成4年12月21日判決があります。以下ではこの裁判例について説明します。

事案

脳出血の患者がA病院で開頭による血種除去術を施行した後、急性腎不全を併発し、人工透析にためB病院に転院しましたが、転院先のB病院で死亡しました。B病院の医師は、患者に心マッサージを施行した際、気管カニューレから黒褐色の血液が大量に出たことから、患者が消化管出血を起こしており、消化管出血を誤飲し、窒息状態に陥ったものと推測し、直接死因に「消化管出血、誤飲」と記載した死亡診断書を発行した上、その旨の説明を遺族に対して行いました。

遺族は、患者の死因は誤飲による窒息であるとして、流動食注入上の過失、気管カニューレ管理上の過失を主張して、損害賠償を求めてB病院の医師に対して訴訟を提起しました。

訴訟の過程で鑑定が行われ、鑑定の結果、患者の死因は、急性の心不全であるとされました。そこで、遺族は、医師の事後報告義務違反(弁明義務違反)を理由とする損害賠償の主張などを追加して、訴訟を継続しました。

裁判所の判断

裁判所は、遺族が患者が死に至った経緯及び原因に対する説明を医師に求めることは、人としての本性にも根ざすともいいえる至極当然のことであること、生命の重要性、高度の専門的知識を有する者が特別の資格に基づいて行う業務とされる医療の特殊性、診療契約上報告義務が認められることなどを指摘した上で、「自己が診療した患者が死亡するに至った場合、患者が死亡するに至った経緯・原因について、診療を通じて知りえた事実に基づいて、遺族に対し適切な説明を行うことも、医師の遺族に対する法的な義務であるというべきである」として、医師の遺族に対する弁明義務(顛末報告義務)を認めました。そして、本件の医師の死因に対する誤りは医学上の基礎的な認識を欠いていたために犯した誤りであること、もう少し医師が配慮してくれれば救命ないし延命が可能であったのではないかという、あきらめきれない強い無念の思いを遺族に対して抱かせずにはおかない面を有するものであること、訴訟中も鑑定までの間、誤った事後説明による主張・供述をしていたこと、を指摘して、医師に不法行為上の過失があるとして、慰謝料40万円、弁護士費用10万円の支払いを認めました。

まとめ

医師には弁明義務(顛末報告義務)が認められ、弁明義務(顛末報告義務)に反したとして損害賠償が認められる場合があります。この場合、損害として認められるのは、精神的苦痛に対する慰謝料が考えられます。

この記事の執筆弁護士

弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員 医学博士 弁護士 金﨑 浩之
監修:医学博士 弁護士 金﨑 浩之弁護士法人ALG&Associates 代表執行役員
保有資格医学博士・弁護士(東京弁護士会所属・登録番号:29382)
東京弁護士会所属。弁護士法人ALGでは高品質の法的サービスを提供し、顧客満足のみならず、「顧客感動」を目指し、新しい法的サービスの提供に努めています。

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